第3話 2人に背中を押してもらいました
しばらく泣いた後、少しだけ落ち着いた。辺りはすっかり暗くなってしまった。そろそろ晩御飯の準備をしないと。でも、食欲がない…
その時だった。
「ミレイちゃん、大丈夫かい?」
「ミレイ、母さんから聞いたわ。大丈夫?」
アリおばさんと彼女の娘で私の友人の1人、リマが心配して訪ねてきてくれたのだ。
「2人ともありがとう。でも、まだ現実を受け入れられなくて」
「そりゃそうよ、ミレイはずっとアレックの事を待ち続けてきたのですもの。ねえ、ミレイ、私はやっぱりアレックが別の女性と結婚するだなんて思えないわ。だってアレックは、ずっとミレイの事が好きだったのですもの。そもそもアレックは、ミレイとの幸せな未来を歩むために、剣を取ったのでしょう?それなのに別の女性と結婚するだなんて…」
「私もリマと同じ考えよ。ねえ、ミレイちゃん、アレックに会って確かめてきたら?」
2人が真剣な表情で訴えかけてくる。
アレックに会って確かめる…
「でも、アレックは王都にいるし、それにもうアレックは、この国で一番偉い人になる予定なのでしょう。そんな人が、私なんかと会ってくれるかしら?」
もう私に会いたくなくて、あの女性に伝言を頼んだのだろう。だとしたら、会いに行ったら迷惑になるのではないかしら?
「アレックはそんな薄情な男じゃないと私は信じているよ。それにこのままでは、ミレイちゃんも前に進めないだろう?お金の事なら心配しなくていいよ。これを使っておくれ」
アリおばさんが机の上にお金を置いた。それもかなりの大金だ。
「おばさん、こんな大金、受け取れないわ。それにお金なら、少しは私も貯めているし。王都に行って帰ってくるくらいのお金はあるから」
やっと少しずつ生活が豊かになって来たとは言え、おばさんやリマが一生懸命貯めたお金なのだ。きっと相当苦労しただろう。それを私の為に出してくれるだなんて…
「ミレイちゃんもアレックも、私の子供の様なものだ。遠慮する必要は無い。とにかく、ミレイちゃんには後悔して欲しくないんだよ」
「おばさん…」
私の為にここまでしてくれるだなんて…
「ありがとう。正直今、頭が混乱していて、自分でもどうすればいいか分からないの。少し考えてみるわ」
「分かったわ。ミレイ、あなたがこの5年、どれほどアレックを思い待ち続けて来たか、私たちは知っているの。だからどうか、後悔しない選択をして。私達は、あなたの味方だから。もしアレックが本当に今日来た女性と結婚すると言うのなら、その時は村に戻ってこればいい。私達はこの地で待っているから」
リマの言葉が、心に響く。アレックがこの村を出て5年、ずっと1人だと思っていた。でも私には、こんな風に私を心配し、背中を押してくれる人たちがいる。それが嬉しくて、涙が溢れだす。
「ありがとう…本当にありがとう。私の事をこんな風に思ってくれる人たちがいるだなんて。嬉しくて…」
「ミレイったら、当たり前でしょう。それじゃあ、私たちは帰るわね。すぐに答えを出す必要は無いと思うの。ゆっくり考えて、後悔しない道を見つけてみて」
私の背中を優しく撫でると、リマとアリおばさんは帰って行った。机の上には、アリおばさんが残していったお金が。
私の為に、こんな大金まで準備してくれただなんて…
正直クリミア様の話を聞いた時は、ショックだった。アレックは私の事なんて、忘れてしまったのだと絶望した。
でも…
5年前、笑顔でこの地を旅立ったアレックの顔が浮かぶ。
やっぱり私は、このまま諦めたくはない。アレックに会って、きちんと話がしたい。この5年、またこの村でアレックと暮らすことを夢見て生きて来たのだ。
もしかしたらアレックは、もう私に会いたくないかもしれない。アレックはもう、クリミア様と結婚する方向で動いているのかもしれない。それでも私は、この目で真実を確かめたい。
アレックからはっきりと、“もう私とは生きていくつもりはない。クリミア様を愛している”と聞けば、さすがに諦めがつくだろう。それがどれほど辛い現実だったとしても…
よし!
そうと決まれば、早速王都に行く準備を始める。さすがにアリおばさんやリマが一生懸命貯めたお金を使わせてもらう訳にはいかない。
このお金は、明日2人返そう。
私も将来の為、少しはお金を貯めてあったのだ。
早速家中にあるありったけのお金を集めた。毎日つつましく暮らしていたおかげか、思ったよりお金が貯まっていた。これだけあれば、王都に行って帰ってくることは出来るだろう。
大きめのカバンを取り出すと、お金を一番奥に入れた。そして着替えなどもカバンに詰めていく。ある程度荷造りが済んだところで、次は部屋の掃除をした。
両親と過ごした大切な家、いつ戻って来られるか分からない。だからこそ、出来るだけ綺麗な状態で家を空けたいと思ったのだ。
部屋中の隅々まで掃除をした後、着替えを済ませてゆっくりベッドに入った。このベッドで寝るのも、しばらくお預けかしら?それとも、またすぐに戻ってくるのかしら?どんな結果になろうとも、後悔だけはしたくない。そんな思いで、その日は眠りについたのだった。
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