第27話 俺がやらなければいけない事~アレック視点~

「突然申し訳ありません。ミレイは来ていませんか?」


パン屋に着くと、ルイーザさんに声を掛けた。周りにはたくさんのお客さんがいて、俺の顔を見て驚いている。本来なら総裁でもある俺が、こんな風に一個人のお店を訪ねるべきではないとは分かっている。でも、今はそれどころではないのだ。


ルイーザさんも周りを気にしてか


「どうぞこちらへ」


と、お店の奥へと案内してくれた。


「それでミレイはどこにいますか?」


俺の問いかけに、少し困った顔のルイーザさん。


「ミレイちゃんは、ここにはいませんよ」


「それじゃあ、どこに…」


「アレック様、あなた様はミレイちゃんがどんな状況に置かれていたか、ご存じですか?やせ細り、今にも倒れそうでした。一目でろくに食べ物を食べていないのだろうと分かりましたわ。無礼を承知で申し上げます。あなた様は、ミレイちゃんの何を見て生活をしていたのですか?私はあなた様なら、ミレイちゃんを幸せにして下さると確信して、あの時あの場所にミレイちゃんを置いて来たのです。それなのに…」


ルイーザさんの瞳から、ポロポロと涙が流れ落ちている。きっとミレイから、この1ヶ月の状況を聞いたのだろう。ほんの数ヶ月お世話になっただけのルイーザさんですら、ミレイの変わりように一目で気が付いたのに、俺は一体ミレイの何を見て来たのだろう。


「ミレイがいなくなって、初めて監視用の撮影機で、屋敷の様子を確認しました。まさかミレイが使用人たちに、あのような仕打ちを受けていただなんて…」


思い出しても腸が煮えくり返るほどの怒りを覚える。でも、一番悪いのは俺だ。ミレイにとって、敵しかいなかったあの場所に、1ヶ月もいさせ続けたのだから。


「そうですか、ミレイちゃんが受けた仕打ちに、ようやく気が付いたのですね。でも、傷ついたミレイちゃんの心は、元には戻りません。私はミレイちゃんを苦しめたその使用人と、クリミアという女性が許せません。少しでもミレイちゃんに申し訳なく思うのでしたら、どうか彼らをしっかりと裁いて下さい。よろしくお願いします」


「もちろんです。あの者たちは、主でもあるミレイの私物を捨てただけでなく、勝手に売り払っていたのです。これは立派な犯罪です。厳罰に処すつもりです。今、屋敷の映像を、革命軍が分析しています。それで、ミレイはどこに?」


「ミレイちゃんは、もう王都にはいません。アレック様、ミレイちゃんに少しでも申し訳ないと思っているのなら、もう彼女を解放してあげて下さい。あの子には、豪華な生活など苦痛でしかないのです。ミレイちゃんは、今まで生きて来たように、働きながら細々と暮らしたいようです。先日お店を手伝ってくれましたが、本当に生き生きしていて幸せそうでした。ですから、どうかお願いします」


「ルイーザさんは、本当にミレイの事を考えてくれているのですね。ありがとうございます。あなたのお気持ちは分かりました。俺はミレイの気持ちを全く考えていなかった。ミレイが何を望み、何に幸せを感じるのかを。ミレイを傷つけ苦しめ、俺の元を去るまで気が付かないだなんて、本当にどうしようもない男です。ミレイはきっと、俺に嫌気がさして、村に帰ったのですよね」


ミレイはきっと、故郷でもあるナリーシャ村に帰ったのだろう。元々ミレイは、ナリーシャ村が大好きだったから。


「嫌気がさしたわけではないと思いますよ。ただ、ミレイちゃんとアレック様の、住む世界が違いすぎただけです。ミレイちゃんにはミレイちゃんの、アレック様にはアレック様の住む世界があるのです。ミレイちゃんはきっと、アレック様の住む世界では暮らせないと、判断したのでしょう」


俺の住む世界か…


「ルイーザさん、ミレイの事を色々と気にかけて下さり、ありがとうございました。これからも宮殿に、美味しいパンを届けて下さい。それでは俺は、これで失礼いたします」


ルイーザさんのお店を後にすると、宮殿へと戻ってきた。


「アレック、ミレイちゃんは見つかったか?」


俺の元にやって来たのは、グディオスだ。


「ミレイはどうやら故郷に帰った様だ」


「そうか、それじゃあ、今からお前もミレイちゃんを迎えに、ナリーシャ村に向かうのだろう?後の事は任せておいてくれ」


「今の俺には、ミレイを迎えに行く権利はない…俺はミレイが苦しんでいる事にも気が付かず、ボロボロにしたのだから。俺が今やるべきことは、あいつらを裁く事だ。それで、使用人たちの尋問はどうなった?」


そう、俺が今やらなければいけない事は、あいつらを裁く事。ミレイを苦しめたあいつらを、絶対に許さない。


「今使用人たちに尋問をしているが、すぐにクリミアの居場所も吐いたよ。俺は今から、クリミアを拘束しに行く。俺との約束を破り、故郷を出て王都に来ていたのだから。使用人の話では、お前がミレイちゃんの為に買い与えたドレスや宝石の一部を、クリミアが持って行ったらしい。そもそも、許可なく人の屋敷に入り込んだ時点で、不法侵入罪が適用される。クリミアもしっかり裁こう」


「もちろんだ。俺も彼女の元に一緒に向かうよ」


グディオスと一緒に、クリミアさんが住んでいるであろう場所へと向かったのだった。

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