第22話 1部屋につき1台しかないようだ。
カルティエ様の計らいによりヴィアちゃんと私に一室、アテナ様に一室、ロキとアウラさんに一室。
前の城主家族が暮らしていた部屋が宛がわれた。ご飯もちゃんとしたものが出されるそうだ。
本当は1人につき1部屋にしてほしかったが、小さな城のためこれが限界だったらしい。
メイドたちの監視の元ではあるがアテナ様と一緒にお茶をすることも許してもらえた。
「アテナお姉ちゃん!!」
「ヴィアちゃん……ありがとう」
ヴィアちゃんは嬉しそうにアテナとお茶を飲んでいる。
監視されている限り、ヴィアちゃんは「純粋なお嬢様」を演じる必要がある。
なので2人で部屋に入ったあと
「あーーー、我ほんとすごくないか??」と子どもが出すとは思えない低音を出していた。
私やアウラさんも使用人のふりをしなければならない。
参考のため、前世でのクソ上司への振る舞いを思い出す。とりあえず「参考になります! ご指導ありがとうございます!」「さすがです!私も頑張ります!」と言っておけば機嫌はとれていた。
うん、参考にならないな。我が家の使用人の真似をしよう。
「3人もありがとうございます」
「いえ、すべてはヴィアお嬢様のおかげです」
「アウラくんもがんばっ……いえ、お嬢様の慈悲深さが素晴らしいという話ですね。ロキ様そのような顔はおやめになって!」
時々危なっかしくはなるが、今のところメイドたちにに怪しんでいる素振りはない。よかった。
このあとは内乱のことなどは全く話さず、好きな本、お菓子の話をした。メイドが「時間になりましたので各自部屋にお戻りください」と言ったことによって私たちは部屋に戻ることになった。
毎日30分はこのような時間を用意してくれるらしい。色々と気がついてしまっている私は「カルティエ……」としか言葉が出なかった。
さて、お茶会のあとヴィアちゃんと部屋を探索したが、盗み聞きされている気配はないことを確信したので今後の作戦について話し合うことにした。
「ヴィアちゃん本当にすごかった」
「もっと褒めても良いぞ!!」
「捕まったのもお前が原因」とお茶会の時にロキとアウラさんは目で訴えていたが、本人は知らぬ存ぜぬで通すつもりのようだ。
「今後について話しましょう。このままおとなしくしていれば、釈放される可能性は高いけど、いつになるか分からないし……アテナ様なんて出られるかも分からないわ……」
「我、またぐずろうか?」
「さすがにもう通じないと思うよ」
牢屋から出されたことは一歩前進……と思いたいが、城からの脱出はほぼ不可能な状態のままだ。まず、お茶会の時間以外は部屋を出ることを禁じられている。隣室のロキたち、そのまた隣のアテナ様と作戦をたてることが難しいのだ。
ヴィアちゃんは「どうしたものか。人間に危害を加えてはならぬから我やロキとアウラも下手に魔法が使えぬ。かといってルーシェ1人で魔法を使うのも危険だしなぁ」とベッドに転がりながら、あーでもない、こーでもないと唸っていた。
ベッドの上で転がり続けたヴィアちゃんは、勢い余ってベッドから落ちてしまった。そして、アクション映画でしか見ないような転がりぶりを魅せる。
「あばばば」
「ヴィアちゃん!?」
転がる勢いは衰えることなく、とうとう壁にぶつかってしまった。鈍い音が部屋に響く。
「今すごい音がしたけど大丈夫!?」
「我の頭にたんこぶが……」
よく見ると彼女の頭にたんこぶができていた。うーん、これは冷やした方がいいかもしれない。
「メイドさんにお願いして氷のうをもらってくるね」
「不要だ。水の塊を出して冷やす」
ヴィアちゃんは野球ボールくらいの大きさの水の塊を魔法で作って、たんこぶができた場所に当てていた。便利だな。
それぞれソファーに座る。年期のあるものだが座り心地はとてもよかった。
「それにしてもすごい転がりかただったね」
「うぅ……他の精霊には絶対に言うな。ただでさえ我は子供扱いされるからな。特にロキ! あやつは年下の癖に我をからかってくるからな!」
どうやらロキとは仲がいいらしい。「仲がいいのね」というと「あの小僧と我が仲良しだぁ!?」と不服そうだ。
「以前、あやつがオススメだといって小説を渡してきたから読んでみたら……我の苦手なホラー小説だったのだ!我が苦手と知っておきながらだぞ。あの小説はおもしろかったが、ホラーのシーンはやはりドキドキしてしもうた」
「全部読んだのね」
そのあともロキとのケンカエピソードを聞いていたが、どれも可愛らしい内容だった。ヤンチャな弟と手を焼きながらも優しく面倒をみる姉のようだ。
ちょっとしたイタズラをするところは本当に彼らしい。
「ほんっとうに困ったやつだ。ルーシェは何かされておらんか?」
「特にはないよ。むしろ感謝しているわ」
毎日一緒に登校して学校帰りは家まで送ってくれること、クロノス様から助けてくれたことを話した。
ヴィアちゃんはあんぐりと口を開けている。
「本当に同一人物か?」
「なんだかんだで優しいよね。この前はパフェをおごってくれたし。今回のことだってそうでしょ?」
ヴィアちゃんは苦いものを食べたような顔で「それについては感謝しておるし反省もしておる」と言った。カメラがあったら撮っておきたかったくらいの変顔だった。それくらい認めたくないことなのだろう。
「そういえばアウラにも困らせられることも多いな。あやつは昔っからトラブルに巻き込まれていてな。時々『相手がいないのならば結婚して』と言い寄られることもあった。そのときは毎回我が子どものフリをしていてな……」
パパ呼びがすごく嫌だったとヴィアちゃんは語る。確かに、同級生をパパ呼びは抵抗感がある。同じような感覚だろう。
「まぁ、あやつに恋人は難しいだろうな。種族のこともあるが……元々警戒心が強いやつでな。ロキと出会ってからは素を出すようにはなったが、まだ精神は未熟だ。といっても、精神的成長の終わりなんて我にも分からぬがな……」
「ヴィアちゃんは周りをよく見ているのね」
「そうだろうか……自分の行いから目を逸らしている分、周りの変化に気がついてしまうだけな気もする。だが貴様の目にそう写ったのならば、我は聡明で先見の明がある精霊ということでいいのかもしれぬな!」
そこまでは言ってないかな……
そう言うと「気のせいだ。貴様はきっと言った」と笑っていた。
たんこぶを冷やしていた水の塊は霧散して消えた。
「少し痛みがひいてきたな。今日のところは寝よう。あまり夜更かしすると怪しまれるかもしれぬしな」
ベッドが1台しかなかったので、ヴィアちゃんの隣で眠る形になった。子供体温が暖かくてすぐに寝てしまうな。
……あれ?ということはロキとアウラさんはどうやって寝るのだろう?
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