第20話 アレックは忙しい様です
翌朝、目が覚めると隣にはアレックの姿が。私を抱きしめながら、ぐっすりと眠っている。子供の頃、こうやって2人で寝ていたわね。なんだか懐かしいわ。そんな事を思いながらアレックの寝顔を見つめる。
すると、ゆっくりと瞼が上がり、緑色の瞳と目があった。
「おはよう、アレック」
「おはよう、ミレイ。すまない、昨日は寂しくて、つい君の布団に入ってしまった」
申し訳なさそうにアレックが謝っている。
「そんな事は気にしないで。なんだか昔の事を思い出して、懐かしい気持ちになったの。ほら、昔はこうやってよく2人で寝たでしょう?私たちの両親は、昼夜問わず働いていたから、まだ幼かった私たちは、いつも2人でいたものね」
あの頃は本当に貧しく、両親は寝る間も惜しんで働いていたのだ。
「そうだったね。ミレイ、俺は二度と両親の様な人間を生み出したくない。その為に今、この国を平民による平民の為の国にするべく、色々と進めているんだ。本当はミレイとずっと一緒にいたいのだが、何分忙しくて。少し寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、どうか少しだけ我慢して欲しい」
「ええ、分かっているわ。アレックがこの国の人々の為に必死に戦ったという事も、そして今、国民の為に身を粉にして働いているという事も。ただ、無理だけはしないでね。あなた、かなりやつれているわよ。私の事は気にしなくていいから、どうか自分の事だけ考えて」
相当激務の様で、随分とやつれてしまっている。もしアレックに何かあったらと考えると、気が気ではないのだ。
「ありがとう、ミレイ。それじゃあ、朝食にしよう。そうだ、その前に着替えをしないと。すぐにメイドに着替えさせてもらうといい」
「着替えなら1人で出来るわ。それに誰かに着替えさせてもらうだなんて…」
「でも、それがメイドたちの仕事だからね。メイドの仕事を取ってしまうのは良くないよ。それじゃあ、俺は食堂に行っているから」
そう言うと、足早に部屋から出て行ったアレック。メイドの仕事か…
その後アレックと入れ違いでやって来たメイドに、着替えさせえてもらう事になった。ただ…
「痛っ」
乱暴に服を着せられたので、つい声を上げてしまった。
「申し訳ございません。ただ、ミレイ様も私共が着せやすい様に、ご配慮いただきたいですわ」
そう冷たく言われてしまったのだ。
「ごめんなさい、服を着せていただくのは初めてで…」
「そうでしたわね。それは失礼いたしました。さあ、着替えが終わりました。早くアレック様の元に向かわれた方がよろしいのではないですか?」
再び冷たく言い放つメイドの方。
「そうね、そうするわ。ありがとう」
急いで部屋から出て、食堂へと向かう。
「アレック、待たせちゃってごめんなさい」
「急がなくてもよかったのに。あれ?ミレイ、この傷、どうしたの?」
怪訝そうにアレックが私の方にやって来た。どうやら洋服を着せてもらう時に、擦れてしまった様だ。でも、そんな事を言ったら、きっとメイドたちが怒られてしまう。
「さっきちょっと擦ってしまって」
「そうだったんだね。可哀そうに。すぐに手当てをしてもらおう」
アレックが近くにいたメイドに声を掛けようとしている。
「大したことないから大丈夫よ。せっかくのお料理が冷めてしまうわ。頂きましょう」
「そうかい?それじゃあ、食後すぐに手当てをしてもらうんだよ。それじゃあ頂こう」
昨日の夜と同じく、豪華な食事が並ぶ。朝からこんなに豪華な食事を頂けるだなんて、本当に贅沢ね。
朝食が終わると、すぐにアレックが出掛ける準備を始めた。
「すまない、ミレイ。今日は少し遅くなりそうなんだ。悪いが先に夕食を食べていてくれるかい?」
「ええ、分かったわ。アレック、気を付けてね」
「ああ、ありがとう。それから、王都はまだまだ治安が良くない。どうか屋敷からは出ない様にしてくれ。それじゃあ、行ってきます」
笑顔のアレックを見送る。相当急いでいたのだろう。馬車に飛び乗って出かけて行った。きっと昨日も、私のせいで途中で帰って来ていたから、仕事が溜まっているのだろう。これからはアレックにあまり迷惑を掛けないようにしないと。
さて、アレックも出掛けた事だし、私は何をしようかしら。そう思いつつ、自室に戻ってきた。
すると、メイドたちが忙しそうに部屋の掃除をしていた。
「ミレイ様、もう戻っていらしたのですか?今掃除中です。出て行ってもらえますか?」
メイドたちが私の顔を見るなり、嫌そうな顔をしている。
「ごめんなさい。そうだわ、私も何かお手伝いを…」
「あなたは私達の仕事を奪う気ですか?とにかく、邪魔なので出て行ってください」
そう言って追い出されてしまった。邪魔だなんて…
私はどうやら、メイドたちから嫌われている様だ。アレックも忙しそうだし、私、これからこのお屋敷でやっていけるのかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。