第13話 王都の生活も随分慣れてきました
王都で生活を初めて、早3ヶ月。ルイーザさん家族のご厚意いで、私はパン屋さんで働かせてもらっている。朝早くにルイーザさんの旦那さんとお父さん、お母さんが焼いたパンを、私とルイーザさんで売るのだ。
有難い事に、毎日焼き立ての美味しいパンを頂いている。最近では、ルイーザさんが配達に行っている間に、店を1人で任されることもあるのだ。
さらにお休みの日には、ルイーザさんと一緒に、王都の街に買い物に出たりもした。王都にはびっくりする程、いろいろな物が売っているのだ。
ただ…
時折アレックの事を思い出す事もある。アレックはどうやらこの国で一番偉い人、総裁になったらしい。もしかしたら、近々クリミア様との婚約発表も行われるかもしれないわね。
正直まだ、アレックの事を忘れられていない。でも…アレックはこの5年、誰よりも苦労してきたのだ。だから私は、アレックの為に身を引くと決めた。
もしも…もしも叶うのなら、いつかアレックと笑って話せる日が来るといいな、なんて図々しい事を考えている。アレックはもう、私が気軽に会える人ではなくなってしまったのに…
そんな事を考えながら、毎日忙しく過ごしている。今日も朝からたくさん来るお客さんの相手をしている。
「ミレイちゃん、悪いけれどちょっと配達に行ってくるわね。後は頼んだわ」
「はい、任せて下さい」
忙しそうにパンを馬車につめ、出掛けていくルイーザさん。彼女のお店は、王都でもかなりの人気店で、毎日沢山のお客さんがやって来るのだ。この2ヶ月で私の事を覚えてくれた常連さんも多い。
「ミレイちゃん、今日もいつものパンを。それからこれ、その…よかったら受け取って欲しい」
「まあ、綺麗な花束。こんな素敵な花束、頂いていいのですか?ありがとうございます。すぐにパンを準備しますね」
なぜか常連のお客さんから、ちょこちょこプレゼントをもらうのだ。有難いのだが、なんだか申し訳ない。
「ミレイちゃん、店番ありがとう。あら?今日もミレイちゃん目当てに、沢山の男どもが来たのね。このプレゼントは…相変わらずミレイちゃんの人気は凄まじいわね。ミレイちゃんがこのお店で働くようになってから、明らかに若い男性客が増えたのよ」
配達から戻ってきたルイーザさんが、そう言って笑っている。
「ルイーザさんったら。私をからかって!」
「あら、別にからかっている訳ではないわ。現に若い男性客から、ミレイちゃんに彼氏がいるのかどうか、食事に誘いたいのだけれどとか、色々と聞かれるのよ。ミレイちゃん、あなたは可愛いのだから、男どもが放っておかないのね。ねえ、ミレイちゃん、ずっと王都にいたら?あなたがいてくれると、私も助かるし。王都にはたくさんの男もいるし、きっとミレイちゃんに合う男性も見つかると思うの」
「ありがとうございます、でも…村には私の事を心配してくれている人もいるので。ある程度お金が貯まったら、一度村には帰ろうと思っています。ただ、パン屋のお仕事も大好きなので、また王都に戻って来てもいいですか?」
きっとアリおばさんやリマが、私の事を心配しているだろう。一度村に帰って、状況を説明したい。
「また戻って来てくれるのなら、私は大歓迎よ。それで、いつ頃村に戻るつもりなの?」
「そうですわね、後1ヶ月くらい働いたら、一度村に戻りたいのですが…」
「分かったわ。ごめんなさいね、家がもっとお給料を出せればいいのだけれど…」
「何を言っているのですか?無一文になった私に、衣食住だけでなく仕事まで提供して頂いて。本当にルイーザさんには感謝しているのですよ。ルイーザさんがいらっしゃらなかったら、私は今頃野垂れ死んでいたでしょう」
本当にルイーザさんは命の恩人なのだ。彼女には感謝しても感謝しきれない程の恩がある。
「ありがとう、ミレイちゃん。そう言ってくれると、私も嬉しいわ。さあ、そろそろ店を閉めましょう。今日は残ったパンでサンドウィッチを作ろうと思っているのだけれど、ミレイちゃんも手伝ってくれる?」
「はい、もちろんですわ」
お店を閉めた後、ルイーザさんとルイーザさんのお母さんと3人で、夕食の準備を行う。そして、皆で夕食を頂くのだ。
両親が亡くなってアレックが出て行ってから、ずっと私は1人で食事をしていた。だからこんな風に誰かと料理をしたり、食卓を囲めることが嬉しくてたまらない。
ルイーザさんは、私に沢山の物を与えてくれた。本当に感謝してもしきれない。王都は正直怖いところだと思っていたけれど、ルイーザさんの様な優しい人も多いのだ。
それに充実した毎日を過ごしていると、アレックの事を考える時間もあまりない。このまま少しずつ、アレックを忘れて行けたらいいな…
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