第23話 屋敷から追い出されました
「分かったわ…この屋敷には、私の居場所はないのね。それじゃあ、私は出ていくわ」
「そうですか、やっと出ていく気になりましたか。それは良かったですわ。これでやっと、クリミア様とアレック様が結婚できる」
えっ?今クリミア様と言った?
「どういう事?どうしてそこで、クリミア様の名前が出てくるのよ」
「ここにいる使用人たちは、もともとクリミア様の傍で働いていた使用人たちですわ。そう、私たちの使命は、あなたをこの屋敷から追い出す事」
「どうしてクリミア様は、そんな酷い事を…」
「あなたのせいで、クリミア様は故郷に帰らされたのよ。だからその腹いせですって。あの人、羽振りだけはいいから、毎月私たちに沢山のお金をくださるのよ。あなたを追い出すことに成功したら、50万マネを下さるとおっしゃったの」
要するに、この人たちは全てクリミア様が雇った人たちだったのね。そんな人を、どうしてアレックは…
「どうしてアレック様は、クリミア様の雇った人間を使用人にしたのだろう。そう思っているのね。それは、クリミア様をアレック様も愛しているからよ。ほら、アレック様は律儀でしょう?5年も待たせたあなたへの義理を果たしたかったのよ」
「違うわ。アレックは私を愛してくれているわ。そんな出鱈目、言わないで」
「それならどうして、クリミア様が雇っていた使用人たちを、ご自分のお屋敷で雇っているのでしょうね?もしかしたら、5年ぶりにあったあなたの姿に、絶望なされたのかもしれないわね。あなたより、クリミア様の方が数段美しいし。何よりもアレック様は、もうこの国のトップ。そんな人間が、田舎の村から出て来た野暮な娘を妻にしたいと思うかしら?」
確かにクリミア様はとてもお美しい女性だった。それに比べて、私は。
「もしかしたら、アレック様は試されていたのかもしれませんね。あなた様が、ご自分にふさわしい女性かどうか」
私を試していた?アレックが?
「もうおわかりでしょう?あなた様はアレック様にはふさわしくない。私達使用人全員がそう思っているくらいなのですもの。きっと市民たちも、同じことを思いますわ」
私はアレックにふさわしくない。確かにそうかもしれない。私はこんな贅沢な屋敷での生活は、性に会わない。ドレスも宝石も、全く欲しくない。私は動きやすいワンピースを着て、毎日忙しく働いていた方がずっと幸せだわ。
「もうあなた様とアレック様は、住む世界が違うのです。あなた様だって、今の生活が苦痛だったのでしょう?一生私たちに虐められながら、この生活を続けるのですか?わかったら、出て行ってくださいますか?アレック様には、あなた様はこの生活が嫌になって、出て行ったとお伝えしておきますから。それから、あなた様が出ていったら、代わりにクリミア様がこのお屋敷に住む予定になっておりますの。お2人はお似合いですものね」
確かにこのメイドが言う通り、私はもう、ここでの生活には耐えられない。いくら好きでも、どうにもならないことがこの世にはあるのかもしれない。
「ほら、そんなところで突っ立っていないで、分かったら出て行って頂戴。皆、ミレイ様がこのお屋敷を出ていくそうよ」
大きな声でメイドが叫ぶと
「それは本当か?よかったよかった」
「やっとこの女が出ていく事になったか。それはめでたいな」
「アレック様には、とてもではないけれど釣り合いませんから。それは良かったですね。それでは、さっさと出て行ってください」
皆がわらわらと集まって来たと思ったら、私の荷物を急にまとめだし、そのまま屋敷から追い出されてしまった。
皆が笑顔で手を振っている。
その姿を見た時、苦しくて辛くて、涙が溢れそうになった。
「やっと出ていく気になったのね。随分と長く居座ったものだわ」
この声は…
後ろを振り向くと、そこにはクリミア様の姿が。
「どうしてあなた様がここにいるのですか?故郷に帰られたのでは…」
「ええ、帰らされたわ。でも、少し前に王都に戻って来たの。それにしても、何なの、あなたの格好は?総裁でもあるアレック様の隣に立つ人間には見えないわね。安心しなさい、私がこれからは、アレック様を支えて行くから。田舎でずっと暮らしていたあなたには、荷が重すぎたのよ」
立派なドレスに身を包んでいるクリミア様。確かにこの国のトップに立つ様な男には、彼女の様な華やかな人間が合うのだろう。私にはとてもじゃないけれど、務まらないわ。
やっぱり私は、平民として細々と暮らしている方が、ずっと幸せなのよ。
「クリミア様、アレックの事、よろしくお願いいたします。失礼いたします」
ペコリとクリミア様に頭を下げると、そのまま歩き出した。この5年で、アレックは変わってしまったのだ。もう私の知っているアレックではない。アレックと私は、住む世界が違う。それなのに私ったら、本当にバカよね。
アレック、さようなら。どうか幸せになって。
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