第34話 路地裏を行く

 アテナたち一行は路地裏を進む。


「路地裏にしては大きいな」

「城下町が大きなものですから」

「王国の倍はあるよね」


 ビアヘロの忠告通り、行くあてのない者たちが多く出歩いていた。ヴィアのような幼い見た目をした者がいるからか一行は好奇の視線を浴びてしまっているようだ。


「我がこの中で1番浮いているよな」

「私は変装のおかげで目立たないけど、ヴィアちゃんは誤魔化しようがないものね」


 なるべくヴィアを囲むように、子供連れと言われ絡まれないようにと慎重に進んだおかげか、路地裏の出口まで残り半分といったところまでになっている。


「おいおいおい! こんなところにお上品な格好をした嬢ちゃんがいるぜ!」

「護衛を連れているようだが少ないなぁ。拐ったら金とれるんじゃね?」


 ゴールまであと少しという時に限って邪魔が入る。そういうものなのだ。


 どうやらがヴィアが貴族の娘で他3人は護衛だと思ったらしい。5人のならず者が先には行かせまいと立ち塞がった。


「どうする? ちょっとだけお仕置きしちゃう?」

「怒られはするだろうが不可抗力だと説明するしかないな」


 2人の精霊とアテナが魔法を放とうとした時


「やめろ」


 1人の男性の声が路地裏に響いた。

大声ではなかった。だというのに両者動けなくなった。その声は縛りつけるような圧力がある。

 精霊たちは第三者の介入に驚いて手を止めたが、ならず者たちはその者の声に気圧されたようだ。


「お、お前は……」

「俺が誰か分かるのならばさっさと消えろ」


 ならず者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 男は先ほどまでとは打って変わって明るい表情をみせた。

赤茶色の髪に翡翠色の瞳を持つ甘いマスクの男性。そして怪しさ漂う笑み。


「やぁやぁ! キミたちケガはないかい? 悪いねぇ、ガキと女はやめろって言ってはいるんだけど」

「お前は何者だ」

「ボクはセン。この路地裏を仕切ってる」


 センは恭しくお辞儀をした。ロキは警戒を緩めてはいない。


「お客人たちよ、ちょいとうちに来ないかい? 損はさせないよ」

誘惑するように人差し指を口元に当てる。


「行った先で囲まれて……なんてことはないよねぇ?」

「ないよ。それにキミたちは強そうだ。敵にはしたくない」


 その場から動こうとはしなかった一行にセンは心意の見えない笑みを見せながら、予想外の発言をした。


「キミたち、カルティエから逃げてきたんだろ? ボクは全部知ってるよ。なんてったって……ボクこそが『シャガ』のリーダーだからなぁ」

「あなたが……」


 身分が明らかにならないようにと沈黙を貫いていたアテナが声を漏らした。

センは表情を変えないまま続ける。


「安心して。別に連れ戻すつもりはないから。カルティエのことで話したいことがある。どうだい、アテナちゃん。プレン様もいるよ」


 全員がアテナの顔をみる。プレンの名を聞いたアテナは迷っているようだ。


 この誘いは危険だ、と全員が思っていることではあるが、仮にセンが言うことが本当であれば。


プレンと再会でき、そのうえカルティエについて情報が聞けるという魅力的な話だ。


…本当ならば、ではあるが。


「皆さん、私と一緒に着いてきてくれませんか?」


 アテナのお願いへの反応は彼女の想像通りとはいかなくとも、近いものではあった。


「敵のアジトに絶対にプレンがいるとは確信はできぬし、我は賛成できぬ。が、貴様がどうしてもというなら……」

怪しいが、友人が望むなら…とヴィアは迷っているようだ。


「俺は信用できないと思うが」

「信用できないのは同感だけど、アテナ嬢を城まで送ることがアウラくんの仕事だからねぇ。オレはアテナ嬢が行くところに着いていくだけさ」


 どうやら多数決だと着いていくことになるようだ。

ロキは諦めたようにため息をつく。


「最悪の場合、暴れて出ていけばいい話だしな」

「うん、決まったようだね」


 赤茶髪の青年は、薄暗い路地を照らす蝋燭の灯りのように一行を導き始めた。


 センを見たならず者たちは自然と黙り道を開ける。当の本人は「皆元気か~い?」と軽く挨拶をしながらスタスタを歩いていた。


「俺たちを止めたときと態度が違いすぎないか」

「あれはガチモード。あんなのずっとしていたら疲れる疲れる!」

「姐さんもそんな感じだよなぁ」


 センが足を止め、続いて一行も止まる。


「ここがアジト」


 一見、どこにでもある小さな家だ。

しかし、扉が開いた先には外観には伴わない空間がひろがっていた。


「これは……まるで貴族の部屋のようではないか」

「言ったでしょ? あの方がいるって。いつ来てもいいように綺麗にしておかないとね!」


 

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