第11話 どいつもこいつも~アレック視点~

すぐに近くにいた護衛がデイズを呼びに行く。


「総裁、おかえりなさいませ。とにかく一度お休みになった方が…」


俺の姿を見て、急いで駆け寄ってきたデイズ。


「そんな事よりも、ミレイが俺に会いにここに尋ねて来ただろう?ミレイは今どこにいる?」


「ミレイ様…あぁ、確かに訪ねていらっしゃいました。総裁が留守にしていると話したら、そのまま帰られましたが…そうそう、私に総裁とクリミア様の仲を聞いてきましたので、お2人は恋仲であることをお伝えしました。彼女、相当ショックを受けていらした様で、“どうかクリミア様と末永くお幸せに。私は遠くであなたの幸せを願っています”とお伝えくださいとの事でした」


「お前、そんな出鱈目をミレイに言ったのか?俺がいつクリミアさんと恋仲になったと言うのだ!」


あまりにもふざけたことを言うデイズに殴りかかろうとしたところで、グディオスに止められた。


「落ち着け、アレック。それよりもデイズ、どうしてアレックとクリミアが恋仲だと思ったのだい?アレックはずっと、故郷に残してきたミレイちゃんの事を思い続けていたのだよ。アレックは内戦が終わったら、ミレイちゃんと結婚するつもりでいたんだ」


「えっ…でも、クリミア様が…それじゃあ、彼女は総裁の…」


「俺の大切な女性だ…俺はミレイの為に、王族を討つ決意をしてこの5年、頑張って来たんだ。全てはミレイとの幸せな未来の為に」


気が付くと涙が溢れていた。どうしてだ…やっと内戦も終わって、ミレイと幸せになれると思ったのに。なぜこんな事に…


「申し訳ございません。私はなんて事を…まさか彼女が、総裁の思い人だっただなんて…」


デイズがフラフラとその場に座り込んだ。


「アレック、どうやらクリミアが何か良からぬことを企んでいた様だね。本当にすまない。今すぐクリミアをここに連れて来てくれ」


クリミア…

あの女がミレイに嘘を付かなければ、こんな事にはならなかったのに…


急にあの女に対する怒りがこみ上げて来た。


「グディオス兄さん…それにアレック様も…その…私…」


「貴様、どうしてミレイに俺と貴様がいずれ婚約すると嘘を付いた!貴様の嘘のせいで、ミレイは今、行方不明になっているのだぞ!」


「アレック、落ち着いてくれ。クリミア、どうやらミレイちゃんは他の男とは結婚していなかった様だね。一体何をしたのだい?」


「私は…その…ずっとアレック様をお慕いしておりました。ずっとアレック様を思い続けていたのです。それなのに内戦が終わった途端、他に好きな女性がいると聞いて…それで私…」


「それで俺とミレイそれぞれに嘘を付いて、俺たちを引き裂こうとしたのか?ふざけるな!俺はミレイの為に、今まで必死に戦って来たんだ!ミレイとの幸せな未来の為に…それなのに…」


「アレック様、本当に申し訳ございません。でも私は、誰よりもアレック様の事を愛しておりますわ。だから…」


「愛している?俺を愛しているなら、どうしてこんなに俺を苦しませるのだい?俺の命よりも大切なミレイを奪い取って、よくそんな事が言えるな。俺は君が憎くて憎くてたらない!もう二度と、俺の前に姿を現せないでくれ」


「そんな…酷い。私はただ…」


「クリミア、君はなんて事をしたんだ!自分がしたことがどういう事なのか、分かっているのかい?アレック、本当にクリミアがすまなかった。謝って許される事ではないと分かっている。ただ…」


「ただ、なんだ?この女を許せと言うのか?グディオスだって知っているだろう?王都が今どれほど治安が悪いか。ミレイはずっと、小さな村にいたんだぞ。世間を知らないミレイが、王都に出て来たこと自体、命の危機に晒されていると言っても過言ではない。もしも…もしもミレイの身に何かあったら、俺はお前の従兄妹を絶対に許さない!グディオス、悪いが二度と俺の前にその女の姿を見せないでくれ。もし俺の前に現れたら、俺は何をするか分からないから…」


ギロリと女を睨みつける。こいつさえミレイに変な事を言わなければ、ミレイは…


「分かったよ。クリミア、前から君の我が儘に手を焼いていたけれど、もう庇い切れない。よりによって俺の大切な親友、アレックを傷つけるだなんて…そもそもクリミアは、何もしていないじゃないか。革命軍が軌道に乗り始めてから、どこからともなく現れて…俺の従兄妹という事で大きな顔をして。悪いが今すぐ荷物をまとめて故郷に帰ってくれ。金は渡すから」


「そんな…グディオス兄さん…」


「これ以上ここにいても、もう俺は君を庇わないし、皆にもそう伝える。とにかく、今すぐ荷物をまとめて故郷に帰るんだ。悪いがクリミアの荷物をまとめて故郷に送り届けてくれ。それから、もしクリミアが王都にやって来ても、絶対に宮殿には入れないでくれ」


「かしこまりました。それではクリミア様、参りましょう」


「嫌よ…そんな…私も王都で貴族の様な生活を送りたいわ。その為に、グディオス兄さんに合流したのに。私はアレック様と結婚して、生涯幸せに暮らすのだから」


ギャーギャー騒ぐ女を連れて行く護衛たち。何が俺と結婚して、幸せに暮らすだ!泣きながら連れて行かれるあの女を、ギロリと睨みつけた。


「アレック、本当にクリミアがすまなかった」


「グディオスのせいじゃない…俺の方こそ、少し感情的になりすぎてすまなかった。とにかくミレイを探さないと」


そう、まずはミレイを探さないと!頼む、ミレイ、無事でいてくれ。

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