第61話 情けは人の為ならず

 国王との対面当日になってしまった。

雲1つない空。緊張もしているけど、青空を見ていると自然と気分も良くなる。

きっと今日はいい日になるはず。


アウラさんとの待ち合わせ場所はいつもの公園だ。


 朝の公園は閑散としている。広い敷地に咲き誇る花と、そんな花を座りながら眺めるのに適切なベンチ。少し歩けば大きな湖が。

そんな自然豊かな場所であれば散歩している人が1人くらいいるものだと思っていたのだけど、全然人がいない。


「わぁぁ! お花いっぱーい!」

珍しい。10歳過ぎていないくらいの小さな男の子が朝の公園を駆け回っている。親御さんが見当たらない。

……もしかして迷子なのでは?


 キョロキョロと親御さんがいないか見回していたら

「とりだーー! あっ!」

目の前で男の子の右足が小石に躓いて転びかける。

咄嗟に走って受け止めようとするが間に合わない。

だが、男の子は躓いた足とは逆の左足でなんとか踏ん張り、右足も遅れる形で地面に足をつける。

無駄のない動きだ。


「だ、大丈夫?」

「はい!」


 元気良く返事しながら、男の子は人懐っこい笑顔を見せた。

とりあえず近くのベンチに座って、事情を訊くことに。

「どうして朝から1人でここにいるの?」と。


「ぼくの保護者がじょーしに呼ばれたからついてきましたが、退屈だったから抜け出しちゃいました」

「え? まさか、黙って出たってこと?」


「えへへ!」と男の子は笑う。純粋な笑顔だ。決していたずらっ子の笑みではないはずだ。


「この時間は人が少ないし、保護者さんのところまで送るよ」

「ありがとうございます!」


 男の子は「ユッカ」と名乗ったので、

「ルーシェって呼んで」と返す。


「ルーシェお姉ちゃん!」

「ぐっ……!」


か、可愛い……!

前世では一人っ子、今世では末っ子な私が初めて「お姉ちゃん」呼びされた。

「手をつなぎたいです……」

ダメだ。ユッカくんのお願いならなんでも叶えてあげたくなる。


……ん?ユッカってどこかで聞いた名前だ。小説に登場していたかな?

改めてユッカくんを観察してみたが、至って普通の子どもだ。

風に吹かれて少し飛び跳ねている茶髪に、嬉しそうに私を見つめる茶色の瞳。

小説のメインキャラクターに子どもが登場していたこともない。気のせいか。


 その後はユッカくんのマイブームである雲の観察について話しながら、言われるままに道を進む。

「ここからすぐなので大丈夫です。ありがとうございました!」

「いいえ。あまり保護者さんに心配かけないようにね」


 ユッカくんは一度振り返って手を振った後、駆けていった。

そういえば、この先は魔法学園しか建物がない。

もしかして保護者ってうちの先生ってことかな?


「ん? 何か忘れてるような……あ」


 ダッシュで公園に戻ると、

「アウラくんの存在が忘れられたかと……」

と瞳をウルウルさせたアウラさんがベンチに座っていた。

どうやら、精霊からの誤解を解くという重大任務が私を待っているようだ。

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