第9話 祝福って予約制?
翌日から私の魔法特訓は始まった。テストは来週。たぶんヤバイ。
というか入学してから一回も魔法の授業をしていないのにテストはおかしくないか?
といいかけたが、一回も魔法を使っていない私の方がおかしいみたいなので黙っておこう。
クレアとノーブルとロキに森の開けた所に連れていかれる。
3人の目が本気のようなので私は言われるままについてきてしまった。
「ルーシェ、まずはちゃんと炎を出せるかどうか確かめたい」
「やってみる」
私が手を構えると3人は距離を取って緊張した面持ちで見てくる。
炎属性は攻撃に適しているので危険性があるらしい。
同じ炎属性であるノーブルと回復ができるクレア、そして精霊であるロキがいるから練習ができているのだろう。
小説では確か、魔法を出すときは手のひらに物が乗っている感覚を想像するって書いていたな。
手のひらの上に火の玉が乗っているのをイメージしてみる。
次の瞬間、手のひらから大きな火の玉が出てきた。
段々大きくなっていったが、ロキが私の手に水をかけて消した。用意がいいな。
「ルーシェ」
「うん」
「お前の課題は加減だ」
「カゲン…………?」
火力が足りないと言われるかと思ったが、そういうわけでもないみたいだ。
「お前は魔力が平均よりもかなり多いようだ。コントロールができ始めたら少しはマシになるだろうが、今のお前は加減ができずに必要以上に大きい炎を出してしまっている。それを繰り返していたら欠乏症でぶっ倒れるぞ」
ノーブルがすごい頷いている。経験者なのだろう。
欠乏症は炎属性と樹属性の人に起こりやすいらしい。
樹属性の魔法を見たことはないが、植物の成長を促すものだそう。
だが、種から開花まで一気に成長をさせると欠乏症になりやすくなる……と3人が教えてくれた。
「ロキの言うとおり、ルーシェの魔力量はすごいみたいだな」
「家族で魔法を使えるのは私しかいなかったから、魔力量とかもいまいち分からないのよね」
この世界における、魔力を持つ人と持たない人の違いは判明していないらしい。
精霊からの祝福はどの人にも等しくされているというのに。不思議なことだ。
エトワール版世界七不思議と名付けよう。
「もしかしてですが、何かあった際に魔法を使える人がいないと止めるのが困難になるから使わせないようにされていたのでは」
「ノーブルとクレアは指導係がいたんだろ? お前はそれもなかったのか?」
頑張って幼少期について思い出すが、屋敷でヤンチャして怒られた記憶とケガをしまくった記憶しかない。
遡ろうとすると頭が痛くなるので7歳あたりで思い出すのをやめかけた……
が、1つだけ思い出した。思い出してしまった。
けれど、ここで話すべきことではないことだった。
「………そういえば8歳くらいのころ、知らない人が来てたような? でも結局何もせずに帰っていった気がする。お手上げってことだったのかも」
「指導係でもルーシェの魔力の制御は難しかったのか」
「あ、私の魔法に耐えられなかったわけではないわ。きっと、私とお兄様とお姉様のイタズラに耐えられなかったのよ」
3人が固まる。なんとなく何が言いたいのか分かった。
「ガキの頃のお前はヤンチャそうだ」
「それは言わない方がよかったと思うぞ、ほら」
「ふふふ…私はいつだって淑やかな令嬢ですよ?」
「淑やかな令嬢は関節技を決めないんだよ! やめろ!」
このあとも何回か練習してみると少しずつ加減が出来てきた。
今日で終われたらいいが、テストの日までなるべく毎日するらしい。明日からも頑張らないと。
「では、ルーシェ様のご家族は基礎からこの学園で勉強させるつもりだったのでしょうね」
「そう考えると危なかった気もするけど。私が魔法を使いたいと思わなかったから放置していたのでしょうね。折角皆が付き合ってくれるのだからテストの日までに完璧に仕上げて見せるわ」
その日の夜、私が眠りにつくと暗闇の中にいた。
「どうしたの? お茶とか出せないわよ?」
「2回目なのに慣れすぎじゃないか?」
的確なツッコミと共にロキが現れた。
「お前に聞きたいことがあってな。『知らない人から何かされた』ということについて詳しく思い出せないか」
「……」
ロキはじっと私が話し出すのを待つ。
……少なくともあの場所で話すつもりはなかった。誰にも話さなくてもいいかなとも思った。
でも、ロキには誤魔化せないようだ。
どうして分かったのだろう。
「練習の時に思い出したの。知らない人が家に来て言っていたこと。その人がどんな人だったか、見た目も性別も思い出せない。綺麗に消されているわ」
「でも、1つだけ思い出せた。
『成人する時にキミに祝福を贈ろう』と言ったことだけは覚えているわ」
ロキは目を見開いて固まっていた。いつものロキらしくない。どうしたのだろう。
こっちまで不安になるじゃないか。
「ロキ?」
「いや悪い。驚いただけだ。……あいつらは生まれた曜日の人間だけを祝福するというルールは絶対に破らない。と、なると……」
ロキはそう呟いたきり黙ってしまった。沈黙が流れる。
「雷か闇か……時だな。五大属性の精霊以外でこの世界に存在する精霊は、この3精霊と俺、そして大精霊しかいない。
先に言っておくが俺ではないぞ。運命の精霊の能力は『運命の鍵』を作ることでしかないからな」
五大属性とロキ以外にも精霊はいるのね。知らなかった。いや、忘れていた?
「昔、サラマンドラが『雷の精霊は人間嫌い』と言っていた。精霊の"嫌い"は相当なものだから祝福などあり得ないだろうな。大精霊が人間に祝福を贈ることもありえない。贈るのなら俺にあんなこと……いや、なんでもない」
「つまり、闇か時の精霊に祝福を送られるかもしれないってこと?」
内容によっては私の人生は大きく変わるのだろうか。闇も時もスケールが大きい。とても強そうだ。
せめて五大属性の精霊たちの祝福と同じようなものがいい。私は平穏に今世を生きたいのだ。
だが私の望みを打ち砕くように、私の問いにロキは真剣な表情で静かに頷いた。
彼のこの様子からして、五大属性以外の精霊から祝福されることは相当大変なことなのかもしれない。
「ただ、五大属性の精霊に聞いても祝福の内容は分からないだろうな。何せ今まで一度も人間に祝福を授けたことのない精霊だ。本人に聞かない限りは分からない。大精霊が知っていればいいが……」
「その精霊たちの居場所は?」
「今度の儀式の時にサラマンドラに聞いてみるが、恐らく知らないだろう。あいつが知らなければ他の精霊たちも知らない。エルフィン王国にはいない可能性が高いな」
国外となれば学生である私だと限界がある。ロキは行けても肝心の私が行けなければ意味がない。
「とりあえず、私に祝福をしようとしている精霊の候補が絞れたのはよかったわ。何も知らないで成人の時を迎えて、突然祝福されるよりは絶対にいい」
「……今日は初めて魔法を使ったのだから疲れただろう。俺は帰る」
ロキは優しい笑みを浮かべながら自らの手で私の目を優しく覆った。私は夢の中であるにも関わらず気を失うように眠りについた。
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