第30話 総裁を辞めます~アレック視点~

裁判が終わると、宮殿に戻ってきた。ミレイがいなくなってから、俺がミレイの為に準備した屋敷は売り払い、今は宮殿に住んでいる。ミレイが元使用人たちに酷い目にあったあの場所を、一刻も早く手放したかったのだ。


「アレック、ミレイちゃんを迎えに行くのだろう?また王都で暮らすのなら、やはり屋敷は準備した方がいいだろう。宮殿の近くに、よさそうな屋敷があるんだ。そこを改良して、新たな住処にしたらどうかな?」


「ありがとう、グディオス。でも、もうミレイは王都には戻って来ないよ。あれほどまでに酷い仕打ちを受けたんだ。それにミレイは、豪華な暮らしも、ドレスも宝石もいらないんだよ。ただ、今まで通り仕事をして生活したいらしい。俺はそんなミレイの気持ちを、今度こそ大切にしたいんだ」


「そんな…ミレイちゃんの為に、それこそ血の滲む様な努力をして来たのに!アレック、俺がミレイちゃんを説得するよ。もとはと言えば、クリミアのせいでミレイちゃんを傷つけてしまったのだから」


必死に訴えてくるグディオス。でも…


「グディオスの気持ちは嬉しいが、俺はもう、ミレイを傷つけたくはない。俺はミレイが幸せに暮らしてくれることが、一番幸せなんだ。ミレイは優しいから、グディオスが説得すれば帰って来てくれるかもしれない。でも、それはミレイの意思を無視し、ミレイに無理をさせてしまっている事になるだろう?俺はもう二度と、ミレイに辛い思いも無理もして欲しくないんだよ」


自分の愚かな行動のせいで、ミレイを傷つけてしまった。ミレイは贅沢なんて望んでいない。ただ、今まで通り、平民としてひっそりと暮らしたかったのだろう。


「それじゃあ、アレックはミレイちゃんを諦めるのかい?本当にそれでいいのか?アレックはミレイちゃんがいないと、食事も喉を通らないし、眠る事だって出来ないだろう?ミレイちゃんが行方不明になった時もそうだったし、今だってろくに食べ物を食べていないじゃないか!」


グディオスの言う通り、俺はミレイがいないと何もできない。ミレイは俺にとって、生きる希望なんだ。


「グディオスが言う通り、俺はミレイがいないと生きていけない。だからグディオス、お前に頼みがあるんだ!俺の頼みを、聞いてくれるかい?」


「頼み?もしかして…」


「俺は村に戻り、ミレイと2人でひっそりと暮らそうと思っている。そもそも俺は、ミレイとの幸せな未来を夢見て、必死に戦って来たんだ。ただそれだけ…総裁になりたかったわけでも、豪華な生活をしたかったわけでもない。ただ、ミレイが笑顔でいてくれる国にする事だけが、俺の目標だった」


ぜいたくな暮らしも、総裁という肩書も、俺には必要ない。俺にはミレイがいてくれたら、それだけでいいんだ。


「俺は総裁を辞めて、故郷でもあるナリーシャ村に帰る。だからどうか俺の代わりに、お前が次の総裁になってくれ。グディオスならきっと、もっともっといい国に出来ると思うんだ」


「待ってくれ、アレック。今まで必死にこの国を良くしようと、動いて来たのはアレックだろう?それなのに、故郷に帰るだなんて。俺は嫌だよ!アレックと共に、この国をより良くしていきたい。どうか考え直してくれ!ミレイちゃんには俺から説得を…」


「これ以上、俺の為にミレイを苦しませたくはないんだよ。お前だって見ただろう?俺の屋敷で、ミレイがどれほど傷つき、やせ細って行ったかを。俺はミレイを犠牲にしてまで、この国を良くしていきたいなんて考えていない!俺はミレイが一番大切なんだ。こんな俺が総裁なんて、そもそも間違っていたんだよ。頼む、グディオス、どうか総裁を引き受けてくれ」


この通りだ!と言わんばかりに、必死に頭を下げた。


「分かったよ…俺の方こそ、悪かったな。お前がどれほどミレイちゃんを愛しているか、誰よりも知っているつもりだったのに…俺が必ずこの国をもっともっといい国にするよ。だから、安心して故郷に帰れよ」


「ありがとう、グディオス。本当にすまない」


グディオスの手を握り、何度も何度も頭を下げた。


「お前には今まで随分と助けられてきたからな。アレック、村に帰っても、ずっと友達でいてくれるか?」


「ああ、もちろんだ。離れていても、俺たちはずっと親友であり、パートナーだ」


5年以上もの間、苦楽を共にしてきた親友、グディオス。彼には本当に感謝しかない。


その後の革命軍の会議で、正式に俺が総裁の座を降り、グディオスが新総裁になる事が決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る