第50話 帰り道は気をつけて

 セツナは魔獣研究のために聞き込みをすると言っていた。ならば、城下町で彼女を目撃した者がいるのではないか。


ということで放課後、城下町にロキと来たのだけど


「せ、セツナ!?」


 探していた相手は、堂々とカフェでコーヒーを片手に本を読んでいた。


「ん?悪いけど、君は誰だい?」

「覚えていないの?」


セツナは首をかしげる。彼女は私のことを覚えていないと言い始めた。


「本当にコイツか?」

「えぇ、見間違えるはずがないわ。白衣も着ているし…」


 人違いじゃないはずだ。だけど、前とは違いおどおどとしていない。


まるで、小説内でのセツナそのものだ。裏切る前の優しい研究者。


「とりあえず、一緒にお茶をしないかい?」


 警戒はしないといけないけど、話を聞く必要もあるようだ。彼女の言うことに従って着席すると、逡巡した後にロキも隣に座った。


「どうやら儂のことを知っているようだけど改めて自己紹介だ。セツナ。ミナヅキで魔獣について研究する者だ。ここにいるのも研究の関係でな。エルフィン王国ではどのような魔獣が目撃されているのか町の人に聞いていた」


 とりあえず自分とロキの紹介をする。ロキは本当に初対面のはずだけど…

私の名前を聞いてもあの時のことを思い出してはいないようだ。


「よろしく。それで、どこで儂に会ったのか教えてくれるかい?」

「それは」


 会った時のことを話しても「へー」としか言わない。

まるで姿だけは同じで中身は全くの別人のようだ。


「つまり、儂は魔法学園に不法侵入したあげく、出られないと言っていたのかい?」

「え、えぇ…覚えていない?」

「うーん、悪いがよく覚えていないなぁ。君たちのこともだが、ルリとやらについてもだ。ここ数日はずっと宿の部屋に引きこもって論文を作成したし…」


 それだと矛盾が生じてしまう。

 彼女が言うことは本当なのだろうか。生憎、ベルギアはここにはいない。一度会ったことのある私がきちんと判断しなければならないというのに。


「君のことは覚えていないけど、儂の研究について知っていたから嘘ではないと思うんだなぁ。もうすぐ日が落ちてしまう。儂は正面にある宿屋に泊まっているから何時でも来るといい」


 セツナは空き教室で会った時と同じ鞄を持って宿屋に帰った。


 カフェに居続けていても仕方がないので、私の家までロキと歩く。


「あいつはずっと籠っていたと言っていたな」

「でも、それだと矛盾があるのよねぇ…」


 そう話しながら曲がり角に差し掛かろうとした瞬間、大きな何かが目の前に現れた。


「ルーシェ!」


 私を庇うようにして、ロキが何かと私の間に立った。


「ロキ!?」


大きな爪のようなものが彼に突き立てられそうになり、思わず悲鳴が出そうになった。


「ガァァァ」


『大きな何か』の正体は魔獣だった。ロキが作った水の盾にぶつかって混乱している。


「ケガはないか!?」

「私は大丈夫、ロキは…」

「安心しろ無傷だ」


 よかった。自分を庇って誰かがケガするなんて心苦しいもの。


 魔獣が混乱している隙に、ロキは素早く水で檻を作って動きを封じた。

唸り声はやまない。


「そこの学生たち、大丈夫か!?」


 魔獣の咆哮を聞いたのだろう。騎士たちがこちらに駆けつけてきた。

水の檻に入れられた魔獣を見た途端、感嘆した様子の騎士もいた。


「これは君たちが?」


まずい、私たちはどちらも炎属性のクラスに所属している。


この様子だと学園に連絡があるだろう。そして、ロキが炎以外の属性が操れるとバレてしまう…!


「そ、それは…」

「これはボクがやったんだ。中々にいい感じだろ~?」


 その場にいる全員が声の主を探す。

彼は注目を浴びていることを全く気にしていないようで、堂々とこちらへ歩いてきた。


あれ、もしかして…


「ボクはグランディール帝国の皇帝直属の魔法使い、センだ」


 確かに、目の前にいる彼はどこからどう見てもセン様だ。ロキも「セン!」と驚きの表情を浮かべている。


「そうだったのですね! ご協力感謝いたします!」


 騎士たちがあっさりと信じたことに驚いたが、親切な騎士の1人が

「彼は視察のために我が国に滞在しているんだ」

と教えてくれた。


「客に手伝わせて申し訳ないって思っていないかい? 気にしないで! この学生たちはボクが送るから、キミたちは引き続きパトロール頑張りたまえ~」


 騎士たちは皇帝直属の魔法使いの実力を信じているのだろう。

「はい!」と二つ返事で騎士たちは駆けていった。


「あの、ありがとうございました」

「いいのいいの! それにしても久しぶりだね! 元気にしてたかな?」


 挨拶をかわす私だったが、ロキが固まっていることが気になる。

セン様も「どうした?」と心配そうにロキの顔を覗き込む。


「お前…」

「ん?」

「皇帝直属の魔法使いだったのか!」

「そだよ」


 言われてみれば、反グランディール家の組織『シャガ』にスパイとして潜入していたことしかセン様についての情報はない。かなり偉い人では…?


「あ! キミたちと会った時は直属でもなんでもなかったから! 昇進したってことだ!」

「おめでとうございます!」


 セン様はどこか怪しげなのに柔らかい笑顔を崩さない。


だが、彼は先ほど騎士たちを誤魔化したのだ。

恐らく気づいているのだろう。


「で、聞きたいんだけど………あの水魔法を使ったのはどっち?」

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