第5話 やはり真実だったようです

お店を出ると、まっすぐ丘の上にあるお城を目指す。ただ…


「近くに見えたけれど、案外遠いのね。全然お城にたどり着けないわ…」


どれだけ歩いてもお城にたどり着かないのだ。それでもアレックに会いたい一心で、必死に歩いた。結局2時間以上かかってしまったが、それでもなんとかお城に着いたのだ。


大きな門には、怖そうな男性が数名立っている。それしにしても、本当に立派なお城だわ。こんな立派なお城にアレックが…


絵本でも見た事がないほど立派なお城の前で、立ち尽くしてしまう。どうしよう…こんな立派なお城に住んでいるアレックに、今更会いに行ったところでやっぱり迷惑がられるだけかしら…


そんな事を考えていると


「おい、お前。さっきから門の前でウロウロして、一体何の用だ!」


門の前に立っていた男性が、怖い顔をしてこちらにやって来たのだ。こうなったら正直に話すしかない。


「あの、私、ミレイと申します。どうしてもアレックに会いたくてここにやって来ました。アレックはここにいるのですよね?」


「気安くアレック様を呼び捨てにするだなんて!貴様、無礼にもほどがあるぞ。アレック様は、お前の様な人間が会えるようなお方ではない。さっさと帰れ」


「お待ちください、“ミレイ”と言う名前を伝えて下されば、きっとアレックもわかると思うのです。どうかアレックに…」


「ええい、しつこいぞ」



「きゃぁぁ」


男性に突き飛ばされて、そのまま倒れ込む。その時だった。


「おい、お前。市民になんて事をしているのだ。大丈夫ですか?」


城の中から男性が飛んできて、私を起こしてくれたのだ。


「お助けいただき、ありがとうございます」


見た感じ、革命軍の人の様だ。立派な衣装に身を包んでいる。


「怪我はなさそうだね。よかった。それよりも、一般市民を突き飛ばすとは、どういう事だ。俺たち革命軍は、王族や貴族どもとは違う。平民たちに寄り添っていくために立ち上げた組織なんだぞ。それなのに女性を突き飛ばすだなんて」


「申し訳ございませんでした」


男性が私を突き飛ばした男性に怒っている。怒られている男性は小さくなっているわ。なんだか申し訳ないわね。


「あの、私は大丈夫ですわ。それよりも、どうかアレックに会わせていただけないでしょうか?私はアレックの幼馴染で、ミレイと申します。“ナリーシャ村から来たミレイ”と伝えていただければ、分かるはずですから」


この人なら、アレックに会わせてくれるかもしれない。そんな思いで、必死に訴えた。


「アレック総裁にですか?申し訳ないのですが、アレック総裁は今急用で外出しております。しばらくは戻らないとの事でして…」


そんな…

アレックが外出しているだなんて。もしかして、クリミア様とお出掛けをしてしまったのかしら?


「あの…つかぬことをお伺いしますが、アレックとクリミア様は、恋仲なのでしょうか?」


この人なら真実を知っているかもしれない。そんな思いで、彼に問いかけた。


「クリミア様とアレック総裁が恋仲と言うのは、有名なお話しですね。現にアレック総裁はずっとこの内戦が終わったら、結婚したい相手がいるとおっしゃっておりましたし…」


「そんな…」


やっぱりクリミア様がおっしゃっていたことは、本当だったのね…


ショックでその場に座り込んだ。


「えっと…ミレイ様とおっしゃいましたね。大丈夫ですか?」


「ええ…申し訳ございません、大丈夫ですわ。あの…アレックに伝言をお願いしたいのですが。“どうかクリミア様と末永くお幸せに。私は遠くであなたの幸せを願っています”と」


「はい、総裁がお帰りになられましたら、必ずお伝えいたします」


「ありがとうございます、それでは私はこれで失礼いたします」


男性に深々と頭を下げ、その場を後にする。ふと後ろを振り向くと、本当にびっくりする程立派なお城だ。


「アレック…もうあなたは、私の知っているアレックでは無くなったのね。どうか…どうか幸せに…」


お城に向かってそっと呟いた。


アレックは酷い目にあっていた民たちを助け出し、王族や貴族を倒した英雄。かたや私は、小さな村から一度も出たことがない、しがない女。きっともう、アレックと私は、住む世界が違うのだろう。


それなのに私ったら、王都まで押しかけてきて…


気が付くと涙が溢れ出て、視界がぼやける。ここは王都、沢山の人がいるのだ。こんなところで泣いていたら、皆に不審がられるわ。そう思い、必死に涙をぬぐうが、次から次へと溢れる涙を、抑える事が出来ない。


とにかく、落ち着かないと。


そう思い、近くの広場のベンチに腰を下ろした。その時だった。男性がものすごいスピードでこちらにやって来たと思ったら、私のカバンをひったくって逃げたのだ。


「嘘…待って、お願い。その鞄は。誰か、その人を捕まえて!」


必死に男性を追いかけたが、あっと言う間に見失ってしまったのだ。


どうしよう…

鞄まで奪われてしまった。これからどうすればいいの…

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