第56話 魔女
「本当に宿の部屋?1人用の広さじゃないわ」
「アヴニールにはあるかもしれませんが、ミナヅキの宿でこんなに広い部屋はそうそうないですわよ…」
ラナさんの案内も、ゆっくりお話もできる。ということでセン様の部屋にやってきた。
セン様は好き勝手行動してはいるものの国から招かれた客なのだ。
そんな人に用意された部屋はそれはもうすごく豪華なのだ。
ラナさんが隣で驚いてはいるが、恐らく彼女に用意された部屋も同じようなものだろう。
「さ、座って座って~」
「コーヒーはあるか?」
「わたくしはミナヅキの茶に近い味のものを」
「キミたち遠慮がなさすぎないかい? ボクまぁまぁ偉い立場なんだよ?」
不満そうに言うが、テキパキとコーヒーと緑茶を淹れていた。いい人だな。
「ルーシェちゃんってこの茶葉が好きだったかな?」
セン様が持ってきたのはカルティエ様とのティータイムの時に飲んでいた時と同じ茶葉だった。
「はい、好きですけど…」
「合っててよかった。カルティエが教えてくれたんだ」
「そうだったんですね!」
カルティエ様、私の好きな茶葉を覚えていてくれたのか。嬉しいな。
「セン様、なぜ固まっているのですか?」
「ちょっと待って今尊さを噛みしめているから」
「ミナヅキにもそうやって仰ぐ方は時々いましたわ」
1分後、セン様が落ち着いたのでラナさんに事情を聞くことに。
「先ほど一緒にいたのは王国の騎士団でしたが、普段の護衛の方は?」
「本来はわたくしの騎士リンドウが共に来る予定だったのですけど…ミナヅキにいた時に魔獣に襲われて瀕死のケガを負ったのです。なので王国の騎士団から使者の方が馬車で迎えに来てくださいましたの」
「ミナヅキでも魔獣は暴走していたのか?」
「えぇ、ですが今は落ち着いていますわ。そこでエルフィン王国から要請を受けてこの辺りの魔獣を鎮めに来ましたの」
ミナヅキ編における魔獣との戦いが終わったということなのか。
シナリオ終盤でリンドウはケガを負ってしまうという場面があるが、それは今のリンドウの状態とも一致している。
だけど、魔獣討伐のシナリオが終わったとしても黒幕であるセツナは生きていて王国にいる。
作中に彼女らがエルフィン王国に訪れる描写は全くなかった…
つまり、シナリオが変わっているということだ。
空き教室の会話からして今の状況を作り出した原因にルリが関わっていると見ていいだろう。
「セツナのことを知っているかい?」
「もちろんですわ! つい最近、ミナヅキでは彼女の魔獣についての研究が違法だと明らかになったのですから。彼女は魔獣の生態調査だけでなく実際に魔獣を強化してミナヅキで暴れさせていたのですわ」
違法研究について明らかになったのならば手配書が出回るのも時間の問題かもしれない。
だけど、そうやって追い詰めたら…先ほどのように魔獣が人を襲う可能性がある。
慎重に行動しなければ。
「違法研究が明らかになったのならば騎士団たちが彼女の行方を探すはずだ」
「明日ノーブルに確認してみよう」
話がまとまってきた頃、「最後に」とラナさんが遠慮がちに私に声をかけてきた。
「魔獣の件とは別にあなたとお話がしたいのですけれど…」
「もちろん!」
ラナさんは口調などで性格が誤解されやすいが、とても繊細で普通の女の子なのだ。気丈に振る舞ってはいるが、騎士リンドウのケガも心配だろうし異国で1人は心細いはず。
……と思っていたが、どうやら話したいことは私の予想と全く違うようだ。
「ルーシェ様、あの時魔獣を一撃で仕留められていましたわよね?」
「は、はい」
無我夢中で魔法を放ったのだけれど、何かおかしかっただろうか。
「え、ルーシェちゃんって魔獣を一撃で仕留めていたの!?」
「魔力量が平均よりも多かったが、一度に使う魔力も多いのかもしれないな。その分火力も上がるだろう」
セン様は驚き、ロキは1人で納得している。
「つまり、ルーシェ様には魔法使いとしての素質が高いということですわ! 聖女だったご先祖様が書き残した『魔女』の話を思い出しますわね」
「あ、ありがとうございます?」
『魔女』という言葉にロキが少し反応しかけた気がしたが……特に何か言うわけではない。私の勘違いかな?
魔女の話は恐らく小説に登場したことはないが、授業で軽く触れられたことがあるので知ってはいる。
特別な杖を持っており、魔獣との戦いを得意としていたこと。
誰とでも仲良くなっていたが、家名を明かさずにいたので過去を知る者はいないということ。
魔獣との戦いが落ち着いた後、彼女はエルフィン王国の初代国王と婚約して初代王妃となったそうだ。
あれ、もしかしてロキが『魔女』という言葉に反応したのって…
チラリとロキの顔を見ると、私の視線に気がついたようで静かに頷いていた。
ロキが渡した鍵がきっかけで結婚したのだろう。彼女とは顔見知りってことか。
そして、彼女は使用していた杖が何故か行方不明となっていることでも有名だ。
歴史の専門家たちは行方について様々な説を検証しているらしいけれど…ロキたち精霊が杖の行方を知っていたり?
……さすがにないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます