第10話 王都に戻ろう~アレック視点~

俺の言葉に、大きく目を見開いたアリおばさん。


「あなた、何を言っているの?ミレイちゃんはこの5年、ずっとあなたの帰りを待っていたのよ。アレック、あなたこそあの…使いに来た女性と婚約をするのではなくって?」


「おばさん、何を言っているのだい?俺はずっとミレイの事を思っていたのだよ。本当は俺自らミレイを迎えに来るつもりだったのだが、忙しくて王都を離れる事が難しい俺に代わって、クリミアさんにミレイを迎えに行ってもらったのだが…」


おばさんが言っている意味がさっぱり分からない。一体何が起こっているのだ?


「やっぱりあの女、嘘を付いていたのだね…あのアレックが、ミレイちゃんを捨てて別の女と婚約するだなんて、おかしいと思ったのよ」


アリおばさんが、ブツブツと呟いている。


「アレック、あなたが使いに出した女は、ミレイちゃんに“自分がアレックと婚約するから、アレックの事は諦めろ”と言ったのだよ。だからミレイちゃんは、酷くショックを受けて…」


「待ってくれ、俺とクリミアさんはそんな関係じゃない!クリミアさんは俺の同僚の従兄妹、ただそれだけだ。それよりも、ミレイは…ミレイはどこにいるんだ!」


「ミレイちゃんは…どうしてもアレックが自分を裏切るだなんて信じられなくて、王都に向かったよ。あなたに会う為に」


「たった1人で王都に向かったのか?村から出た事のないミレイが、俺に会う為にかい?」


「そうだよ。アレックに会いたい一心で、王都に向かったのだよ」


「そんな…」


今王都は治安も悪く、若い女性や子供の人さらいも多い。何よりもミレイは、この村を出たことがない。そんなミレイが、王都になんて出たら…


「おばさん、悪いけれど俺、今から王都に戻る。ミレイが心配だ」


「待って、アレック。今来たばかりじゃないかい。それにその顔、酷いよ。とにかく少し休んで。それにミレイちゃんは、必ずこの地に帰ってくるはずだよ。きっとあなたに会えないとわかったら、諦めて帰って来るよ。もしかしたら、もう村に帰る為の汽車に乗っているかもしれないし」


「ここでゆっくりしている訳にはいかない。もしミレイが帰ってきたら、連絡をくれるかい?これは通信機という物で、このボタンを押すと俺に繋がるから」


念のため1つ持ってきていた通信機を、おばさんに渡した。


「王都ではそんな便利なものがあるのだね。わかったよ、ミレイちゃんが戻ってきたら、必ず連絡を入れるよ。それよりもアレック、あなた、あの頃と全然変わっていないね。言い出したら聞かないところとか…」


そう言ってため息を付くアリおばさん。


「何も変わっていないか…おばさんも全然変わっていないよ。5年間、ミレイの事を気にかけてくれていたのだろう?ありがとう」


「別にお礼を言われる様なことはしていないよ。そうそう、ミレイちゃん、この5年で随分と綺麗になったよ。男どもを退けるのに大変だったんだから。これからは、アレックがミレイちゃんを守っておやり。ミレイちゃんの事、頼んだよ」


「ありがとう、おばさん。もちろんだ、これからは俺がミレイを守るよ。それじゃあ、また」


再び馬にまたがる。手を振るおばさんに手を振り返し、そのまま馬を走らせた。まさかこんな事になっていただなんて!


それよりも、クリミアさん、どうしてあんな嘘を付いたんだ?どんな理由であれ、当然許される訳がない!


て、今は腹を立てている場合ではない。ミレイが心配だ。一刻も早く、王都に戻らないと。きっとミレイは、俺を訪ねて宮殿に来るはずだ。とにかく、急がないと!


行きと同じく、途中で馬をかえ、王都までほぼ休むことなく帰って来た。


「おかえり、アレック。お前、寝ていないのか?髪はボサボサだし、目は充血しているぞ。一体何があったんだ?もしかして、現実にショックを受けて…」


俺の隣でワーワー騒いでいるのは、グディオスだ。


「そうだな、お前の従兄妹のせいで、色々とショックなことがあった。それよりも、俺が留守の間、ミレイが俺を訪ねて来なかったか?」


「ミレイちゃんが?訪ねてきていないと思うけれど、一体どういう事だ?」


「悪いがすぐに門番を呼んでてくれ!今すぐだ」


「…分かった…」


ただ事ではないと察知したのか、グディオスが急いで門番を呼びに行った。急いでやって来る門番たち。


「お呼びでしょうか?」


「俺に会いに、ミレイという女性が訪ねて来てはいないか?」


俺の問いかけに、一瞬考えこむ門番たち。すると門番の1人が、何かを思い出したように口を開いたのだ。


「そう言えば、2~3日前、金色の髪をした女性が、アレック様に会いに来ておりました。確か、ミレイと名乗っていた様な…」


「間違いない!ミレイだ。それで、ミレイは…ミレイはどこにいるのだ?」


門番の肩を掴み、激しく問いかける。


「…あの…私では対応できませんでしたので、デイズ様に対応して頂きました」


少し怯えながら門番が答えた。


「今すぐデイズをここに連れて来てくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る