第33話 商人ビアヘロと愉快で頼もしい仲間
同日
「準備はできた? じゃあ、城下町に入るよ」
城下町に入るための唯一の門の前に一行は立っていた。先頭はビアヘロである。
混乱を避けるためにアテナは帽子を深めに被り、髪の毛も美しい金髪ではなく黒に染めていた。あとは声を出さなければプレンの婚約者アテナとはバレないだろう。
ビアヘロに気がついた門番のうちの1人が明るい笑顔で出迎えた。
「おっ! ビアヘロさんじゃないですか」
「今日も門番おつかれさま。今日も楽しいお仕事のために町に入りたいのだけど」
「ビアヘロさんは信頼できる商人ですからね! おや、そちらの方々は」
「この人たちは最近雇ったんだ。あ、申請は通ってるから安心して。小さい子もいるから驚いたでしょう? でもね、この子は目利きが大人顔負けでねぇ。ちょいと修行も兼ねて連れていこうと思ったの」
ビアヘロの勢いにやや押されつつも「そうなんですね!」と門番は返す。ビアヘロのマシンガントークは日常茶飯事のようだ。
だが門番は楽しそうに話を聞く。どうやら彼女の話を聞くことが好きなようだ。これは彼女の天性の才能である。
「相変わらずの聞き上手だ。もっと話したいところだがそろそろ時間ね」
「はい。そちらの皆さんもお仕事頑張ってください!」
「ありがとうございまーす!」
アウラとヴィアが率先して返事をした。ロキとアテナは軽く会釈をする。
門番は人がとてもいいのか、単にビアヘロを贔屓しているのかは不明だが城下町について一行に忠告をした。
「そうだ。城下町は次期皇帝争いによる混乱が大きくなっています。治安もあまり良くはないので気をつけてくださいね」
「忠告、感謝するわ。さぁ皆行くよ」
今まで泊まってきた町でもプレン派とカルティエ派の人が対立しているのをビアヘロたちは見てきたので城下町のことも想定はしている。
プレン派の方が多いが、最近はカルティエ派も増えてきている。プレンとしては早いところ決着をつけないと、時間がかかるほどカルティエに有利な状況になってしまうだろう。
商人一行は商品である荷車を押しながら堂々と門を通過した。
城下町は申請所やビアヘロの店があった町よりも人々の活気がなかった。殺伐としている。
生活をするにあたって最低限必要となる物を売る店は営業してはいるが、店主も客も浮かない顔の人間ばかりである。
「驚いたよね。カルティエ様がシャガの人間と反乱を起こすと宣言して、なかば内乱状態になってから城下町はずっとこうさ。このひどい状態が他の町に伝染するのを、私たちが通ってきた門が防いでいるような気がするわ」
ビアヘロの説明を聞いたアテナは沈んだ顔をしていたが、「早く終わらせないといけないわね」と静かに呟いた。
仮にプレンが皇帝になったらこの混乱を抑えることから始まる。否、既に始まっている。
しかし、この内乱はアテナとプレンの物語の序章に過ぎない。皇帝の座を勝ち取ったとしても試練は現れる。
残念ながらその未来を把握している者たちはこの場にはいない。1人は敵側で呑気にティータイムをしたのちに城に乗り込むための作戦を練り、1名は罠に嵌まり様々な国を奔走するはめになっている。
閑話休題
ビアヘロがアテナたちと行動を取るのは城下町に辿り着くまでである。別れの時間が迫っていた。
右に進めば路地裏、左に進めば噴水広場、正面に進めば大通り……といった場所でビアヘロがロキとアウラに荷車を止めるよう合図した。
「さぁ、これからは君たちだけで行動してもらう必要がある。私のオススメは右の路地裏を通ることだ。大通りはやめておけ」
「何故だ」
「治安維持のために衛兵たちがうようよといやがるからよ。もし許可証の提示を求められたら君たちは一巻の終わり。ついでに私も終わりだ。噴水広場も大通りほどではないが衛兵がいる。まだ小さいヴィアちゃんやアテナを通らせるのは本当は嫌だが、治安の悪い路地裏が1番隠れながら動ける」
ビアヘロは説明した。路地裏まで衛兵たちが巡回する余裕がなく、不法滞在者はだいたいそこにいると。
身を守る術は必要だが不法入国者である彼らにはちょうどいい道である。
「アテナ嬢よ、どうする? 路地裏を選ぶというならオレたちが必ず守るぜ」
「……大丈夫。私だって魔法が使えますので、自分の身は自分で守ってみせます!」
アテナは力強く拳を握りしめた。アウラは「その意気だ!」と微笑む。
「そうか。では俺たちは路地裏から行こう」
「ビアヘロよ世話になったな」
「これくらい朝飯前だよ。アテナ、全てが片付いたら一緒に茶でも飲もう」
「えぇ、あなたも気をつけて」
ビアヘロは笑顔で手を振った後、荷車を押して大通りへと進んで行った。
「路地裏を通り抜けたらお城だね。プレン様の元にアテナ嬢を送り届けたらルーシェちゃんの救出に行かないとだ」
「私からプレン様に協力してもらえるよう掛け合ってみます」
「ありがとう。俺たちはどちらが皇帝になるかの干渉はできないが、お前が城に辿り着くよう手助けはする」
「はい! よろしくお願いします!」
頼もしい友人を見送った一行は、そのようなことを話しながら薄暗い路地裏へと歩いた。
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