第8話 俺の過ち~アレック視点~

これでミレイを迎えに行ける。全て終わった、そう思っていたが、何しろ後始末が大変だった。今まで支配していた王族たちに代わり、やらなければいけない事が沢山ある。さらに内戦の影響で、治安も悪くなり、強盗や人さらいが相次いでいる為、治安改善にも力を入れないといけない。


その上、王族や貴族たちの処分も合わせて行わないといけないのだ。貴族の中には、今まで散々酷い事をして来たにも関わらず、他国に亡命しようとする人間も多くいたため、そいつらの追跡も行い、厳重な処罰を行う事になっている。


特に俺は、革命軍の中心的人物の1人として動いていた為、どうしても抜ける訳にはいかなかった。そんな中、俺をこの国のトップにとの話が仲間内から持ち上がったのだ。正直俺は、ミレイとひっそりと暮らしたい、そんな思いもある。


ただ…


この国が、平民中心の国に生まれ変わる姿を、この目で見たい、そんな思いもある。そんな葛藤の中、革命軍の幹部会議で、俺は総裁に選ばれたのだ。


「アレック、受けてくれるよな。この国を引っ張っていけるのは、お前しかいない」


「アレック様、どうかお願いします。人望も厚く、常に冷静な判断が出来るあなた様こそ、総裁にふさわしいです。どうかお願いします」


皆に強く言われたのだ。ここまで言われは断る事は出来ない。ただ…


「総裁の件、引き受けるよ。ただ、俺は結婚したい相手がいるんだ。だから、彼女との結婚の方も、合わせて進めていきたい。彼女には、随分長い間待たせてしまったから…」


そう、故郷に残してきたミレイの事だ。俺はミレイ以外と結婚するつもりはない。一刻も早く、ミレイを迎えに行きたい。もうミレイにひもじい思いはさせたくはない。これからは、食べる事も着るものにも不自由することなく、幸せに生きて欲しい。


ただ…


俺は相変わらず忙しくて、ミレイを迎えに行く事が出来ていない。それでも国王を打ち破り、王族はもちろん、高貴貴族たちの処分も大体終わった。今はとりあえず宮殿で生活しているが、俺とミレイが住むための屋敷も今、急ピッチで建設している。後もう少し…もう少しでミレイに会える。



そう思ってはいるのだが、総裁という立場上、やらなければいけない事が多すぎて、全く身動きが取れないのだ。もう内戦が終わってから3ヶ月も経っている。きっとミレイの耳にも、俺たち革命軍が王族を討ち破ったという情報が届いているはずだ。


「クソ…早くミレイを迎えに行きたいのに…」


ミレイを迎えにいけない焦りから、イライラが止まらない。寝る間を惜しんで、俺は仕事に没頭した。早く全てを解決させて、ミレイを迎えに行きたい。その一心で…


「アレック、大丈夫か?最近少し無理をしすぎではないのか?少し休んだ方がいいぞ。このままだと、お前が倒れてしまう」


俺を心配して話しかけてきてくれたのは、副総裁でこの5年、共に苦楽を共にして来たパートナー、グディオスだ。


「俺は一刻も早く、ミレイを迎えに行きたいんだ。眠っている時間なんてないんだよ!」


「ミレイちゃんか…この5年、お前はミレイちゃんの為に頑張って来たんだもんな。そりゃ会いたいよな。分かったよ、会いに行って来いよ。お前がいない間は、何とかしておくから」


「でも、俺は総裁だ。俺が留守にする訳には…」


いくらミレイに会いたいからと言っても、俺は総裁なのだ。皆が俺を信用して総裁にしてくれたのに、その気持ちを裏切りたくはない。


「う~ん…それじゃあ、クリミアにお使いを頼もう。ミレイちゃんにお前が会いたがっている事を伝え、ここに連れてきてもらえればいいのだろう?」


クリミアさんか…


クリミアさんはグディオスの従兄妹なのだが、何と言うか少し我が儘で、俺にやたらと馴れ馴れしくて、正直苦手なのだ。


「すぐにクリミアに話しをして来るから、待っていて欲しい」


「待ってくれ、グディオス」


そう叫んだのだが、すぐに部屋から出て行ったグディオス。そしてクリミアさんを連れて戻ってきたのだ。


「グディオス兄さんから話しは聞きましたわ。私に任せて下さい」


そう言って胸を叩いて張り切るクリミアさん。仕方ない、彼女に頼もう。


「ありがとう、クリミアさん。ミレイに“5年も待たせてすまなかった。今忙しくて、どうしても王都を離れる事が出来ない。ただ、俺はミレイを1日たりとも忘れたことはない。もし君さえ負担ではなければ、どうか王都に来て欲しい。これからはずっと一緒だ”と、伝えて欲しい。あと、これはミレイに宛てた手紙とお金だ。どうかこれも渡して欲しい」



「分かりましたわ。では早速、明日にでもアレック様の故郷に向かい、ミレイ様に話しをしてきますね。私がきっと、ミレイ様を連れて帰ってきますので」


そう言うと翌日、クリミアさんは笑顔で旅立って行った。不安そうな顔で見守る俺に


「クリミアは確かに我が儘でどうしようもない奴だが、さすがに今回はうまくやるだろう。今回のお使いがうまく行ったら、王都に立派な屋敷を建ててやると約束しているし。そんなに心配するな。お前の故郷まで、馬車で大体3日程度だろう?1週間後には、ミレイちゃんに会えるんだ。よかったな。アレック」


そう言って肩を叩くグディオス。


後1週間で、ミレイに会える。やっとミレイに会えるのか…

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