第25話 脱出作戦
「アテナに会えるのは嬉しいが疲れたな。我、頑張った」
「おつかれさま。ヴィアちゃんも会議に参加する?」
「もちろんだ。疲れてはいるがそれとこれは別だからな。というか会議と呼んでおるのか」
私はヴィアちゃんに見守られながら眠りについた。
「おぉ……真っ暗だね」
「ルーシェ、何か悩みでもあるのか……?」
「え、ないはずよ」
「手っ取り早く終わらせるぞ」
会議が始まった。議題はもちろん脱出についてだ。
「アテナ様も一緒に脱出は難しいのかしら」
「そのことだが、今日の茶会でメイドたちがアウラに夢中になっている隙にアテナから紙を渡された。『私のことは気にしないで逃げてください』と書かれていた」
アテナ様は自力で逃げるつもりなのだろう。彼女は決断が早く行動力もある。だけど、小説とは違い、騎士はいないのだ。助けがない状態で逃げ出すなんて……
いや、彼女のことだからバルコニーから無理やり飛び降りて脱出することもあり得てしまう。
「我はアテナを置いてはいけぬ。もし、本当にアテナがここに残るのならば我も残る。そうすればアテナが脱出するときの助けができるかもしれぬからな」
「ヴィアちゃん……」
ヴィアちゃんの決意は固い。アテナ様も連れて脱出するか、ヴィアちゃんとアテナ様を残して脱出するか。どちらか選ばなければならない。
「オレはヴィアの意思を尊重するぜ。ヴィアの守りは精霊の中でも一番だから大丈夫だ。大精霊様が小言をいうかもしれないが……ロキたちはどうする?」
「アテナの行方を突き止めるという依頼は果たした。あいつが自力で脱出するつもりならば、俺はルーシェを連れて早いうちに出ていく……が、アテナも一緒に逃げる方法がないわけでもない」
「本当か!?」
ロキは少し躊躇っていた。もしかして、精霊の掟を破ることになるのだろうか。
「あぁ、それは……」
作戦を聞いた全員が黙った。その空気を壊したのはヴィアちゃんの叫びだ。
「シンプルだが……賭けではないか!! いや、アウラがいるならできるのか?兵にケガをさせなければ掟には反することはないはずだし……」
「オレは賭けてみるのもアリだと思うぜ! ルーシェちゃんは?」
「私は……皆を信じているから。その作戦にのるわ。明日、皆でエルフィン王国に帰ろう」
話はまとまった。明日のお茶会の時に決行する。
理想はエルフィン王国へ逃げ切ることだが、プレン様がいる城まで逃げ切るか、プレン派の人たちの元に避難できても成功と云えるだろう。
「……恐らく次期皇帝争いが終わるまで俺たちは城から出られない。不法入国をしたとはいえエルフィン王国の人間を牢屋に入れたというのは外聞が悪いから、国民にバレないようにしたいと見張りの兵士たちが話していたことがある。失敗したら俺たちの監視は厳重になるだろうな」
「そうなればロキとルーシェちゃんは学校開始日に間に合わなくなるね。ロキはまだしもルーシェちゃんは帰さないといけない」
きっとこの作戦が成功すれば脱出はできるだろう。
けれど、私はカルティエ様のことが気になった。牢屋で会ったとき以降、一度も私の前には現れていないが、彼は本当は優しい人だと思う。
そうでなければ使用人たちがプレン様を裏切ってソレイユ城に移り住むなんてことはしないだろう。
眠る少し前、メイドたちの会話を盗み聞きしてしまったのだ。
「こっそりヴィアお嬢様をお部屋から出してお兄様に会わせていたのがカルティエ様にバレてしまったわ……」
「でも、カルティエ様からの罰なんてなかったのよね」
「やっぱりカルティエ様についていってよかったわ」
あんな会話を聞いてしまったら放ってはおけない。もしかしたら、これから彼は……
私はまだ迷っている。このまま脱出することは正解なのだろうか。
今日、私たちはこの城を出る。城の周りには大勢の兵士たちがいるので、見つかる前提で逃げなければならない。スピード勝負というやつだ。
「アテナお姉ちゃんとお兄様に会いにいきたいわ」
「もちろんです! 行きましょうヴィアちゃん!」
メイドと手を繋いだヴィアちゃんは可愛らしい笑顔でアテナ様のいる部屋へと連れていかれる。
私はついていかなかった。
少ししたあと、隣室からメイドたちの叫び声が聞こえてきた。「カルティエ様ぁ!! アテナ様たちがバルコニーから!!」と聞こえた。恐らく成功だろう。
バルコニーに出てみると、隣室のバルコニーからロキたちが飛び降りていた。ロキがヴィアちゃん、アウラさんがアテナ様を抱えている。アテナ様は何がなんだか分からないといった顔をしていた。
「全員でバルコニーから飛ぶ」とロキが言ったときは驚いたが、シンプルで分かりやすい作戦なので私は好きだ。
まず、ロキがヴィアちゃん、アウラさんがアテナ様を抱えてバルコニーから飛び降りる。
そして、ヴィアちゃんとアウラさんが魔法で兵たちを足止めしている間にバルコニーから飛んだ私をロキが受け止めるという作戦だった。
安全性を考慮した結果、遅れる形で私が飛び降りなければならないのだ。
「来い!」
ヴィアちゃんとアウラさんが魔法で暴風を吹かせ、水の縄で兵たちの足を縛るなか、ロキが私をキャッチするために構える。
バルコニーの手すりをこえて私も飛び降りようとした。が、私は後ろに転んでしまった。
「ごめんね。あなたには残ってもらいたいの」
私を後ろに引っ張ったのはルリだった。バルコニーで仰向けに寝転ぶ形になった私を覗き込む形でルリは立っている。
「ルーシェ!?」
「私は大丈夫だから! 先に行って!」
ここで全員捕まるのは避けたい。私の推測だとカルティエ様は一般人を殺すことはないのだから、私1人残ることになっても死にはしないだろう。アテナ様が脱出することを優先しよう。
「必ず助けに行くからな!」
ヴィアちゃんの叫び声が聞こえる。
「ロキ! 気持ちは分かるが一旦行くぞ! アテナ嬢、もう少し辛抱してくれよ!」
「はい! ルーシェちゃん、どうかご無事で……!」
アウラさんがいてよかった。彼は客観的に状況を判断して、最適解を出すことができる。
兵士たちの怒号が遠のいていく。どうか、皆が逃げきれることを願おう。
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