第12話 生誕の祝祭
「次の休日は生誕の祝祭がある。僕の甥のお披露目もあるんだ。僕は城から出ることはできないが、よければ3人も来てくれると嬉しい」
「必ず行きます!」
「私も行くわ」
生誕の祝祭ってロキが鍵を授ける日じゃない?
心配しつつ横目でロキを見る。
「おめでとう。俺も参加する」
思ったより焦っている様子はない。
恐らくノーブルに正体がバレるリスクはないのかもしれない。ロキのことだから大丈夫だろう。
翌日。祝祭は明日に迫っている。
一緒に学校へ行きながら、祝祭のことを尋ねてみることにした。
「そういえば祝祭に参加するって言っていたけど、鍵も渡すのでしょう? その時だけ抜け出すの?」
「それは大丈夫だ。鍵のことはお披露目が終わって国民たちは帰る頃に、王族と俺だけで行うからな。お披露目が終わったあとは適当に理由を付けてお前とクレアとは別行動をとれば大丈夫だろう…………あ」
「どうしたの」
何故か遠い目をしている。本当にどうしたのだろうか。
「ノーブルの目の前で鍵を渡さないといけないことを忘れていた」
「祝祭は明日よ」
ロキは天井を見ながら「変身したい」と言っている。精霊でも変身は難しいようだ。
「今まではどんな格好で渡していたの?」
「全身見えないようにフード付きのローブを羽織ってはいたが、声でバレるかもしれない」
「ノーブルって観察力が高いものね」
声と背格好が同じだと、ノーブルには気づかれてしまうかもしれない。彼は仕草とかで誰か見分けることができるくらいには観察力があるのだ。
加えてロキはかなり声がいい。イケボというやつだ。
話しながら廊下を歩いていたら、あっという間に教室についた。私たちが一番乗りのようだ。おかげで人目を気にせずに話を続けられる。
「せめて声を変える魔法があればいいのにね」
「そんな魔法は……いや、魔法はないが薬ならあるかもしれない」
ロキは急いで教室を出た。そして10分も経たない内に戻ってきた。
「こうなることが視えていたみたいだったな。助かった……」
「よく分からないけど解決したようね」
ロキの手には謎の液体があった。緑系の蛍光色であまり美味しそうではない。
「薬品に強い知り合いにもらってきた。少しの間だけだが声が変わるらしい」
「あら便利。じゃあ明日は大丈夫ね」
「クレアにもバレないように、頼んだぞ」
「うん、こっちは任せて」
祝祭当日。城下町の噴水前に2人と待ち合わせしているのだが、どうやら私が一番乗りのようだ。
「少し早すぎたかしら」
「そこのきみ!1人なら一緒に遊ぼうよ!」
おや、どこかでナンパが? そう思い辺りを見渡してもそんな人はいない。独特な空耳だったようだ。
今日の私のミッションはロキが別行動の時にクレアに違和感を抱かせないようにすること。
どうやら彼はノーブルやクレアに正体を明かす気はないみたい。
『ダメ』ではなく本人の意思によるようだ。
「え、無視?ね……」
「お前、早いな」
お、ロキが来た。今なにか飛んでいった?
まぁいいや。
「ちょっと浮かれちゃって……早めに家を出ちゃった」
「ナンパに気づかないのは浮かれているのレベルを越えているが。お前は色んな意味で目が離せないな」
ロキは幼子を見るような目で私を見る。
精霊感覚だと子供かもしれないけれど、一応人生2回目なんだよ!
……自分で言ってて虚しくなってきた。
「すみません! お待たせいたしました!」
「大丈夫、俺も今来たばかりだ」
「私も来たばかりよ」
クレアは桜のような色のワンピースを着ている。一緒に遊ぶときにも思うのだが、彼女は私服が清楚で可愛い系が多い。それを着こなすクレアも可愛い。
ロキはというとやっぱり黒メイン。恐らくこのあとローブを着ることも想定しているのだろう。
事前に聞いた話では、祝祭では生まれた子を国民の前で初めてお披露目をするらしい。
といってもメインは鍵の贈呈らしいので、表向きの祝祭自体はすぐに終わるのだとか。国民たちは近くの店で美味しいものを食べたり飲んだりする。
「お城の下へ行きましょう!」
クレアは楽しそうに歩き出す。私とロキも後に続く。
お城の下についたとき、ちょうどノーブルの甥っ子がお披露目されていた。
ちなみに、生まれたのはちょうど6ヶ月前だ。母親に抱っこされてスヤスヤと眠っている。元気そうで何よりだ。
ノーブルは第一王子……兄の隣で微笑んでいる。
ちらりとクレアの様子を覗くと、彼女はノーブルが遠い存在に感じ始めたのか、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
いくら私たちが貴族の娘といっても、彼は一国の王子だ。この前も腕相撲大会をしたばかりだったから私も忘れかけていたわ。
お披露目が終わり、国民たちは各々移動し始めた。
「悪い、ちょっとお前たちだけで飯でも食っててくれ」
「はーい。じゃあ、あそこのカフェにでも行こっか」
「わ、分かりました」
ロキはいそいそと城の方へと歩いていった。
クレアは「??」となっていたが、私が普通に見送ったからか深くは考えなかったようだ。
2人でカフェのランチを食べた。美味しい。
ロキとノーブルも食べられたらよかったんだけどな。
食べ終わる頃、クレアは悩んでいる顔をしていた。
「どうかしたの?」
「その、ずっと気になっていたのですが……」
どうしたのだろう。ノーブル関係かな?
やはり先ほどの彼女の顔は、ノーブルとの距離を感じた寂しさを意味するのだろう。
「ルーシェ様とロキ様はどのような関係なのですか?」
「………」
ノーブルについてじゃなかった。
「ルーシェ様?」
「あ、いや、予想外の質問だったからつい……」
むせかけた。あっぶな。クレアは何か勘違いしている気がする。
「私とロキの関係かぁ。少なくともクレアが考えているような関係ではないわよ」
「えぇ!?」
どうしてそんなに驚くのだ。パッと見は普通の友人のはずだが。
「ロキ様があまりにもルーシェ様に対して献身的だったので、勘違いしてしまいました」
「うーん、あれは過保護って感じじゃない?よく子供扱いしてくるし」
クレアは「これからに期待します」と不思議なことを言っていた。
2人でカフェを出ようとしたとき、私たちより先に会計を終わらせた青年が店を出ていくところを見た。
美しい白色の長髪。中性的な顔立ち。
私はこの人を知っている。でも、思い出せない。
「ルーシェ様? 突然ボーッとされていましたが大丈夫ですか?」
「……大丈夫。お会計しましょうか」
このあと、合流したロキにも「お前、幽霊でも見たような顔をしているな」と言われた。
何故かは分からないけど、さっきのことを誰かに話そうとは思えなかった。
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