第5話「恋の審判」
「……え? あ……けど、サトミ様は? どういうことですか? だって、これでいくと彼女も知ってないと……」
「その通り。聖女サトミも協力者なんだ。あの子は国を救ってくれた平和の象徴で、俺の王妃として結婚するように父から要求されていたんだが、それは絶対嫌だと断っていたんだ」
「待って……! 待ってください……お芝居だったなら、殿下がその後のすべての汚名を一人で着たってことですよね? 殿下はそれで、良かったんですか? だって……」
彼は損しかしていない。
今、彼は本当に酷いくらいに国民に馬鹿にされていて……けど、それをロシュ殿下自身にそのまま言えなかった私は俯いた。
「俺が少しの間悪く言われるだけで、女性二人が一生を左右するような意に添わぬ結婚から逃れられる……なんてこともない。何を迷うことがあろうか」
私はそれを聞いて、自然と王族に対する礼を取った。
全然、ロシュ殿下は可哀想なんかじゃない。ううん。自分が決めた訳でもない結婚を強制されそうだった可哀想な女性を二人救ってくれたんだ。
「……貴方は立派です。ジェシカ様とサトミ様のお二人が望まぬ結婚をせぬために、自分は汚名を。国民の指導者として相応しいお方です」
「そう誰もが誤解して貰えるように、俺は動いた。将来的に若い時は少々馬鹿をしたらしいが、今はまともらしいと言われる程度だ。別に良いだろう」
「殿下……」
私はそれ以上何も言えず、なんとも言えない気持ちでいっぱいだった。だって、それって彼が損してることで、二人は幸せなのに彼はそれで良いと言って居る。
「人の本質を見ることもなく、誰かを馬鹿にする奴には馬鹿にさせておけば良い……そちらの方が、人を容易に見られると思わないか。現に君は俺が馬鹿で嫌な男だと思っても、慰めてくれようとした訳だ」
「ですが! 私は殿下が素晴らしい方なのに、今回の件で悪く言われることが嫌です……本当は違うのに。二人は幸せになります……けど、いつかは真実として伝えるべきなのでは?」
「俺は誤解されることは、別に構わない。自分が悪く言われることもそうだが、良く言われることについてもあまり興味はない。なぜなら、俺は俺が今回したことについて後悔は何もないからだ。仲の良いジェシカと国を救ってくれたサトミが幸せになり、二人は俺にありがとうと感謝してくれた。他の誰が何を言おうが、自分が満足しているなら、それが一番大事なんだ。誰にもわかって貰う必要などない……違うか?」
「いいえ。その通りです。殿下……尊敬します。私にはとてもできないので」
利他の精神と自分は何を言われても構わないと言える豪胆さ。彼こそ王族にふさわしい人なのだわ。顔を上げればロシュ殿下は先ほどの情けない様子とは違う、圧倒的な王者の風格を纏っていた。
その時に私は、気がついてしまった。
殿下がここで海を見ながら黄昏ているのも、ただの演技の一環で二人の女性が幸せになれば、自分は悪く言われても良いと思っているから……それっぽく見せているだけ。
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