第33話 アレックが迎えに来たけれど

「ミレイちゃん、このお料理、2番テーブルに運んで」


「は~い」


村に帰って来て早半月。以前お世話になっていた食堂で再び働きだした私は、毎日充実した生活を送っている。こうやって村で生活をしていると、王都で過ごした時間は、まるで夢だった様な気がする。


やっぱり私は、この村で暮らしている方が幸せなのだろう。


「ミレイちゃんは、本当に働き者だね。ねえ、ミレイちゃん、今夜一緒に食事に行かないかい?」


「ちょっと、またミレイを口説いて!ミレイがフリーになった瞬間、すぐに群がるんだから!」


「でもよ、リマちゃん。ミレイちゃんはもう18歳だし、そろそろ結婚相手を探した方がいいだろう?ミレイちゃん、俺なんてどうだい?」


「おい、抜け駆けするなよ。俺も候補に入れて欲しいな」


なぜか村に戻って来てから、沢山の男性たちにアプローチされるのだ。有難いのだが、今はまだ、1人でいたい。


「またミレイちゃんを口説いて!さあ、さっさと仕事に戻りな。本当にもう」


女将さんが男性たちを追い払っている。


「ミレイちゃんは可愛くて気が利くから、この村の男たちも放っておかないのだよ。ミレイちゃん、アレックの事もあるだろうから、すぐにとは言わないが、そろそろこの村の男たちと歩む未来も考えた方がいいんじゃないかな?」


「そうよね。ミレイ、あなたは18歳なのよ。そろそろ、村の男性たちの中から、よさそうな人を探してみたら?せっかくだから、食事くらい行ってみたらどう?」


確かに2人の言う通り、この村でずっと暮らすのなら、そろそろ結婚相手についても考えないといけないだろう。分かってはいるが、気持ちがまだ付いて行かない。多分まだ私は、アレックの事が好きなのだろう。


「ごねんよ、ミレイちゃん。そんな悲しそうな顔をしないでおくれ。王都で散々傷つけられて帰って来たのだから、今はまだゆっくりしたいよね。結婚相手はおいおい決めればいいさ。さあ、仕事に戻ろう」


気を取り直して、仕事を続ける。


その時だった。


「いらっしゃいませ…えっ?」


「ミレイ!!」


お店に入って来たのは、何とアレックだ。どうしてアレックがここにいるの?訳が分からず固まる私を抱きしめるアレック。


「アレック、どうしてここにいるの?まさか私を迎えに来たの?悪いけれど、私はもう、王都に戻るつもりはないわ。ごめんなさい。どうかあなたは、王都に帰って」


いくらアレックが迎えに来てくれても、私はもう王都に戻るつもりはないし、アレックと共に、あの豪華な屋敷で過ごすつもりもない。そんな思いから、抱き着くアレックを突き放した。


「ミレイ、その件なのだが…」


「ごめんなさい、今仕事中なの。悪いけれど、帰ってくれる?」


「ミレイ…俺は…」


「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」



アレックを無視して、他のお客さんの相手をする。とにかくアレックとは終わったのだ。今更迎えに来られても、はっきり言って迷惑でしかない。


「ミレイ、大事な話があるんだ。俺はミレイと話がしたい。家で待っているから」


そう言って外に出て行ったアレック。待たれたところで、私は王都に戻るつもり何て微塵もない。


「ミレイちゃん、アレックがわざわざ訪ねて来たんだよ。もう今日はいいから、帰っておやり」


女将さんが声を掛けてくれた。でも…


「私とアレックは、もう終わったのです。ですから、どうか気にしないで下さい。さあ、仕事に戻りましょう」


その後もいつも通り仕事をこなした。


「それじゃあ、また明日。リマ、今日はあまり帰りたくないの。よかった食事でもしていかない?」


近くにいたリマに、話し掛ける。


「もう、ミレイったら。家でアレックが待っているのでしょう?わざわざ村まで来るだなんて。きちんと話をした方がいいわよ。さあ、家に帰りましょう」


確かにリマの言う通りだ。ここで逃げたら、アレックに失礼だわ。分かってはいるが、どうしても話す気になれないのだ。そんな私の手を掴み、リマがお店の外に出る。すると…


「ミレイ」


「アレック、どうして?家出待っていたのではないの?」


「そのつもりだったんだけれど、ミレイが他の男たちに絡まれないか心配で…さあ、家に戻ろう。リマ、いつもミレイの事を気にかけてくれてありがとう」


「どういたしまして。それじゃあ、私は先に帰るわね」


「えっ、待って、リマ…」


隣同士なのだから、一緒に帰ろうと声を掛けようとしたのだが、さっさと帰ってしまった。もう、リマったら。


「ミレイ、帰ろう。俺たちの家に」


そう言うと私の手を握ったアレック。


「アレックの家は、王都のお屋敷でしょう?」


「あの家はもう売ったよ…ミレイ、今まで本当にすまなかった」


真っすぐ私を見つめるアレック。


「あのお屋敷を売ったとは、どういう事?だってあの家はアレックの…」


「話は家に帰ってからゆっくりしよう。とにかく帰ろう」


アレックに手を引かれ、家に向かって歩き出したのだった。

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