第21話 辛いです

アレックのお屋敷に来て、1週間が過ぎようとしていた。アレックは毎日朝早く出ていき、夜遅くに帰ってくる日々。毎日特にする事もなく、日々過ごしている。


「ミレイ様、またお部屋でボーっと過ごされて。あなた様はいいですね。毎日毎日、そうやって何もせずに生活できて。アレック様にどうやって取り入ったか知りませんが、本当に羨ましい限りですわ。掃除の邪魔ですので、どこかに行ってください」


朝からメイドたちに部屋から追い出された。なぜか私は、メイドたちから嫌われている。正直、この屋敷に私の居場所なんてないのだ。


部屋にもいられず、中庭へとやって来た。1人ベンチに座る。


すると


「ミレイ様、今から中庭の手入れをするのです。邪魔ですから、お部屋にお戻りください。本当に、毎日毎日何もせずに過ごして、アレック様はこんな怠け者の女のどこがいいのだか!」


「ごめんなさい、すぐに移動するわ」


ここでも庭師に邪険にされた。いよいよ行くところが無くなった私は、1人外に出て来た。ふと空を見上げると、真っ青な青空が広がっている。


今頃ルイーザさんのパン屋さんは、お客さんがピークを迎える頃よね。あの頃はよかったわ、皆私を必要としてくれて。毎日が楽しかった。


「あの頃に、戻りたいな…」


ポツリとそんな事を呟く。でも…


もしまた私が、この屋敷を出ていったら、きっとアレックが悲しむわ。アレックはこの5年、私との幸せな未来の為に、それこそ最前線で必死に戦っていたと、アレックのご友人でもある、グディオス様が言っていた。


それに私がアレックに会いに王都に来た後も、それこそ寝る間も惜しんで私を探し続けていたらしい。そんな話を聞いたら、もうアレックを悲しませるような事は絶対したくない。


それに今、アレックはこの国の為に一生懸命働いているのだ。要らぬ心配をかけたくはない。だから、私が我慢すればいい。


そう思い、必死に耐える。


「ミレイ様、こんなところにいらしたのですね。昼食の準備が整いました。すぐに食堂へ」


「分かったわ、ありがとう。すぐに行くわね」


メイドが嫌そうな顔をして呼びに来たのだ。急いで食堂へと向かう。ただ…そこには、アレックがいる時とはうってかわって、固いパンとスープだけが並んでいた。


そう、なぜか私が1人で食事をするときは、いつも固いパンとスープのみなのだ。どうして私はこんな仕打ちを受けないといけないのだろう。


気が付くと涙が溢れ出る。


「そんなところで、ビービー泣いていないで、さっさと食べて下さい。本当に、どうしてアレック様はこんな役立たずをこの屋敷に置いておくのでしょうね。さっさと出て行ってくれたらいいのに…」


すかさずメイドが私を怒鳴りつける。どうして…どうして私がこんな思いをしないの?それでもアレックには、迷惑を掛けたくはない。そう思い、急いで食べ物を口に入れた。


その日の夜も、同じように硬いパンとスープだけ。ルイーザさんの家のパンが食べたい…そう思いつつ、1人静かにベッドの中で泣いていると。


「ミレイ、ただいま。もう寝たのかな?今日も遅くなってごめんね」


部屋にやって来たのは、アレックだ。いけない、泣いているところがバレたら大変だ。すぐに寝たふりをする。すると、そのままベッドに入って来たアレック。そして、ギュッと抱き着いて来た。


「ミレイ、ごめんね。寂しい思いをさせてしまって。でも、今日もいてくれてよかった」


私の耳元で、アレックが呟く。そして、あっと言う間に寝息を立てて眠ったアレック。相当疲れているのだろう。


アレックの寝顔を見ながら、再び涙が溢れだす。


アレック、私、このお屋敷に居場所がないよ。皆私を邪険に扱うの。私、ルイーザさんに元に帰りたい。アレックにそう言いたいが、もちろん言える訳がない。


辛い…

こんなに辛いなら、いっその事、アレックに見つからなければよかったのに…


ついそんな事を考えてしまう。


ダメよ、アレックは私を愛してくれているのだから。私もアレックの気持ちに応えないと。とにかく、耐えるのよ。アレックが落ち着けば、きっと今の生活も、少しは改善されるはず。


そう自分に言い聞かせる。でも、このままずっと、邪険にされ続けたら…


考えれば考えるほど、涙が溢れ出す。


とにかくもう寝よう。1人涙を流しながら、眠りについのだった。

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