第53話 進歩
部屋を出てから、私たちは中庭に連れていかれた。
ノーブルたちは移動中、終始無言だった。
が、中庭に着いた時には覚悟を決めたようで、私たちに問いかけた。
その問いは、移動中に私が想像していた内容と同じだった。
「ロキは………精霊なのか?」
ロキは何も言わなかった。それを肯定を受け取ったのか否定と受け取ったのかは分からないが、ノーブルは話を続ける。
「入学式から1ヶ月経って、突然通うようになったけど…精霊がこの学園に生徒として通わねばならない事情があるのかい?」
「それ、は」
「ルーシェもグランディール帝国の魔法使いと親しそうだった」
突然話が私の方に振られたので「え」と声が出てしまった。
「さっき君たちの会話が聞こえたが、何か僕たちに黙って動いているようだ。魔獣という言葉もあったな。もしかして危険なことをしているのではないか?」
これ以上隠すのは難しい。けれど、彼らを巻き込むわけにはいかないのだ。
私は何も言えなかった。ロキは親しい人に正体を追及されることが始めてなのか私以上に動揺している。
「ま、待って 欲しい」
辿々しく言葉を紡ぎながら、近くの木の上からベルギアが飛び降りてきた。
「いつからいたの?」
「序盤」
この中庭は何故か生徒たちに不人気で滅多に人が来ないから、私たちは油断してしまっていた。
ベルギアが木の上を指差した。どうやら昼休みに木の上で昼寝をしていたみたいだ。
私たちの足音と声で目が覚めたらしい。
「隠し事 私、も クレア 謝罪」
「え?」
「ベルギア 違う パナケア」
「え? パナケアって…」
ベルギアは正体をクレアに打ち明けた。
クレアとノーブルは「え?」と言い続けている。
ベルギアは苦戦しながらだが、一生懸命説明した。自分は光の精霊パナケアであり、人間たちの営みを学ぶために人間のふりをして通っていることを。
もしかして、私とロキが正体について聞かれていたから…自分も正体を隠していたことを明かすことで、彼女なりに助けようとしてくれているのだろうか。
普段単語でしか会話しない彼女が接続詞を頑張って使いながら説明しているのだ。
「私、は 知ってる ロキ、とルーシェ いい子」
「ベルギア様…」
あまり表情を変えることがないベルギアだが、今ばかりは申し訳なさそうな顔をしていた。
「ベルギア、僕たちはロキとルーシェに怒っているわけではないから安心してくれ」
「でも、 少し…」
「ノーブル様は拗ねていたのですよ。ね?」
「そ、そうだな」
ノーブルは少し照れながら
「頼ってもらえなかったのが悔しい、と思ってしまっていた」と説明した。
ベルギアは「なるほど 人間 健気」と頷く。
この会話の最中もロキはずっと思い悩む顔をしていた。
「その…」
「ロキ、も 話そう?」
「あぁ。元はといえば俺が全てを黙っていたからルーシェにも背負わせることになってしまったし、ベルギアも慣れないことをすることになった。悪かった」
「今、全てを話す」
そう、覚悟したんだね。私もベルギアも静かに頷いた。
ロキは2人に自分の正体を明かした。
「センに指摘された通り、俺は精霊だ。炎のクラスに所属しているが炎の精霊ではない。王族が持つ鍵を作る精霊だ」
「鍵?」
「そうか、クレアは知らないんだったな。そこから話そう」
そこから鍵の説明も聞いたクレアは驚愕していた。当たり前のことではあるか。
「と、いうことは…ノーブル様の生誕祭も」
「あぁ。俺が鍵を作って国王に渡した」
「ノーブル様が一度ルーシェ様に求婚されたのも」
「その鍵が見えたからよ」
クレアは驚きの連続のようだ。私とノーブルの顔を交互に見る。
ノーブルも「基本的に王族の者以外は知らない話なんだ。黙っていてすまなかった」と謝ったが、
クレアは「驚きはしましたが不快になったわけではありませんからお気にならないでください」と答えた。
「鍵の話を知った上でルーシェ様は断られたのですか?」
「うん、ノーブルが義務感から求婚していたのは分かっていたし、私もそういう気持ちはなかったから…話していなくてごめんなさい」
「いえ、ルーシェ様は悪くありませんよ。これからも友達でいてください!」
「クレア…ありがとう」
そういえばノーブルは鍵を今も持ち歩いているのだろうか。
「そうだ。あの日以来、自室の箱に仕舞っているが久しぶりに持ち出してみようかな」
「え」
「ノ、ノーブル? それはもう少し後にしない?ね?」
「そうか? ルーシェがそう言うなら」
ノーブル以外の3人でほっと息をついた。
クレアはまた違う意味だろうが、私とロキはこれ以上混乱を起こしたくないという思いもあった。
ベルギアは「?」と首を傾げている。
たぶんまだ、クレアの恋心については知らないのだろう。
「黙っていて悪かった。俺の正体を知ったら友達でいてくれないんじゃないかって」
クレアとノーブルは大声で「そんなわけない!」と叫んだ。
「ロキ様が何者であろうと友人であることに変わりありません!」
「クレアの言う通り、君が精霊だったとしても友人であることは事実だ。そしてこれからも友として一緒にいたい」
ロキは少し面食らったように固まった後
「ありがとう」
と言い、微笑んだが、すぐにまた暗い表情になる。
「入学をした理由は好奇心からだったが、俺が生徒としてここに通い続ける理由だけは話してはならないんだ。精霊たちの問題だからな………これだけはダメなんだ」
そう、私がクロノス様に祝福の話をされて両親が暗示をかけられたこと。そして精霊たちと帝国に行ったことも話せないのだ。
特に、私たちが帝国に行ったときの事は説明が難しい。ヴィアちゃんは人間とは関わらないことを誓ったからだ。
そのため、カルティエ様とミシェル、アテナ様にプレン様、そしてセン様以外には
「エルフィン王国から来ていたビアヘロの商人仲間が助けた」と伝わっているらしい。
「大丈夫だ。僕たちはロキを信じているからな」
ノーブルとクレアは優しく頷いてくれた。
「もちろん、ベルギア様も大切な友達であることに変わりありませんからね!」
「君とはあまり話したことはなかったが、これからはたくさん話しかけてほしい」
ベルギアはほんの少しだけではあるが、
「うん」と言いながら口角をあげた。
「それで、セン様に話していたことなんだけど…」
クレアが夢で見た白衣の人間セツナについて、そして最近増えている魔獣被害の話をした。
「そういえば城の方でも騎士団が連日森の方へ行っているという話があったな」
「で、そこから色々あってセン様にロキが精霊だとバレてしまったみたいなの」
「あいつ…2人が聞いていると気づいてわざと言った気がするな」
確かに、精霊に気づかれずに盗み聞きができるセン様なら有り得る。でも…
「あの時、私に『味方』って言ってくれたのは本当だと思う」
「まぁ、胡散臭いが皇帝プレンが信頼する魔法使いだ。それに魔獣の問題への関心が高い…とりあえず敵ではないと見てもいいだろう」
やはり気にすべきは
「セツナ様は今日も宿におられるのでしょうか」
「回答 否 宿 退去済」
「行方をくらましたということか…魔獣の件に関わっている証拠さえ掴めたら僕から騎士団に報告できるが」
セツナについてはまた探すところからのようだ。情報を共有できる仲間が増えたといっても大変なのは変わらない。
セツナについて話していたら予鈴のなる音がした。
「あ、もうこんな時間」
「急がないと!」
私たちは教室へと駆けていった。
どこからか
「あなたたちの重荷が少しでも減ったのならボクは嬉しいです」
と、ルリに似ていて少し違う声が聞こえた気がした。気のせいかな?
授業開始のベルが鳴ると同時に教室に駆け込む。
担任の先生は相変わらず淀んだ瞳でこちらを見た後、気だるそうに「座れ」と言った。
「ギリギリアウトだな。まぁ、客人が来ていたから今回はいいが、次は点引くからな」
………どうやらこれは気のせいじゃないようだ。
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