第45話 2度目の
「じゃあね」
「おう」
ルーシェが、使用人たちに出迎えられる。
それを外から確認したロキは自らの家に帰る。
これが彼らの日常である。
「へぇ~、毎日送ってあげてるんだ」
「どうした? 土産の饅頭でもくれるのか?」
「さっきあんたが全部食べたんでしょうが!」
ノートは律儀にツッコミをしつつも、道の角から姿を現した。彼女は死角になる場所に隠れて尾行をしていたのだ。
「パナケアはいないのか」
「あの子にこんなことさせるわけにはいかないでしょ?」
「同じ精霊だというのに過保護だな」
「あんたには言われたくない! って違う。あたしはこんなことを話しに来たわけじゃないのよ。あたしの権能について知りたそうだったし、教えてあげようって思ったわけ」
パナケアは隠密行動が苦手だ。そもそも彼女には他人への疑問に対して
"隠れて調べる"という発想がない。
気になることがあれば直接訊いて確かめる性格である。
と、なれば必然的にこのようなことはノートの仕事となるのだ。
「あたしは人間の精神状態が分かるの。そして祝福は"相手の魔力を吸収したり譲渡することができるようになる"よ。」
「それが嫌だから人間と関わらないのか?」
「そうよ。最初はいい人間ばかりしか周りにいなかったから気にならなかったけど、長く生きていると汚れた考えを持つ人間と会うこともあってね。ちょっと疲れちゃったの」
「だからあたしは人間とは距離をとった」
ノートは自分に近づいてきた野良猫を優しく撫でる。
「クロノスもそう。人間の寿命に干渉ができてしまう。だからあたしたち2人は大精霊様に祝福をしないよう忠告されていた。なのにあいつは破ろうとしている」
唯一の人間の友人となったルーシェは死を恐れている。だから祝福をしようとしているのでは。
というのがノートの考えだった。
なぜパナケアとルーシェがいない時に話したのかはノートの独断である。
自分の寿命について、そして数少ない友人の寿命についての話は辛いものだろうという彼女なりの気遣いだ。
この場にルリがいたら、
「今までの推測のなかであなたが1番真実に近づいているわ」と拍手をおくっていただろう。
「それは俺たちが止めなければならない」
「そうね。掟のことがなかったとしても、本人が進んで望んだわけじゃないからね……でも」
その先は言い淀んだ。話すことが正解か迷っているようだ。
「なんだ」
「これは他の精霊には言わないでおきたいのだけど……初めて会った瞬間からルーシェちゃんの精神状態を確認していた。けど、あの子の精神を言葉で現すのは難しいの」
彼女がルーシェから感じ取った精神状態は未知なる感覚だった。
焦燥。遠くない未来で訪れる死への強い恐怖。痛みへの嫌悪感。そしてほんの少しの怒り。
それらは生存への希望、日常を楽しむ気持ちと表裏一体であり、穏やかな波のように交互に表れる。
「どうやら大精霊様の言っていた未来、つまり死が近いことも知っているようね。話には聞いていたけど、大精霊様の偽者が出たんでしょ?そいつが何か吹き込んだのかもしれない」
「それでもあの子は心から日々の生活を楽しんで笑顔で過ごしているし、必要ならば誰かを助ける。良い意味でも悪い意味でも『普通』じゃないのかもね」
精霊は言葉を出せず、動くこともできなかった。
その様子に気づいたノートは
「ちょっと、話は最後まで聞きなさい」
と勢いよく肩を叩く。
「これは原因を潰せば改善できる一過性のものよ。あんたが守るって決めたんでしょ? 大精霊様の言っていたルーシェが殺される未来を変えて、クロノスの暴走を止めるの」
「一番近くにいるのはあんたよ。シャキッとしなさいよね!」
ノートは面倒そうに言い放つが、ルーシェを心配し、自分を激励していることはロキ本人も理解していた。
「あ、でもヤケになって国ごとクロノスを滅ぼすとかはやめてね!」
「その一言がなければ俺はお前に尊敬の念を抱いていたかもしれないのだがな。たが、お前の言うとおりだ。感謝する」
降りかかる災いから少女を守り、憂いなく未来へ進めるようにする。
破壊以外の術を持たなかった竜が、大切な人間を守る、正真正銘の精霊になる道を歩み始めた瞬間である。
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