第22話 もう限界です

「ミレイ、なんだか少し痩せたんじゃないのかい?きちんと食事を食べているのかい?最近元気がない様だし、顔色も良くないね。すまない、今が正念場で。あと少しで、落ち着く予定だから」


アレックの屋敷に来てから、1ヶ月が経った。相変わらず使用人たちからは邪険にされ続けているのだ。アレックも朝から晩まで家にいないため、ろくなものを食べさせてもらっていない。そのせいで、少し痩せてしまった。


「アレック、私の事は気にしなくてもいいわ。それよりも、今一番大変な時なのでしょう。どうか無理をしないでね」


「その件なのだが、明日から3日間、家を留守にする事になってね。本当は1日以上ミレイとは離れたくはないのだが、どうしても外せない用事があって…ミレイ、すまないが、留守番をしていてくれるかい?」


「えっ…3日間も留守にするの?」


3日間もアレックがいなかったら、私はどうやって生きていけばいいの?さすがに耐えられないわ。


「すまない、なるべくすぐに戻るから。どうかこの屋敷で待っていて欲しい。それから、最近体調がすぐれない様だから、医者を手配する様に使用人には伝えておく。一度医者に診てもらってくれ。今のミレイを見ていると、昔の両親を見ている様で、なんだか不安なんだ。もしかしたら、何らかの病気にかかっているのかもしれない」


病気ではない。私はただ、栄養不足とストレスから体調がすぐれないのだが、そんな事はとてもアレックには言えない。


「私は大丈夫よ。出来るだけ早く帰って来て…」


「ああ、分かっているよ。寂しい思いをさせてしまって、本当にごめん。結婚式の準備も進めているから。愛しているよ、ミレイ」


「私も…」


愛している…その言葉が、どうしても出てこない。


「ミレイ…とにかく今日はもう寝よう。ミレイも疲れているのだろう。さあ、こっちにおいで」


アレックがベッドに連れてきてくれた。この1ヶ月、本当に毎日辛かった。アレックに出会えた時は、幸せでたまらなかったのに…


このままアレックと一緒にいても、私は幸せになれるのかしら?いっその事、アレックと離れた方が…


ダメよ!アレックは私の為に、本当に色々と頑張って来てくれているのだもの。こんな事でアレックを裏切ってはいけないのよ。私さえ我慢すれば、それでいい…


そう自分に言い聞かせて、眠りについた。


翌日


「それじゃあ行ってくるけれど、くれぐれも無理はしないでくれ。皆、どうかミレイの事を、よろしく頼む」


「「「かしこまりました」」」」


使用人たちが元気に挨拶をしている。でも、きっとこの人たち、また私を虐めるのだわ。


不安そうな顔で馬車に乗り込むアレックを見送る。アレックの姿が見えなくなると


「ミレイ様、邪魔です。今からその場所を掃除いたしますので。どうかどいて下さい」


いつもの様に使用人たちが、私を邪魔者扱いしてくる。仕方なく急いで自室へと戻ってきた。これから3日間、どうやって過ごそうかしら?考えただけで、胃がキリキリと痛む。


そうだわ、ブローチを付けないと。


そう、お母さんの形見のブローチ。お父さんがお母さんと結婚するときに、贈ったものらしい。お母さんがいつも大切に付けていた。


私も毎日そのブローチを付けているのだ。あのブローチを付けていると、両親に見守られている様な、そんな気がする。


でも…


「あら?ブローチがないわ。どこに行ったの?」


いつも置いてあるところに、ブローチがない。どこ?どこなの?必死にブローチを探していると


「ミレイ様、このお部屋を掃除いたします。すぐに部屋から出て行ってください」


「私のブローチを知らない?花の模様をしたブローチよ」


相変わらず私を睨みつけながらやって来た使用人たちに、ブローチについて聞いた。すると


「ああ、あの小汚いブローチなら捨てましたよ。あなた様は仮にもアレック様の恋人。あのお様なブローチを付けていては、品格が失われますわ」


「捨てたですって…あれは母の形見のブローチだったのよ。それを勝手に捨てるだなんて」


「そんな大切な物を、そこらへんに置いておく方が悪いのです。さあ、文句を言っていないで、出て行ってください」


そこらへんに置いておく方が悪いですって?


「ふざけないで!そもそもここは、私の部屋よ。それなのに、人の部屋にあるものを勝手に捨てるだなんて!」


「うるさいですよ!ブローチごときで文句を言って。あなたの様な人が、アレック様の恋人で、もうすぐ結婚されるだなんて。アレック様もお可哀そうに、こんな器の小さな女と結婚するのだから。アレック様には、もっとふさわしい女性がごまんといるでしょうに」


どうしてこの人たちにここまで言われないといけないの?


私の中で、何かが切れる音がした。

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