【怪異ファイル02】ティネリ庭園 その1
お嬢様、あなたが育てた薔薇がまた綺麗に咲きましたよ。
俺はお嬢様に笑顔になって欲しいのです。そのために、俺はあなたの薔薇を一生懸命育てます。
***
「おい、ウィル、お前花は好きか?」
ウィルとシモンは木霊の国にあるシモンの家にいた。木霊の国は妖精族が主に住んでおり、ここには四季が存在する。主にシモンはほとんどの時間を木霊の国の家で過ごしていた。
ウィルは朝からご飯3杯を平らげ、オマケにデザートまで食していた。眉をひそめ、答える。
「はぁ? 別に嫌いでは無いけどよ……いきなりなんだよ」
「そうか、好きか……これから嫌いになるかもしれん。先に謝っとくわ、すまん」
「いや、別に好きじゃねぇし! まあ、綺麗だとは思うけど……って、なんで謝るんだぁ!」
シモンはウィルの言葉を聞くと、デザートのリンゴ片手に口だけ謝った。ウィルはツンデレを隠しきれずに、それも自分で気づいてしまい、話をそらす。
「次の任務が来た」
シモンの言葉にキラリと反応するウィルのペリドットの瞳。皮を剥いて切ってあるリンゴをフォークで食べるのをやめて、手掴みで全て平らげる。
「……もご、ごくん。なあ! 何時なんだ、何時行くんだ! 怪異をぶっ飛ばせるって考えたら、テンション上がってきたぁ!」
「落ち着かないと、内容話さないぞ」
「……落ち着いた」
ストンと椅子に座るウィル。シモンはウィルの落ち着き具合を見て、この1ヶ月頑張った甲斐があったなと感じていた。
ウィルと出会ってから1ヶ月、ウィルの反対を押しのけ休みを貰い、ウィルの教育に励んできた。言葉使い、所作、会話の仕方……などなど。得に頑張ったのが、落ち着くこと。
(本能の塊みたいな、ほとんど獣に近い人間だからな……興味が湧いたら体が動く。犬用リードつけてやろうかと思ったわ……大変だった。これがこんなに落ち着くようになって……)
「ううっ……」
「うわ、何突然涙流してるんだよ。きもっ」
「お前の成長を感じてたんだよ、バカタレ」
シモンはいそいそとタブレットを手に取ると、アプリを起動させてホログラムを出現させ、ウィルに見せた。
ちなみにホログラムは魔法工学という分野で開発された技術である。触れることも出来、タイピングやら動かしたりやら様々なことができる。
ウィルはつんつんホログラムに触り、感動していた。
「ほえ、すげぇ……触ったらフォンフォン言うじゃん」
「俺も初めはめっちゃ感動した。はい、内容読んで」
『ティネリ庭園』
怪異ファイル「屋敷」に該当する区域。
今から150年以上前、ガーデメイア辺境伯一家が住んでいた。
ガーデメイア辺境伯邸の庭はとても美しかった。様々な種類、色の薔薇が美しく咲き誇っていた。ガーデメイア辺境伯は年に一度、薔薇が一番美しく咲き誇る時、街の人々を招待してパーティを開いていた。
しかし、魔法石が取れなくなったことで、資金調達が困難となり、ガーデメイア辺境伯は没落。没落と共に辺境伯一家は失踪し、屋敷も庭もそのまま残されることになった。
ここからである。この屋敷、いや庭でおかしな事が起きた。屋敷が荒れ果てていく一方、庭だけが綺麗なままであった。一年中、綺麗な薔薇が咲いていた。皆、ピクニック気分で庭に入っていったが、誰1人帰ってこなかったという話が残っている。
近年では有名なホラースポットとして、若者に人気であった。しかし、屋敷に入った者は返ってきたが、庭に行った者は帰ってこなかった。1人だけ庭から帰ってきた者がいた。衣服はボロボロで、体中傷だらけであった。精神にも異常をきたしており、わずか1週間で自殺した。彼が怯えるように呟いていた言葉が以下である。
『ティネリの為に』
そして、この庭の名称が「ティネリ庭園」となった。
生還者が1人のみである事から、この庭園の詳細はわずかしか分からない。精神に異常を来たした帰還者の証言によると庭師が襲ってくるという。
庭に迷い込んだほとんどの人々が帰還していないことから、地域怪異度はS、怪異危険度はSSに認定されている。
「なんで今更なんだ?」
ウィルは不思議そうな顔でシモンを見る。
「どっかの学生がスリル目的に入ったっきり戻ってこないんだとよ。その学生の親がある組織の重鎮だったんだよ。というか、今までも何回も怪異専門業者が行ってる。だけど戻ってこなかった。そんで捜索は打ち切り」
はぁ、とため息を着くシモン。
「打ち切りになったってのに、お偉いさんの鶴の一声でまた動き出すんだから、五国連も金の亡者ってことかねぇ〜そのしわ寄せが俺らに来るのはどうかしてるぜ。嗚呼、お前らが行けよ、世の中クソ、はァ……」
嫌味をしっかり混ぜ込んでぶつくさと呟く。ウィルはシモンの愚痴を聞き流しながら、ホログラムを見つめた。
「なーんか引っかかるんだよな……」
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