第14話 さすがルイーザさんの家のパン屋さんだ

ルイーザさんのパン屋さんでお世話になって、早4ヶ月。あと少しで村に帰る為の資金が貯まる。


ただ、おばさんたちにお土産を買って帰りたいので、もう少しお金を貯めてから村に帰る事にしている。


今日もルイーザさんと一緒にお店に出て、接客を行う。最近特にお客さんも増え、毎日大忙しだ。


「ミレイちゃん、今日もお客さんが多かったわね。疲れたでしょう?そろそろお店を閉めましょうか?」


「はい、それじゃあ、お店を閉める準備をしますね」


そう思い、お店を閉めようとした時だった。


「すみません、まだよろしいでしょうか?」


メイド服を着た女性が数名、入って来たのだ。メイドさんが買いに来るだなんて、珍しいわね。


「いらっしゃいませ。あの…もうお店を閉めようと思っていたのですが…」


ルイーザさんも私と同じことを思ったのか、少し困惑顔だ。


「そうでしたか、それは申し訳ございませんでした。実はこちらのパンが非常に美味しいと評判でして。それで、明日パンを宮殿に届けていただきたいのですが」


「まあ、宮殿に家のパンをですか?」


「はい。ただ、他のパン屋さんとの兼ね合いもありますので、とりあえず毎月5の付く日に、パンを50~100程度、お店が負担にならない程度に届けていただきたいのです」


「まあ、そんなにたくさん。それも家のパンを高貴な方たちに食べていただけるだなんて…もしかして、詐欺ではないですよね」


「もちろん詐欺ではありません。実は総裁はじめ幹部の方たちが、“出来るだけ市民の経済が潤う様、王都の街のお店から食材を仕入れよ”とのお達しが出ておりまして。本当に総裁たちは、民の事を一番に考えているのですよ。とりあえず明日のパン代です。これで足りますか?」


メイドがかなりのお金をルイーザさんに手渡したのだ。


「こんなに…ありがとうございます。一生懸命作ります。どうかよろしくお願いします」


「よかったですわ。これが通行許可証です。これがあれば、宮殿に入れます。それでは明日、美味しいパンをお待ちしておりますね」


そう言って帰って行ったメイドたち。


「ミレイちゃん、家のパンが、宮殿にいる革命軍の幹部の方たちの口に入るのですって!信じられないわ。うちのパンが偉い人たちの口に入るのよ!どうしましょう。こうしちゃいられないわ、早速皆にも伝えないと!でも、もし家のパンがお口に合わなかったら、どうしよう」


いつも冷静なルイーザさんが、珍しくアタフタしている。


「ルイーザさん、落ち着いて下さい。このお店のパンは、どのお店のパンよりも美味しいのですよ。私が保証しますわ。だから、どうかいつも通り、美味しいパンを焼いていただければ大丈夫です」


もしかしたら、アレックもこのお店のパンを食べてくれるかもしれない。そう思ったら、なんだか私も嬉しい。


翌日、早速朝からルイーザさんの両親と旦那さんが、一生懸命パンを焼いた。私もパンを包む作業などを手伝う。どれもとてもいい匂いがするわ。とても美味しそう。


「ルイーザ、気をつけて行ってくるのだよ。くれぐれも、粗相のないようにね」


「ええ、大丈夫よ。それじゃあ、行ってくるわね」


今日は宮殿に行くという事で、ルイーザさんだけでなく、旦那さんも付いていく様だ。少し緊張気味の2人を見送る。


「さあ、私たちはお店の開店の準備をしましょうか。ミレイちゃん、今日もよろしくね」


「はい、もちろんですわ」


早速焼きあがったパンをお店に並べていく。宮殿にパンを納めると言っても、いつも通りお店も開けるのだ。いつもは5人で行っているところ、今日は3人。いつも以上に大忙しだ。


ルイーザさんのお父さんがパンを焼き、お母さんが配達を行い、私がお店で接客をする。今日も相変わらず大盛況だ。


「ルイーザ達、パンを納めるだけなのに、一体何をしているのだろうね」


ルイーザさんのお母さんが呟いた。ふと時計を見ると、もうお昼前。朝早く出て行ったのに、確かに遅い。


「もしかしたら、これから納めるパンについて、色々と話をしているのかもしれませんね。もうすぐ帰って来るでしょうから、それまで何とか頑張りましょう」


心配そうなお母さんを宥めつつ、お客さんをさばいていく。そしてお昼過ぎ、やっとルイーザさんたちが帰って来たのだ。


やはり今後のパンの納品について、色々と話をしていたらしい。さらに実際に幹部の方たちがパンを食べる姿も、見守っていたらしい。かなり好評だったそうで、5の付く日以外にも、3の付く日と7の付く日にもパンを納める事になったらしい。


さすがルイーザさんの家のパン屋さんだ。革命軍の幹部たちからも気に入られるだなんて。


嬉しそうに話すルイーザさんを見て、私もつい笑みがこぼれたのだった。

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