第15話 再び宮殿に行く事になりました
お店を閉めた後、皆で夕食を頂く。食後私は、ルイーザさんのご厚意で貸していただいている部屋に戻り、湯あみを済ませた。
それにしても、ルイーザさんたちが一生懸命作ったパンが、偉い人たちに認められるだなんて。本当によかったわ。ルイーザさんの家のパン、本当に美味しいものね。そうだわ、村に帰るときは、ルイーザさんの家のパンを、お土産に持って帰ろう。
きっと皆、喜んでくれるだろう。
そんな事を考えている時だった。
「ミレイちゃん、ちょっといいかしら?」
やって来たのはルイーザさんだ。
「急にどうされたのですか?何かトラブルでも?」
「いいえ、そんなんじゃないのよ。ミレイちゃん、今日ね、あなたの幼馴染のアレック総裁もお見かけしたの。かなりやつれていらして、寝不足なのか目には酷いクマが出来ていたわ」
「まあ、アレックが?総裁の仕事とは、そんなに忙しいものなのね…」
そんな酷い姿になっているだなんて。総裁とはそれほどまでに過酷な仕事なのね。
「それでも、家のパンを食べて、“とても美味しいパンですね”とほほ笑まれたの。高貴な身分にもかかわらず、私達平民に寄り添う姿勢、本当に素敵な方ね」
アレックもルイーザさんのパンを食べたのね。
「ルイーザさん、アレックの様子を教えていただき、ありがとうございます」
思いがけず、アレックの様子を聞けてなんだか嬉しいわ。ただ、やつれているのが気になるが…
「それでね、帰り際にこんな紙を頂いたの」
すっとルイーザさんから紙を渡された。そこに書かれていたのは…
「この紙は…」
「その紙に書かれている捜索願いが出ている女性って、ミレイちゃんの事でしょう?もしかしたら、アレック総裁は、ミレイちゃんを探しているのではなくって?」
確かに紙に書かれている内容は、間違いなく私だ。でも、今更どうして私を探しているのかしら?もしかして、アリおばさんが、中々帰ってこない私を心配して、アレックに連絡をしたのかしら?
「とにかく、一度宮殿に出向いた方がいいと思うの。明日はちょうどパン屋も休みだし、私も一緒に付き添うから、一度宮殿に行ってみましょう」
確かにこのままにしておく訳にはいかない。一度宮殿に出向かないと。アレックにも直接おめでとうと言いたいし…
ただ…
正直まだ、アレックとクリミア様の顔を見て、おめでとうと笑顔で言えるか分からないが。それでも、やはり私を探している以上、一度顔を出すのが筋だろう。
「もしかしたら故郷に残してきた人たちが、私を心配してアレックに連絡を入れたのかもしれません。宮殿に出向いた後、一度故郷に帰ってもよろしいですか?」
「ええ、もちろんよ」
「これから宮殿にパンを納める事が決まって、色々と忙しくなる時にごめんなさい」
「そんな事は気にしなくていいのよ。とにかく明日、宮殿に行ってみましょう」
まさか宮殿に再び向かう事になるだなんて…
ただ、どうしてこんなビラまで作って私を探しているのか気になる。とにかく明日、宮殿に向かわないと。
翌日
「ミレイちゃん、準備は出来た?」
「はい、大丈夫ですわ。ルイーザさん、せっかくのお休みなのに、私の為にごめんなさい」
「そんな事、気にしないで。そうだわ、宮殿に行った後は、久しぶりにランチでも食べて帰りましょう」
「ランチですか。いいですね、なんだか楽しみになってきましたわ」
きっと緊張している私を和ませるために、気を使ってくれているのだろう。ルイーザさんはそう言う人だ。
今日は宮殿に行くとあって、新しく買ったワンピースを着ていく事にした。ルイーザさんと一緒に街を巡回している馬車に乗り込み、宮殿を目指す。宮殿の前で馬車を降り、丘を登って行く。
なんだか緊張してきたわ。
「ミレイちゃん、大丈夫?私も傍にいるから、安心して」
「ありがとうございます、ルイーザさん」
ルイーザさんがそっと私の手を握ってくれる。温かくてなんだか落ち着く。ルイーザさんは本当に頼りになる。きっとお姉さんがいたら、こんな感じなのだろう。
しばらく歩くと、立派な門が見えて来た。
「あの…このビラを見て来たのですが」
ルイーザさんが門番に話しかけている。すると私の顔をまじまじと見た後
「どうぞこちらへ」
この前とは打って変わって、すっと宮殿に入れてくれたのだ。
「ミレイちゃん、いきましょう」
ルイーザさんと一緒に、宮殿へと入って行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。