第24話 ナリーシャ村に戻ります

使用人たちに詰め込まれた荷物を持って外に出た私は、その足である場所へと向かった。


「いらっしゃい…て、ミレイちゃん、一体どうしたんだい?そんなにやせ細って」


「ルイーザさん、私…」


そう、ルイーザさんのお店だ。彼女の顔を見たら、一気に涙が込みあげてきた。


「ちょっと、大丈夫かい?とにかく、一旦部屋に入ろう。悪いけれど、店番を頼むよ」


近くにいた若い女性に声を掛け、私を店の奥へと連れて行ってくれた。きっとあの女性が、私の代わりに働いてくれている方のだろう。


「それで一体どうしたの?こんなに痩せて。アレック様と一緒にお屋敷で暮らしていたのではないの?」


心配そうな顔でルイーザさんが私に話し掛けてくれる。


「あのお屋敷には、私の居場所なんてなかったのです…私は、皆に嫌われていて…」


次から次へと溢れる涙を止める事が出来ずに、泣きじゃくってしまった。そんな私の背中を優しく撫でるルイーザさん。


「居場所がないとは、どういう事?皆に嫌われているとは?私にわかる様に説明して頂戴。とにかく、一度落ち着きましょう。温かい飲み物を準備するわ」


ルイーザさんが、紅茶と焼き立てのパンを準備してくれた。ルイーザさんの家のパンを食べた時、再び涙が溢れて来た。


「美味しい…なんて美味しいパンなのかしら…こんなに美味しいパン、久しぶりに食べたわ。ルイーザさん、私、使用人たちに嫌われていて。それで…」


この1ヶ月の出来事を、泣きながらルイーザさんに話した。アレックはほとんど家におらず、1人の間は使用人たちから酷い虐めを受けていた事。使用人たちはクリミア様の味方で、皆で私を追い出そうとしていた事。ついに母親の形見のブローチまで捨てられてしまった事を。


「なんて酷い人たちなの。それにしても、一体アレック様は何をしていたの?ミレイちゃん、どうしてアレック様にその事を話さなかったの?あの人ならきっと…」


「そんな事をしたら、アレックが心配するでしょう?アレックは今、とても忙しいので、私のせいで余計な仕事を増やしたくなったのです」


「だからって、使用人に虐められているのを、黙っているだなんて!それに、クリミアとかいう女も、許せないわ。ミレイちゃん、私も一緒にお屋敷に行くから、その使用人たちに抗議をしましょう。それから、アレック様にも全部ぶちまけるのよ。絶対に許せないわ!」


「ありがとうございます、ルイーザさん。でも私は、もう疲れてしまったのです。元々私は、豪華な生活には慣れておりませんでした。私は今まで通り、平民としてひっそりと暮らす方が幸せなのです。だからもう、アレックの事は諦めて、村に帰ります」


「ちょっと、ミレイちゃん。それでいいの?私は絶対にミレイちゃんを虐めた使用人たちを裁くべきよ!きっとアレック様も…」


「もう疲れてしまったのです。何もかもが…村に戻って、平穏な生活を送りますわ」


「…わかったわ、ミレイちゃんがそう決めたのなら、私は何も言わない。ただ、どうか今日は、家に泊って行って。そんなに早く帰らなくてもいいでしょう?それにあなた、随分やつれているし。この1ヶ月、ろくなものを食べさせてもらえなかったのでしょう?」


「ルイーザさん、ありがとうございます。こんな私に、優しくしてくださって。せっかくなので、今日はお世話になりますわ」


「それは良かったわ。あなたは随分辛い目にあっていたのだから、どうかゆっくり休んで。今部屋に案内するわ」


「ありがとうございます。それならお願いがあるのですが。今日1日、昔の様にお店を手伝わせていただけないでしょうか?私、ルイーザさんのお店で働いていた時が、とても幸せだったので。もちろん、お金はいりませんから」


「いいわよ。ミレイちゃんは本当に働き者だものね。それじゃあ、お店に出ましょう」


ルイーザさんと一緒に、久しぶりにお店に出た。私がお店に出ると


「ミレイちゃん、久しぶりだね。元気にしていたかい?あれ?随分と痩せてしまったのだね。可哀そうに、これでも食べな」


常連さんが私に話し掛けてくれる。その優しさが嬉しくて、つい笑みがこぼれた。やっぱり私、ルイーザさんのお店が大好きだ。この日は久しぶりにたくさん体を動かし、沢山笑い、たくさん話をした。


そして夜は、ルイーザさんの家族と共に、夕食を頂く。こんなに美味しい料理は、いつぶりかしら?そう思うほど、ルイーザさんの家のお料理は美味しかった。食後は以前私が使わせていただいていた部屋で、ゆっくり眠る。


こんなに穏やかな気持ちで寝られるのは、いつぶりだろう…


自分でもびっくりする程、心が軽い。アレックの事は好きだったけれど、やはり私は、あの屋敷で無理をしていたのだろう。アレックには申し訳ないが、やっぱり私は私らしく生きたい。そう強く思った。


翌日、朝一番で宮殿へと向かった私は、護衛の方にアレック宛ての手紙を託してきた。やはりこのまま、黙っていなくなるのはいけない、自分の気持ちをしっかり伝えておこうと考えたのだ。


宮殿を後にした私は、ルイーザさんと一緒に、駅までやって来た。


「それじゃあミレイちゃん、気を付けてね。また王都に遊びに来た時は、家に必ず寄って頂戴」


「ルイーザさん、本当に色々とお世話になりました。あなた様がいて下さったから、私は今まで生きてこられたのです。必ずまた、お店に遊びに行きますわ」


ルイーザさんに見送られ、汽車に乗り込む。有難い事に、沢山のパンのお土産までもらったのだ。本当にルイーザさんには感謝してもしきれない。


ルイーザさんとお別れした後は、自分の席に座った。これで王都ともお別れだ。もしかしたら、もう二度と王都に来ることはないかもしれない。


「さようなら、ルイーザさん。さようなら、アレック。さようなら、王都の街」


王都の街を見ながら、ポツリと呟いたのだった。




※次回、アレック視点です。

よろしくお願いいたします。

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