第19話 やっとミレイと一緒にいられる~アレック視点~

「総裁、昨日のパン屋の女性が、ミレイ様と思われる女性を連れて訪ねて来ていらっしゃいます」


「何だって?昨日のパン屋の女性がかい?」


ミレイがいなくなって4ヶ月。俺はミレイを探す傍ら、市民たちの暮らしを安定させるべく、積極的に街の店から食材などを仕入れて来た。そして昨日、王都でも人気のパン屋を紹介してもらい、実際にパンを持ってきてもらって試食したのだ。


とても柔らくて美味しいパンだったことを覚えている。ミレイにも美味しいパンを食べさせてやりたい、そんな事を考えながら、ミレイの特徴が書かれた紙を夫婦に渡した。見た感じ悪い夫婦には見えなかったが…


ミレイを名乗る人物が連日押し寄せている。そのたびに、また人違いだろうと思いつつも、もしかしたら本当にミレイかもしれない。そんな淡い期待を抱き、条件に合う女性に会っては落胆する毎日を送っている。


今日も空振りに終わるかもしれない、それでも、せっかく訪ねてきてくれたのだから、一度会ってみよう。そう思い、彼女たちが待つ部屋へと向かう。


部屋に入ると、そこにいたのは…


「ミレイ…ミレイ!!」


間違いない。ミレイだ。5年ぶりに見るミレイは、随分と大人っぽくなっていた。背も伸び、どこからどう見ても大人の女性だ。それでも昔の面影は残っている。そんなミレイを強く抱きしめた。温かくて、柔らかくて、あの頃とちっとも変っていない!


やっと…


やっとミレイに会えた。もう二度とミレイを離すまい!これからはミレイには、ずっとずっと楽をさせてあげたい。欲しいものは何でも与え、何不自由ない暮らしをさせてあげたい。ずっと辛い思いをして来たミレイ、その上5年もの間寂しい思いをさせて来たのだから。


ただ、嬉しくて力いっぱい抱きしめてしまったせいで、ミレイを窒息死させてしまうところだった。ちょっと体を鍛えすぎた様だ。


気を取り直して、ミレイの話を聞く事にした。どうやら俺に会いに王都に来たらしいが、俺の部下にクリミアさんとの話を聞き、諦めて村に帰ろうとしたのだが、盗人に荷物を取られてしまったらしい。途方に暮れている時に、ルイーザさんに助けられ、今の今までルイーザさんのお店で働きながらお世話になっていたとの事。


どうやらミレイは、優しい女性に助けられていた様だ。とにかくクリミアさんとの誤解を解かないとと思い、必死にミレイに訴えた。俺とクリミアさんは何の関係もない事、俺はこの5年、ミレイだけを思っていたことを。


ミレイも分かってくれた様で安心した。


もうミレイと離れたくはない、すぐにでも屋敷に連れて帰ろう。ミレイと2人で住むために準備した屋敷に。


そう思っていたのだが、ミレイはルイーザさんと一緒に店に戻ると言い出したのだ。ミレイは一体何を言っているのだろう。せっかく再会できたのに、それではまた!なんて、なる訳がない。何より俺は、もうミレイを働かせるつもり何て微塵もないのだから。


俺の気持ちを汲み取ってくれたルイーザさんからも説得されたミレイ。ルイーザさんが話の分かる人で良かった。


早速ミレイを連れて屋敷に戻ってきた。ずっと村で暮らしていたミレイは、見る物全てが珍しい様で、目を丸くしていた。これからはこの屋敷で、何不自由ない生活を送って欲しいと思っている。


その日はミレイと一緒に、久しぶりに夕食を食べた。


「アレック、今日は何かのパーティーなの?こんな豪華なお料理、初めて見たわ。このお肉、柔らかいのね。野菜も新鮮でおいしいわ。本当にお姫様になった気分」


「ミレイは本当に大げさだね。これからは毎日、こんな料理が並ぶよ。さあ、沢山食べて」


嬉しそうに料理を頬張るミレイを見ていると、俺も食欲がわいて来た。今まではミレイが心配すぎて、ほとんど食事も喉を通らなかったが、今日はいつも以上に沢山食べた。


その後は湯あみをして、それぞれの部屋で就寝する。本当は今日から一緒に寝たいところだが、一応俺たちはまだ結婚していない。さすがに結婚するまでは、寝室を一緒にするのは良くないだろう。


分かってはいるが、5年ぶりに会ったミレイが愛おしすぎる。それでもなんとか1人で寝ようとしたのだが、もし目が覚めた時、またミレイがいなくなっていたら…そう考えると、不安でたまらず、中々眠る事が出来ない。


ミレイが行方不明になってからというもの、俺は不安からほとんど眠る事が出来ていなかったのだ。ミレイが見つかった今も、やはり不安で眠れない。


このままじっとしていても仕方がない。こっそりと、ミレイの部屋にやって来た。規則正しい寝息を立てて眠るミレイの髪をひと房取ると、口づけをする。


「ミレイ、今まで辛い思いをさせて本当にすまなかった。これからは、どうかゆっくり過ごして欲しい。ミレイ、愛しているよ…」


眠るミレイの布団に潜り込み、ギュッとミレイを抱きしめた。ミレイの温もり…子供の頃、よく2人でこうやって眠ったな…懐かしい。


あの頃よりも随分大人になったな。それでも、ミレイはあの頃とちっとも変っていない。この温もり…やっぱり落ち着くな…


ミレイの温もりを感じながら、そのまま眠りについたのだった。




※次回、ミレイ視点に戻ります。

よろしくお願いいたします。

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