第2話 アレックの状況
内戦が終わったと聞いて早3ヶ月、一体いつになったらアレックは帰ってくるのかしら?もしかしたらアレックは、王都での生活が気に入ってしまい、もう帰ってこないのかもしれない。
王都に働きに出ている人の話しでは、アレックは王族や貴族たちから平民を救い出した英雄として、もてはやされているらしい。実際王族を討ったのも、アレックだそうだ。
今や国中の英雄になったアレック、もしかしたらもう私やこの村の事なんて、忘れてしまったのかしら?
でも…
私は今でもアレックが大好きだ。いっその事、私がアレックに会いに行こうかしら?
そんな事を考えている時だった。
「ミレイちゃん、あなたに会いたいというお客様がいらしているのわよ」
「まあ、私にですか?」
近所に住むアリおばさんが連れて来たのは、豪華なドレスを着た、若い女性だ。どこかのご貴族様かしら?でも、貴族たちは既に一掃されたと聞いた。それなら一体…
「あなたがミレイ様ですか?初めまして、私は革命軍の幹部でアレックの同僚でもあるグディオスの従兄妹のクリミアと申します。あなた様にアレックから伝言を預かって来ましたわ」
「あなた様は、アレックとお知り合いなのですか?アレックは元気にしておりますか?怪我などはしておりませんか?」
アレックのお知り合いの女性が、わざわざ訪ねて来てくださるだなんて。嬉しくてつい彼女に問いかけた。
「ええ、元気ですわ。今この国を立て直そうと、必死に動いております。アレックはこの国の指導者になる人間ですもの」
「この国の指導者に?」
アレックが英雄として崇められている事は知っていた。でも、まさかそこまで凄い人物になっているだなんて…
「そうですわ。それであなた様に伝言を預かって来ましたの。アレックは律儀でしょう?本来なら直接会って話した方がいいのでしょうけれど…彼もこの地にはもう帰って来たくない様で…」
この地に帰って来たくない?一体どういう事なの?一気に胸がざわつく。
「この地に帰って来たくないとは、一体どういう事ですか?もしかしてアレックは、ずっと王都で暮らすつもりなのですか?」
「そういう事ですわね。そうそう、アレックからの伝言ですわ。“ミレイ、俺はこの国の指導者として王都で生きていく。そして愛するクリミアと結婚する事にした。どうか俺の事は忘れてくれ”との事です」
「え?」
今なんて言った?愛するクリミアと結婚するですって?そんな…
その場に座り込んだ。
「ミレイちゃん、大丈夫かい?ちょっとあんた、それは本当なのかい?本当にアレックがそう言ったのかい?」
すかさず私を支えてくれるアリおばさん。
「ええ、本当ですわ。アレックは5年ものあいだ、必死に戦ってきたのですよ。やっと平和を手に入れたのです。この5年、私はずっとアレックを支え続けてきました。ただ、アレックはあなた様の事を非常に気にしていて…だから私が、あなた様に報告に来たのです」
そんな…
ポロポロと涙が溢れ出す。アレックはずっと、私を思ってくれていると思っていた。でも現実は…
「とにかくそういう事ですので、どうかアレックの事は諦めて下さい。それでは私は、アレックが待っている王都に戻りますので、これで」
そう言って去っていくクリミア様。
「ミレイちゃん、大丈夫かい?」
「アリおばさん、私…」
この5年、ずっとアレックの事を考えて生きて来た。アレックが無事に戻ってくる事だけを心待ちにして。
「ミレイちゃん、しっかりしな!私はどうもあの女が言っていることが、胡散臭くてね。本当にアレックは、あの女と結婚するのかしら?あのアレックが、ミレイちゃんを裏切る何て考えられないよ」
そう言ってアリおばさんは慰めてくれる。でも…
人間、5年も離れていたら気持ちも変わるかもしれない。それに彼女は、ずっとアレックを支えてきたと聞いた。それにアレックは、今やこの国の英雄。
これからこの国の指導者として生きていける未来が待っているのだ。考えれば考えるほど、あの女性が言っていたことは、間違っていない。
やっぱりアレックは…
「アリおばさん、私、少し体調が良くないので、休みますわ」
「…ああ、そうだね。顔色が悪い。少し休んだ方がいい。ミレイちゃん、その…なんて言っていいか分からないが、変な気だけは起こさないでおくれよ」
「ありがとうございます」
心配そうなアリおばさんを見送った後、1人イスに座る。ふとアレックの笑顔が脳裏に浮かんだ。
「必ず帰って来るって言ったのに…アレックの嘘つき…」
次から次へと溢れる涙を止める事が出来ない。私はただただ、現実を受け入れられることが出来ずに、涙を流し続けたのだった。
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