【怪異ファイル02】ティネリ庭園 その2

***

「結構人居るじゃん!」

  ウィルはガーデメイリスに着くと、当たりをクルクルと見渡して、驚いていた。シモンも驚いている。

 

 旧ガーデメイア魔法石採掘場は魔法石は取れなくなったものの、宝石は良く取れる。そのため、街には2500人程度しか住んでいないが、採掘家や、宝石職人たちは良くここを訪れるため、街は賑わっているのだ。灰色の石造りの家が佇み、ホテルや飲食店、至る所に宝石店やアクセサリーショップが並んでいる。

 

 普通に見て、観光地である。



「嘘八百じゃねえか……めちゃくちゃ観光地じゃねぇかっ!」

「はァ……まじクソってこれを言うんだな」


 シモンは驚きも呆れも全て通り越してキレる寸前であった。ウィルは鼻をほじって呆れ顔だ。。

 シモンは少しワナワナと震えていたが、天を仰ぎ、我を取り戻した。


「……まぁあのクッソどもは後でどうにかするとして、まずはガーデメイア辺境伯邸に向かうか」



 灰色の石造りの街並みは19世紀を彷彿とさせ、カラフルさは全くないものの灰色の石1つ1つに長い年月で得た自然の色味が現れていた。街を歩く人々は獣人や妖精らしき人、人間と様々な人々がいた。皆、宝石目当てでこの街を訪れているのだろう。

 特にウィルが目を輝かせて街を見ていた。しかし、街ゆく人々は五国連の紋章が書いてある外套を来ているシモンとウィルを見て、コソコソと噂する。


「あれって……五行国連合の人達じゃ……」

「あの人、シモン・ヴァルターじゃね?」

「やっぱりあそこかしら……」


 口々に羨望や畏怖、憶測を述べる住人や観光客。シモンはこういうものには慣れていた。そんな話を聞きながら道を進んでいると、家が少なくなっていき、やがて完全に街の外れに出た。ポツンポツンと一軒家が見えるが、人の姿は見えない。

 もう少し進むと、平均男性の身長を優に通り越した黒いアンティーク調の鉄格子が見えた。緑が生い茂り、外からは中の様子は確認できない。


「ここが……ガーデメイア辺境伯邸」


 ガーデメイア辺境伯邸は街の家々と同じように灰色の石造りの大きな屋敷であった。屋敷には蔦が巻き付き、緑が生い茂る。大きな門の正面から見える立派で豪華な屋敷は誰も手入れしていないことがわかるほど荒れていた。

 問題のティネリ庭園は門の外から見ることは出来ず、屋敷の奥にあることがわかった。


「なんか、如何にもいわく付きって感じだな……!」


 ウィルが恐怖のガーデメイア辺境伯邸には全く相応しくないウキウキの表情でシモンに話しかける。


「お前なぁ……そんな楽しい場所じゃねぇぞ?」


 シモンは頭を抱えて呆れている。ウィルは大きなペリドットの瞳を輝かせて催促する。


「なぁ、もう行くか? 行くのか!?」

「まだ行かない」

「えー! 何でだよ!」


 シモンはそんなウィルの催促を突っぱねて、悪い顔をしてこう言った。


「ウィル……ここに潜む怪異をコテンパンに叩きのめしたいんだよな?」

「そりゃ勿論だろ! 木っ端微塵にボコボコにしてやるよ」

「その為にやるべき事があるんだ」

「はぁ? 俺が負けるとでも思ってんのかよ?」

「違う違う」


 シモンは少し前のめりになってきたウィルを宥めながら、話を続ける。


「ウィルはさ、敵を倒すためには何が必要だと考える? あ、パワーとか止めろよ? そんな話してるんじゃないからな」


 ウィルはパワーと言おうとしていたのであろう。眉間に皺を寄せて考え込んだ。


「……敵の情報?」

「おお、合ってる! まさかお前が正解するとはな……そう情報だ。俺たちは今から情報を入手しに行く。どんな細かな情報でも敵を倒すことに繋がるかもしれない」

「……まあ、ちょこっと俺を馬鹿にした事は黙っててやる。で、どうやって情報収集をするんだ?」

「それは勿論、街の人にインタビューだぁ」

「…………は?」





***

「ガーデメイア辺境伯邸? 立派な館よねぇ。ホラースポットなんて勿体ないわぁ〜」

「は、はぁ……」


 二手に分かれて聞き込みを行っていた。

 ウィルは先程からガーデメイリスの店の人に片っ端から聞き込み調査をしているが、全くと言って必要と言えるような情報は無い。心底うんざりしながら次の情報(世間話)を聞く。


「私もガーデメイア辺境伯邸の事は知らないの……ごめんねぇ坊や。あ、せっかくだからお仕事頑張ってる坊やにこれお裾分け! 頑張ってね!」

「あ、……ありがと」


 情報の収穫は全くないが、お菓子やら果物やらは沢山貰っていた。ウィルはうんざりはしていたが、これも悪くないと感じた。


「お前可愛い顔してんもんな〜」


 その声に驚き、バッと振り返る。シモンだった。ウィルははぁ〜とため息をつくと、ジトとシモンを見据える。


「可愛い言うな」

「だって事実だろ? それも武器になるんだ。誇っていいぞ?」


 シモンはニヤニヤしながら、ウィルの頭を撫でる。ウィルは恥ずかしさでいっぱいになり、声を上げる。


「……っ、だあああぁ! んで、そっちはどうなんだよ!? 俺は全くダメだった」

「お前、ヘッタクソだなぁ〜俺は情報わんさかだぜぇ?」


 ウィルがありえないものでも見るかのようにしてシモンを見た。


「おいおい、自分ができなかったからって人にそんな視線向けんなよ……ふふ、まぁお前と俺とでは年季が違う。聞き込みってのはコツってもんがあるんだよ」

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