第52話 昼休み
「昨日、魔獣が出現したという情報があった。森の外での出現は滅多にないことだ。気をつけろよ」
無精髭と淀んだ瞳を持つ担任の先生のホームルームにおける第一声はこれだった。
やはり昨日の魔獣出現はイレギュラーなのだろう。
登校中のロキも同じようなことを話していた。あと、二重属性についても。
二重属性の人は滅多に存在しないらしい。
条件は精霊たちにも分からないらしいが、
産まれた曜日+その前日か翌日の曜日の属性 という法則があることは判明しているそうだ。
そのあたりまで聞いたところで、エトワールシリーズに二重属性使いが登場していたことを思い出した。
と、言っても異国の魔法学園に通う学生である彼女と会うことはないのと、また頭痛がしてきたので今は置いておこう。
話を戻す。
『本来森から出ない魔獣たちが町に出てきて暴れている』
ということだが、かなり厄介なことだ。
魔獣はロキのような精霊か、セン様たちのような二重属性持ち、または強い魔法使いでない者が1人で立ち向かうと、苦戦を強いられてしまう。なので、昨日の騎士たちも複数人で行動していたのだ。
運が悪ければ魔力持ちであれど命を落とすかもしれない。
以前私たちがテストに向けて特訓した場所みたいに、何かしらの魔獣対策されている森もあるが大抵は魔獣が徘徊している。
セツナが現れたのと近いタイミングなのが気がかりだ。
そんなことを考えていた昼休み、ロキと私は担任の先生に呼び出された。
「帝国のお偉いさんがおまえさんらをご指名だとよ」
それにしてもうちの担任はあいかわらず個性が強いな。ちなみに個性は強いが小説内では特に出番が多かったわけではない。なぜだ。
担任に言われた部屋に入るとセン様がいた。
『また明日』と言っていたからなんとなく想像はできていたわ。
「やぁ! 昨日ぶりだね! ルーシェちゃんにロキくん!」
ソファーに座ってウィンクをしている。
「これも視察で?」
「そうだよ!帝国にはない魔法学園で一体どのような授業をしているのか知りたくてね。ついでにちょっとキミたちとお話しようかなって」
「昨日の魔獣のことか?」と、問いながらロキは机を挟んで正面にあるソファーに座ったので私も横に座った。
「うん。ルーシェちゃんを送った後、宿に戻る前に騎士たちに会ったから聞いたんだけど、ここ最近魔獣の活性化が著しいらしいんだ。なんとか騎士団の人たちで森の中に抑え込んでいたけど、昨日とうとう…ってところだ」
「それでお前は夜の森に1人で行ったのか?」
「なんで分かったの?」
セン様は半ば試す口調でロキに訊いた。
ロキは昨日と同じで焦ることはない。私はちょっとヒヤヒヤしている。
セン様ならロキの正体に気づくのではないかと。
「お前ならやりそうだと思っただけだ」
「うーん、てっきり…お姉さんと一緒にボクを尾行していたのかと思ったよ。ねぇ?」
場の空気が冷たくなった。昼休みってこんな殺伐とした時間じゃないよね?
セン様は笑顔ではあるものの作り物のようでどこか怖い。
「ねぇ、ロキくん…なんで昨日は自宅なのに自分で鍵を開けずにノックしたの?」
「…鍵を忘れたからだ」
「へぇ、それにしてもキミたちの家、壁が薄いよねぇ。ちょっと耳を寄せたら聴こえちゃうし、内緒話には向いてないんじゃない?」
まさか、セン様はロキたちが尾行をやめて帰ったのを見計らってノートさんの家に行ったということだろうか。
ボロボロの家だからドアで聞き耳を立てたら会話は聞こえてしまう。精霊に気づかれないように盗み聞きしたなんて…セン様も中々に厄介な相手のようだ。
さすがにロキも余裕そうだった表情が焦りに変わる。恐らく魔獣とセツナについて話していたはずだ。
「ねえ、お兄さんもお話に混ぜてよ。精霊くん?」
もうセン様は気づいているんだ。ロキたちが精霊であることを。
私たちの間に沈黙が走る。セン様が再び口を開こうとした瞬間だった。
「失礼します」
見計らったようなタイミングでノーブルとクレアが部屋に入ってきた。ノックがないなんて礼儀を重んじる彼らにしては珍しい。
「キミは…」
「エルフィン王国第二王子、ノーブルです。姉がお世話になっております」
「あぁ、確かに似ている。それで?何か用かな?」
クレアは戸惑いながらノーブルの後ろに立っていたが、ノーブルが私たちが座るソファーの横に立ったので、自然と彼女もその横に立った。
「ご歓談中に申し訳ありませんが、僕たちはこれから授業がありますので彼らの迎えに来ました。行こう」
ノーブルが促すままに私たちはソファーから離れて部屋の出入り口へと向かった。
昼休みが終わるまでまだ全然時間はある。
もしかして、ノーブルたちは今の話を聞いていたのだろうか。
「うん、確かにキミたちの学業を邪魔をしてはいけないね。話の続きはまた今度だね。あ、ルーシェちゃん」
「?」
「昨日、キミがボクを肯定してくれてから、ボクはキミの味方だってことは覚えておいて」
思わず立ち止まってしまった。振り向くとセン様はさっきまでとは違い、優しい笑みを浮かべていた。
「…はい」
その言葉を信じた私は返事をして部屋を出た。
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