第54話 悪役令嬢の考察
不思議だ。入学当初は絶対に近づかない、関わらないって決めていたのに、今では彼らに心配させないようにしないとって思っている。
………私たちの仲は良好なのだから、きっと処刑される未来は回避できるだろう。
懸念点は、ルリの言う『2度目の死』についてだ。あの時からずっと私の頭に残っている言葉。
ルリは『2度目』という言葉を使った。それに、『処刑ではなく誰かの手によって』とも言っていた。
彼女は『ここは小説の世界で、本来のルーシェは処刑される』こと、そして私が転生者であることを知っているのではないか?
私はそう考え始めていた。
そうでなければ『カルティエとルーシェが出会ったらどうなるか』なんてことは試さないだろう。元々私たちは接点がないのだから尚更だ。
何かしらの力で私が転生者だと知ったのか、それとも…彼女も転生者なのかもしれない。
このことについては次に会った時にルリ本人に聞くしかない。
私が殺される未来についても………
「なあ」
考察に夢中になってしまい、ロキがいるにも関わらず無言になってしまっていた。一緒に帰っているというのに。
会話がなくてもそわそわしないのはロキが2人目だ。
「どうかした?」
「その、悪かった」
ロキは本当に申し訳なさそうな顔をする。やっぱりノーブルに求婚された時に見えた小鳥に似ているな…
「え?」
「俺の秘密を一緒に背負ってくれていたことだ」
あ、私が黙っていたから怒っていると思ってしまったのだろうか。
そんなことは全くないのだけど。
「気にしないで、一緒に食パンを分けあった仲でしょ?」
ロキは「いつから気づいていた!?」と叫んだ。
「初めてあなたが夢の中に現れたときから似ているなって」
「そ、そうか」
気づかれていないと思っていたのか珍しくアワアワしている。この感じ、ちょっとクセになりそうだ。
「もしかしてだけど、何かと助けてくれるのって…あの時言ってた"礼"?」
私がパンを分けたことと、ロキにしてもらったことは釣り合わない。
もしもそのことで私が彼の自由を奪っているのならば、私は…
「最初はそうだったが、今は違う」
「そうなの?」
「お前やノーブル、クレアと一緒にいる時間が好きだからだ」
そうやって真剣に言われると、なんだか…
ん?なんだろこの感覚、今までになかった感覚だ。
「じゃあ、これからもよろしくね」
「あぁ、お前が無事に卒業できるか心配だしな」
「もしかして筆記テストの心配してる?」
何故かロキは答えてくれなかった。明るく笑うかと思ったのに。
少しだけ寂しそうな笑顔だ。
「あ、いたいた~!」
聞こえてきたのはセン様の声。
「げっ」
「ロキくん今『げっ』て言った?」
学園がある方角から来たので、恐らく視察終わりなのだろう。セン様はこちらに走ってきた。
「昨日も思ったのですが、馬車は?」
「ボク酔いやすいからさぁ~できるだけ乗りたくないんだ。あ、ルーシェちゃんが乗りたいなら呼ぶよ?」
「遠慮しておきます」というと
「もっとわがままでいいんだよ?」とまたまた親切なことを言ってくれた。
「やっぱコイツ敵か?」
「セン様は味方だってば」
「キミたち仲直りできたか~い?」
ロキは舌打ちをした。何気に初めて見たかも。
「お兄さんにも~お・し・え・て♡」
「か・え・れ」
このままだとロキが本当に怒りかねないので、鞄から取り出したクッキーを彼の口に突っ込んだ。
ロキは静かに咀嚼し始める。
「よし、落ち着いたね」
「精霊ってチョロい?」
「もうっ!セン様わざとでしょ!」
路上は長話するには適した場所ではないので、近くの噴水広場へ移動。
冷静に戻ったロキはセン様に自分の正体を話した。今回ばかりはセン様も煽らずに話をきちんと聞いていた。
「…ということだ」
「へぇ、あの2人は…って聞かない方がいいか。それで? 今回の魔獣の件、キミたちは心当たりがあったりするのかい?」
セン様は今までの試すような口ぶりではなく真剣に質問をしてきた。
「あぁ、それは…セツナという魔獣研究者が関わっている可能性がある」
ロキがそう言うと、セン様は一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。だけどまたすぐにいつもの笑顔に戻る。
「キミたち、ボクに相談して正解だよ。なんてったって」
胸を張ったセン様は衝撃の一言を放った。
「セツナはボクの叔母だからね!」
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