第6話「身分違いの恋」
「これは、絶対に秘密にしてくれ。誰かに知られれば、面倒なことになるからな」
「もちろんです! 私は口が固くて、有名ですから!」
こんなにも……素敵な殿下の頼みならば、私とて聞かざるを得ない。外見も良くて中身も素敵なんて、反則過ぎて……恋の審判はレッドカード出すしかない。
私が両手を組んで目をキラキラとして彼を見つめれば、なぜかわかりやすく、にやっと悪い笑みを浮かべた。
「……いやー……なんだか、勢いで秘密を明かしてしまったが、不安になって来たな。ところで、身分違いの恋に興味があるらしいな」
え? さっきの冗談の話? 確かに……物語としては。私が当事者でなければ……興味はあります。
「あ。そうですね……身分違いの恋に興味はあります。だって、なんだか楽しそうじゃないですか」
何の話だろうと首を捻りながら私がそう言えば、殿下は微笑み頷いた。
「俺は王族の身分上、本来なら結婚出来る女を選べないんだが、二人の女に逃げられとても可哀想な状況だから、身分違いの恋をしても今なら国民も納得すると思わないか」
「……え? そうですか。そうですよね……そうですとも。身分違いの恋、私も応援します!」
「では、俺と結婚しよう。それが良い。ここでの懸念材料はすべて解決する。王族と平民の恋は何百年単位で久しぶりだから、国中の噂になって俺が振られたのどうのという噂はすぐに消えるだろう」
「いや、私が相手!? ままま、待ってください。それはちょっと。困ります!」
当事者は絶対嫌なんですけど……だって、私は単なる城のメイドで、王妃になんて無理でなれないですって!!
「残念だ。秘密を知ってしまったからにはもう、お前をそのままにはしておけないんだが?」
整った顔に浮かぶ悲しげな表情になんて、絶対に負けない。ここで頷けば大変なことになってしまうことはわかっていた。
私は両手をぎゅっと握り、彼に言い返した。
「絶対、誰にも話しません! 大丈夫です。貝になります。ご心配なく」
「でも、貝ならば熱されれば口を開けてしまわないか? とても心配だ。結婚でもして、俺が直接君を見張るしかないな。」
深刻そうな顔で、余裕綽々なんて絶対おかしいよね! そうだ……この人、演技が上手かった!
「知られたくない秘密を私に話したのは、そっちですよね?! いいえ。待ってください。もしかして……計算なんですか?」
元婚約者と国を救ってくれた聖女を助けるために、ロシュ殿下はあれだけの大がかりの芝居を打ったのだ。
こうして失恋しているところを慰めに来た自分に興味のあるメイドを使って……国中の噂を消すつもり?
待って……そうよ。
どうして、ロシュ殿下は、こんなにわかりやすい場所で悲しんでいたの……? まるで……誰かの慰め待ちなんじゃない?
もう……何もかも、もう信じられない。
もしかしたら、まんまと彼の思惑通りに動いてしまったのではと思った私は、一歩後ろに後ずさった。ロシュ殿下は眉を上げて、一歩近寄った。
まるで俺はお前を逃がさないよって、そう言いたげに。
「……さてね。それでは、可愛いメイドさん。俺と王族との身分違いの恋をしよう。きっと、これからの人生が楽しくなるよ」
こ、これって……もう、私の運命が決まったってことだよね? だって、ロシュ殿下から、一介の平民が逃げられる訳もないもの。
ほんの十分前まで、二人の女性に捨てられた不憫な王子様だったはずなのに。
楽しそうに微笑んだ王子様は、そもそも私の慰めなんて必要なかったみたい……。
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