第11話 スピーチは任せてください
ロキをポカポカ叩きながら光属性のクラスの方を見ると、ちょうどクレアの番だった。
光属性のテストは少し特殊である。他の属性とは違い、回復に重きを置いているからだ。
少しだけ自分に傷をつけて、自分の魔法で傷を塞ぐ。
光属性だけ痛みを伴うというのは複雑な気分だが、事前に痛みを緩和させる薬を使っているらしい。
「小さな針がほんのちょっとだけ皮膚に触れたような感覚しかしないので大丈夫ですよ」とクレアは言っていた。
彼女は自分の手に、テスト用のナイフで小さな傷をつける。
そして、反対側の手で傷口に手を近づけた。
最初からなかったかのように自然に傷が消えた。光属性ってすごい……!
光属性を持って生まれたものは医療系の職業に就く人が多いらしい。
クレア自身も将来は医療に携わる仕事がしたいと言っていたことがある。
私(前世)は小学生の頃から将来の夢を聞かれても
「とりあえず生きていられれば何でもヨシ」と答えていたので、心の底からクレアを尊敬する。
考えなしで生きてきた結果、ブラック企業に入社して週7で働くことになってしまったことは今では遠い過去だ。
テスト後、クレアと食堂のメニューを眺めていた。頑張ったご褒美として値段が高めのものにしよう。
なんとなくだが、悪意を持ってこちらを見ている人たちがいる気がする……
私には心当たりがないので、恐らくクレアが気に入らない人たちだろう。
大体の生徒たちはクレアに友好的だが、時々冷たい態度の人もいる。
これはクレアが元々、貴族の子ではなくマーガレット家当主の養子であることが原因だ。
クレアの過去は小説の序盤の時点で明らかになっている話である。
幼いときのクレアは商人であった父親と暮らしていたが、父親は突然の病で亡くなってしまう。
既に母親は他界しており親戚などもおらず、身寄りのない彼女をマーガレット家が迎え入れた。
マーガレット家当主とクレアの父親はエルフィン王立魔法学園でのクラスメイトであり親友だった。
卒業後も交流は続いていたため、クレアとも面識はあった。クレアに身寄りがないと知り、当主は親友の娘を自分の子のように育てると決めたのだ。
当主の妻や子供たちも快く迎え、現在も休日は一緒に出掛けたりしているらしい。
それを知ったときの私は
「なんていい人たちなんだ……」
と感動したが、血筋とかにうるさくプライドの高い貴族の子はクレアが気に入らないらしい。
そんなことを思い出していたら、明らかに敵意のあるお嬢様×3がやってきた!
リーダーっぽい人が1人、取り巻きっぽい人×2なのって謎の安心感がするな。
「クレア様」
「なんでしょうか」
クレアも自分のことを邪険に扱う人がいることを分かっている。
今思うと私に
「友達になってください」
と言ったのはとても勇気のいることだったのかもしれない。
彼女は威圧感に臆することなく返事をした。3人組のセンターの人が話し出す。
「あなた、貴族の家の人間ではないですのよね?」
「質問の意図が分かりかねますが、私はマーガレット家に養子として迎えられています」
3人とも鼻で笑う。ムカついてきたがクレアは自信満々な目をしている。これくらい慣れっこなのだろう。
「ルーシェ様? 貴族の血を引いていないものと一緒にいるのはやめた方がいいかと」
お、私を味方にしようとしている。だがその手には乗るわけがない。
「なぜ私の人間関係にあなたたちが口を出すのですか?」
3人が固まった。この勢いで私は話を続ける。
後からロキやクラスメイトたちに教えてもらったのだが、この3人はテストの結果があまり良くなかったらしい。
つまり、これはただの八つ当たりだったのだ。
「あなたたちはクレアに何をしてほしいのですか。ただ嫌みを言ってストレスを発散したいだけでは?」
「そ、それは」
彼女たちは黙ってしまった。よし、これでもうクレアに絡んでこないだろう。
「他に用がないなら失礼します。行きましょう、クレア」
「はい!」
似たようなことが前世でもあったな。
いじめっ子たちに囲まれていたあの子の手を私が引っ張って
「こっちで遊ぼう!」
と声をかけたのだった。
私とクラスが違っただけで大泣きしていたあの子が、今では人気作家になったのだ。そしてその世界に転生するとは……
人生何があるか分からないなぁ。
無事に昼食を買えた私たちは、ロキとノーブルが合流するのを待っていた。
「あの、ありがとうございました」
「……あれくらいどうってことないわ。もうあの人たちも声をかけてこないでしょう。かけてきたら何回でも私が返り討ちにするから」
クレアは嬉しそうに笑っていた。今日もクレアの笑顔が見られてとても嬉しい。
私も笑顔になってしまう。
私はクレアとノーブルの結婚式で絶対に泣く自信がある。披露宴のスピーチも全て任せてほしい。
まずは2人が両思いになるところからだが。
この思いをロキに話したら
「まずは筆記テスト、頑張れよ」
と言われた。ぐうの音も出なかった。
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