第68話 昼間の続きを──
◆◆◆
誤解を解くのに時間が掛かり、夕飯に遅れてしまった。
結果としてそのせいでみんなからも邪推され(主に杠から)、夕飯が更に遅れた。まあ、冷めても美味い煮つけだったから、美味しくいただいたが。
温泉、夕飯を終え、今は部屋に戻ってのんびりくつろぎタイム。海で相当はしゃいだし、飯を食った後だからな。動こうにも動けない。
元気魔人である奏多と萬木も、今は布団に寝転んでぐったりしていた。
けど、寝転び方には気を付けてほしい。いろいろポロリしそう。
さすが九条は、こんな時でも身なりを正して座っている。
お茶をすすって、俺の隣に陣取っていた杠が、部屋を見回してぼそりと呟いた。
「今何時?」
「まだ20時前だよ。疲れたけど、寝るには早いね」
九条が間髪入れず答える。確かに20時は、寝るには早い。……というか、寝れそうにない。こんな美少女4人と同じ部屋で寝るなんて、どう考えても無理だ。
はぁ、今夜は徹夜コースかな。……別にやましい意味で言ったんじゃないからな。って、誰に言い訳をしているんだ、俺は。
「暇だな……キョウちゃん、暇つぶしできるもの持ってない?」
「あ~……ないな。急な泊まりだったから」
「だよね。アタシも泊まるってわかってたら、持って来てたんだけど」
そのまま無言で、ぼーっと虚空を見つめる。
だけど、あれだな……静かにしていると、妙にみんなの方を意識しちゃうな。衣擦れの音、呼吸、普段見慣れない浴衣姿の色っぽさ。それだけでも思春期男子高校生には破壊力抜群なのに、萬木のお姉さんに押し付けられた例のブツのせいでそわそわする。結局返せず、あのまま押し付けられたし。
ダメだ。このままここにいると、みんなの方ばかりに気が向いてしまう。少し気晴らしに散歩してこよう。
「お、俺、自販機で飲み物買ってくる。みんなは何かいるか?」
立ち上がり聞くと、奏多と杠はオレンジジュース。萬木は玄米茶(渋い)。九条は炭酸系を頼んだ。
いそいそと部屋を出て、民宿の前にある道路で飲み物を買う。
すぐ戻る気にはなれず、傍のベンチで座りながら空を見上げる。
ここは都市部から離れているからか、地元より星が多く見えるな……綺麗だ。自分の邪な心がちっぽけに感じられる。
お茶を飲んで気持ちを落ち着かせていると、宿から杠が出て来てこっちに向かってきた。
「キョウちゃん、大丈夫?」
「ああ。杠は、どうしたんだ?」
「キョウちゃんが遅かったから、気になってね。あと、久々に長時間誰かと一緒にいたから、なんだか疲れちゃって……ちょっと休憩」
そういや、高校では友達がいないとか言ってたっけ。昔から社交的な方じゃなかったけどさ……本当、萬木と九条と友達になれてよかったな、こいつ。
俺の隣に座り、自分が頼んでいたジュースに口を付けて同じ方を見る。
今まで2人で遊んだこともあるし、こういうシチュエーションもあったが……杠の気持ちを察してしまったからか、気まずく思うのは俺だけだろうか。
隣にいる杠を意識していると、「まあ……」と続きを喋った。
「あとは、昼間の続きと言うか……ね?」
「昼間? ……あ」
昼間、海で水着の感想を聞かれたんだった。
別に今水着の感想を求めているわけではないだろう。続きというのは……多分、俺の言葉の方だ。
緊張で喉が渇く。もう一度お茶を飲んで気持ちを落ち着かせると、横目で杠を見た。
「……こんなこと、杠に聞くのは間違ってると思うけど……その……」
「気付いた? ……アタシが、キョウちゃんのことが好きだって」
「ぅ……まあ、うん……はい」
なんだかめちゃめちゃ恥ずかしい。こういうのって、自分から聞くことじゃないだろう。
杠は吹っ切れているのか、特に恥ずかしがる様子もなく困ったように笑った。
「はぁ~あ。こんなことなら、卒業式の時に告っておけばよかった」
「……一応聞くけど、なんで告白しなかったんだ?」
「同じ学校に合格したら告ろうと思ってたんだよ。願掛け的な。まあ、アタシは落ちて告白できずじまい……って感じ」
なるほど、そういうことだったのか。確かにあの時、なんとなく気まずい感じがしてたっけ。
「それがどうよ。いつの間にか噂に聞いてたキョウちゃんの幼馴染みが帰ってきてるし、それが女だし、付き合ってるし……もう訳わかんないって」
「まあ、うん。俺もこんなことになるとは思ってなかった」
「だからめっちゃ悔しい。後悔しまくりの毎日だけど……カナタを見てると、負けるのもわかるなーってくらい、可愛くて、いい子で……」
言葉が詰まり、そっと目元を拭く杠。
こんな時、俺に彼女がいなかったら、優しくしてあげるべきなんだろうけど……。
「いいよ、それで」
「……え?」
杠は俺の考えていることがわかるとでも言うように、涙を拭いて笑った。
「ここで優しくされたら、アタシ……多分、キョウちゃんのこと想い続ける。そんな惨めな人生、歩みたくないから」
「……そうか」
「うん、そうだよ」
なら、これ以上俺から言うことはない。
ただ傍で、杠の気持ちが落ち着くまで一緒にいてやろう。
「ねえ、キョウちゃん。聞いてもいい?」
「ん?」
「もし、アタシが告白してたら……キョウちゃん、受けてくれた?」
────。
「……わからないけど、多分、受けてない。と……思う」
「……なら、告白しなくてよかった」
ぴょんっと跳ねるように立ち上がり、振り返りながら朗らかに笑う杠。
「もし告白してたら、今こうして遊ぶこともなかった。気まずい思いをして、そのまま縁が切れてただろうから。それを考えたら……昔と変わらない、友達の関係が1番いいのかもね、アタシらは」
可愛く、美しく、綺麗で……どこか、痛々しい笑顔に、何も言えなくなった。
「……ねえ、キョウちゃん。アタシらさ……これからも、友達でいられる?」
「……ああ、もちろんだ」
「えへへ。……ありがとう、キョウちゃん」
先戻るね、と手を振り、宿に戻っていく。
その後ろ姿を、黙って見送ることしかできなかった。
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