第10話 テスト本番です

 それから3日経つが、教室で話すロキはいつも通りだ。

彼は今日も私のお金で高級ハンバーグ定食を食べていた。

いつも通り怒る自分と、安心してしまった自分がいる。


 色々悩んだりもしたが私の考えは固まった。


「もう祝福もらっちゃおっかな~て思うんだけど」

「時々お前は馬鹿というか命知らずというか…」


 呆れられた。予想はしていた。


 放課後いつも通りロキと練習場所の森まで歩いている時の話だ。


「あの日から考えてそれか? 度胸ありすぎないか?」

「祝福って呼ぶ限りは死んだりはしないのでしょう? ……死より怖いものはないわ」


「祝福は時に呪いにもなる。死なないとは言いきれない。だから五大属性の精霊以外の祝福は受けない方がいいんだ」


 ロキは突然立ち止まった。精霊である彼は祝福の恐ろしさを知っているのだろう。


「それにね、ロキ。私にはそれについて考える余裕があまりないの。ほら」


「お二人とも~! お待ちください!」


大声で私たちのことを呼び止めながらクレアとノーブルが走ってきた。


「……そうだな。今のお前はテストで手一杯か。筆記も危ないんじゃないか?」

「ソンナコトナイヨ」


 友人によるスパルタ勉強会を思い出した。

今、目の前で鬼の形相を浮かべているのはお人好しで心配性の精霊さんだけど。



 なんだかんだでテスト当日になってしまった。

大丈夫、一週間の特訓のおかげでコントロールできるようになっている。


 テストの内容はグラウンドに各クラスごとで集まり、1人ずつ魔法を発動するのだ。

前世での体力測定を思い出す。体育だけは得意だったなぁ。


 ノーブルの番だ。おぉ、先生も満足している様子。

手のひらに浮かぶ炎は消えることなく安定している。ロキが理想と言っていた大きすぎず小さすぎない丁度いい大きさだ。


 ロキは言わずもがな満点だ。本人は自分のことより私の結果が気になるそうだが。


「次、ルーシェ・ネヴァー」

「はい」


光属性のクラスから視線を感じる。クレアだな。 

ノーブルもロキも視線が痛い!


 大丈夫。練習通り練習通り。私はできる子。これが終わったら美味しいご飯を食べるんだ!


 そう言い聞かせながら手のひらに魔力を集める。未だに魔力を集めるとかよく分かっていないけど、とにかく魔力集まれと念じていたらなんかできる。


 炎が出てきた。ロキがしていたときと同じくらいの大きさに調整する。もう少し小さくなれ…なってくれ…


「はい、大丈夫ですよ」


 先生からOKが出た。クラスメイトから拍手が送られる。え?他の人の時は拍手されていなかったよね?


 嫌な予感がしながらロキとノーブルとクレアの方を見る。ノーブルとクレアは穏やかな笑みをロキは楽しそうな笑みを浮かべていた。


「クラスメイトから褒めてもらえてよかったな」


 そうだけど! 嬉しいけど! 皆からの温かい視線が恥ずかしい!

てかなんで拍手されているの!?

理由によってはロキのことを本気で怒る必要がある。


と、思っていたら、クラスメイトの人たちが興奮した様子で近づいてきた。


「じ、実は私たちは入学からほとんど会話もできていないルーシェさんと仲良くなりたいと思っていました。そしたら偶然、特訓をしている姿を見てしまい…」


うん、なんとなくこの先の展開が読めてきた。私にとって最悪の展開。


「私たちに気づいたロキさんに色々と教えてもらったのです!」


やっぱりそうだったか。


「何でこいつを買ったの? ケーキ?肉?」

「俺の食欲への信頼が厚く、造詣が深い。いいことだ」


 ロキの『食欲』は何かの研究分野なのだろうか。いや、違うだろう。


「私たちは城下町にあるスイーツのお店で1日に3つしか販売されない幻のケーキを用意してロキさんと交渉しました」

「あっさりと交渉は成功し、ルーシェさんが初めて魔法を使ったのは1週間前だと教えてもらいました! こんなに早くコントロールできるようになっているのはすごいです!」


 恐らく私も知っている超レアなあのケーキか…


意外と私の情報に対する対価が重いな。

正直逆の立場なら…まぁ魔法を使うのがすごく上手ってことくらいは話してしまうかもしれない。


 ロキはいつの間にかクラスメイトたちに(お菓子で買収された後)私のことを話していたようだ。

それで皆は私の特訓をこっそり応援してくれて、良い結果を出せたことに心の底からすごいと思ってくれているらしい。


 入学以降、ロキやノーブル、クレア以外の生徒とは距離をとっていたので些か照れてしまった。


「今度コツを教えてください!」

「え!?」


 尊敬の眼差しが眩しい……

こんなに褒められるのは高校3年生の運動会でリレーのアンカーを務めて一着になった時以来だ。


「友達ができてよかったな」と彼からの視線を感じた。

思わず嬉し…


「いや私の魔法の経験についてが筒抜けだったってこと!?」


 私はクラスメイトたちの前ではずっと

「実技テスト? 余裕ですよ?」

という雰囲気を醸し出してこの一週間を過ごしていた。

皆私が初心者って知ってたの? 恥ずかしい!!


「恥ずかしい! プライバシー守れ! 私よりケーキが大切だったのか!」

と立場が逆だった時のシミュレーション結果は記憶から消し去り、ポカポカとロキの背中を叩く。

「悪かったな…って一撃が重いな」

と言いながらロキは、何故か笑っていた。


「いい腕の動きだ。ルーシェのその強さ、僕も見習わなければ!」

「こいつを見習うな…」

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