第6話 ルイーザさんのお宅にお世話になる事になりました

「どうして…どうして私がこんな目に…」


ショックでその場に座り込み、涙を流す。アレックだけでなく、大切な鞄まで奪われてしまうだなんて…


あの鞄には、私の全財産が入っていた。お金がなければ、村にも帰れない。これから私は、どうすればいいのだろう。


「やっと見つけた。大丈夫かい?」


この声は…


ゆっくり声の方を振り向くと、そこには先ほど親切にしてくれた女性が心配そうに立っていた。


「どうしたんだい?お城には行ったのかい?」


「はい…ただ、アレックには会えませんでしたが、現状を聞く事が出来ましたわ」


「そうかい…でも、あなた、泣いていたでしょう。きっとあなたにとって、辛い事があったのよね。それよりも、荷物はどうしたの?どこかに置いて来たの?」


「それが…さっき男性に取られてしまって。あそこには全財産が入っておりまして…」


「ひったくりにあったのだね。可哀そうに、今日初めて王都に出てきたのだろう?内戦が終わっても、まだまだ王都は治安が悪くてね。ひったくりや人さらいも多いんだ。とにかく、女性が1人でいては危ないよ。とりあえず家においで」


「でも…」


「いいから」


私の手を引き、歩き出した女性。そのまま馬車に乗り込んだ。


「あの、私、お金を持っていなくて…」


「大丈夫だよ。馬車代なら、私が出すから」


そう言って優しく微笑んでくれる女性。そして再びパン屋さんまで戻ってきた。


「さあ、疲れただろう。今お茶を入れるから」


私をイスに座らせ、すぐにお茶を入れてくれた女性。


「ありがとうございます。私はミレイと言います。ナリーシャ村からやって来ました。助けて頂き、ありがとうございます。あの…助けて頂いた上にこんな図々しいお願いをするのは心苦しいのですが、どうか働くところを紹介して頂けないでしょうか?出来たら住み込みで。その…私、全財産を奪われてしまいまして。村に帰りたくても帰れなくて」


このままでは、村にも帰れないどころか、野垂れ死んでしまう。とにかく、どこかで働かせてもらって、村に帰る為の資金を稼がないと。


「私はルイーザよ。その件なんだけれど、家のパン屋で働いてくれないかしら?実はパン屋で働いてくれる人を探していたの。部屋なら、パン屋の2階を使ってくれたらいいわ」


「それは本当ですか?ありがとうございます。一生懸命働きます。あの…でも、どうして見ず知らずの私にこんなに優しくしてくださるのですか?」


ふと気になっていたことを聞いた。すると、少し困った顔をしたルイーザさん。そして


「このお店は元々両親が切り盛りしていたのだけれど、私の両親は重い税が払えなくて強制労働施設に入れられたの。両親を連れて行かれ、途方に暮れていた時にアレック様率いる革命軍が、両親の強制労働施設を開放してくれて…それでまたこのパン屋を始める事が出来たの。だから、革命軍、アレック様には本当に感謝していて…アレック様と縁のあるあなたと出会ったのも、何かの縁だと思っているのよ」


アレックが、ルイーザさんの両親を助けたか…

アレックはきっと、他にもたくさんの苦しんでいる平民たちを助けたのだろう。やっぱりアレックは、すごい人なのね…


「私達平民に生きる希望をくれた革命軍やアレック様には、本当に感謝してもしきれないわ。きっとこの国の人は、皆感謝していると思うの。ミレイちゃんは、そんなアレック様の幼馴染なのでしょう?」


「はい、私とアレックは子供の頃からずっと一緒でした。私の両親もアレックの両親も、重い税に苦しめられ、過労と栄養失調で衰弱死したのです。アレックはそれが許せなかった様で、5年前、たった1人で村を出ていきました。必ず戻るからと言って。でも…アレックは帰って来ませんでしたが…それでも私は、アレックの事を誇りに思っております。彼の幸せを、遠くで祈るつもりです」


「そうだったの…ミレイちゃんも辛い思いをしたのね。ミレイちゃん、アレック様の事が好きだったのね。だからわざわざ、王都まで来たのでしょう?それなのに、こんなひどい目にあうだなんて」


そう言って抱きしめてくれたルイーザさん。


「ありがとうございます。でも、もういいのです。とにかく私、一生懸命働きます。ですので、どうかよろしくお願いします」


「もちろんよ。それじゃあ、まずは部屋を案内するわね」


早速パン屋の2階にルイーザさんが案内してくれた。有難い事に、全て奪われてしまった私の為に、ルイーザさんが洋服なども貸してくれることになった。


さらにルイーザさんの家族も紹介してくれた。ルイーザさんのご両親と旦那様だ。今は4人でパン屋を切り盛りしているとの事。


夜は5人で夕食を頂いた。ルイーザさんのご両親は、私がアレックと幼馴染と聞くや否や、涙を流してお礼を言ってくれたのだ。


でも私は何もしていない。皆の為に動いたのは、アレックなのだ。私はアレックのお陰で、親切にしてもらっている。そう思うと、なんだか空しい。


とにかく一生懸命働いて、ルイーザさんたちに恩返しをするとともに、村に帰る為の資金を貯めないと!



次回、アレック視点です。

よろしくお願いしますm(__)m

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