第32話 村での生活が一番です
王都を出て約4日、私は無事村に帰って来た。相変わらず何もない村だ。でも、この何もない感じがとても落ち着く。
「あれ?ミレイちゃんじゃないか?アレックの元に行ったんじゃなかったのかい?」
「ええ、そうだったのだけれど。アレックは今や総裁、この国のトップでしょう?私とは住む世界が違ったの。だから、帰って来ちゃった」
村の人たちが話しかけてきてくれたので、正直に答えた。
「そうか。アレックは今やこの国の英雄だもんな。なあに、ミレイちゃんは可愛いから、すぐにいい男が見つかるよ。どうだい?うちの息子なんて」
「ありがとう、でも今は、しばらくゆっくり過ごしたいの。王都では色々とあったから。それじゃあ、また」
急いで自宅へと向かう。そして
「アリおばさん、リマ、ただいま!」
「おや?ミレイちゃん、一体どうしたんだい?アレックは?」
「ミレイ、あなた1人で帰って来たの?アレックはどうしたのよ?」
2人とも目を丸くして固まっている。
「アレックとは、お別れしたの。私、アレックと一緒に住んでみて気が付いたの。私はアレックのいる華やかな世界では生きていけない事に。やっぱり田舎娘は、田舎でのんびり暮らす方が性に合っているのよ。2人には色々とお世話になったのに、こんな事になってしまって、本当にごめんなさい」
2人には今回の件で、本当にお世話になったのだ。それなのに、こんな報告になってしまった事を、申し訳なく思っている。
「ミレイちゃん、王都で何があったんだい?あなた、この村を出た時よりもやせ細っているじゃないか?もしかして、王都で虐められたのかい?」
「ミレイ、可哀そうに。あなたがアレックと別れて帰ってくるだなんて、よほどのことがあったのでしょう?」
本当に2人には敵わないわね…
私は王都で何があったのか、2人に話した。アレックと出会うまでは、優しいルイーザさんのお店でお世話になっていた事。アレックと再会してからは、使用人たちから酷い虐めに合っていた事。母親の形見のブローチを捨てられて、さすがに堪忍袋の緒が切れて使用人たちに訴えられたら、追い出された事。
やっぱり自分には、豪華な屋敷も、美しいドレスも宝石も不釣り合いなのだ。
「そんなにも辛い思いをしていただなんて…可哀そうに。アレックは何をしていたのだろうね」
「アレックを責めないであげて。アレックは国をより良くするために、寝る間も惜しんで必死に働いていたのだから。それにアレックは、今や国の英雄。もう私とは住む世界が違ったのよ」
「そうかい。ミレイちゃんがそれでいいなら、私たちはもう何も言わないよ。ミレイちゃん、随分と苦労したんだね。しばらくはこの村で、ゆっくり過ごすといい」
「ありがとう。そうそう、このパン、私が王都でお世話になっていたルイーザさんのお店のパンなの。とても美味しいから、食べてみて。それから私、すぐに働こうと思っていて。以前お世話になっていた食堂で、また働かせてもらえたらと思っているのだけれど」
ちなみにその食堂は、リマも働いているのだ。
「それだったら、私が女将さんに話してあげる。今ちょうど人も足りていないし、きっと大喜びで雇ってくれるわよ」
「本当?それじゃあ、早速食堂に行きましょう。出来れば明日から働きたいの」
「明日から働くの?そんなに急がなくても…」
「私ね、ずっと屋敷にいて、本当に何もさせてもらえなくて辛かったの。だから、すぐにでも働きたくて」
「わかったわ、それじゃあ、私から女将さんに話しておいてあげる。とにかく、今日はゆっくり休んで」
「そうだよ、今日はゆっくり休みな。家は定期的に掃除しておいたから、すぐに住み始められると思うよ」
「ありがとう、2人とも」
久しぶりに我が家に戻る。やっぱりこのこじんまりとした部屋が、一番落ち着くわ。アリおばさんが言っていた通り、家は比較的綺麗だ。それでもずっと留守にしていたから、部屋中を掃除した。
そして必要な物を買いに行く。市場に出ると、皆が私に声を掛けてきてくれる。それがなんだか嬉しい。やっぱりこの村が一番だわ。
買い物の後は、両親のお墓へと向かった。
”お父さん、お母さん、今日村に帰ってきました。アレックとは別々の道を歩むことになってしまったけれど、どうか許して。それから…お母さんが大切にしていたブローチ、捨てられてしまったの。本当にごめんなさい”
両親に報告をした後、再び自分の家に戻ってきた。本当に王都では色々な事があった。これからはこの村で、アレックの事は忘れて、ひっそりと暮らそう。
それが私の、住む世界だから…
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