第60話 女友達の心内

 結局、海の家に売っていた無難な白の三角ビキニを買い、事なきを得た。

 のだが……当然というかなんというか、奏多のサイズに合うものがなく、一番でかいものでもきつきつだった。

 一応上から、俺の持ってきたラッシュパーカーを羽織らせ、男共からの視線から守る。

 ホント、海に入る前からどっと疲れが……。

 全員が着替え終えたのをぐるりと見た萬木が、満足そうに頷く。



「みんな着替え終わったね。よっしゃ! 総員、海に突撃ー!」

「純恋、走らないのっ」



 萬木が膨らませた浮き輪を片手に海へ向かって走り出した。心配なのか、九条も後を追いかける。

 まあ、九条がいたら、萬木が迷子になることはないだろ。



「キョウちゃん。アタシも行くけど、どうする?」

「もちろん行くぞ。奏多、行くぞー」

「あーい」



 熱々の砂浜を、2人を伴って海に向かう。

 波打ち際まで来ると、寄せては返す波と広大な海を前に、つい呆然と立ち尽くした。



「でっけぇなぁ……」

「ぼくのおっぱいみたい」

「人の感傷を返せ。おぼぁっ!?」



 げっ、しょっぱ! うぇっ!



「あっはははは! ぼーっとしてる方が悪いよ、キョウたん! ここはもう戦場だぜ!」

「てめコラ萬木っ!」



 やられたらやり返す男だぞ、俺は!

 膝下まで入り海面を手で払うと、萬木の顔面に海水が直撃した。



「あぼっ!?」

「ふはは! どうだ参ったか! おべっ!?」



 うわっ、横から海水が……!

 見ると、九条がドヤ顔で仁王立ちしていた。そりゃそうか。九条なら、萬木と結託するよな。



「お? なになに、水かけ?」

「あはっ。ならアタシらも参加しなきゃねっ!」

「おう。俺たちで2人をけちょんけちょんにぶべっ!?!?」



 え、おっ!? ちょ、しょっぱ! え!?

 振り返ると、奏多と杠が俺に向けて海水を掛けてきていた。って、少しは躊躇しろ!



「よ、4対1は卑怯だろ!」

「いやぁ〜、か弱い乙女と屈強な男。4対1でトントンでしょ。てなわけで京水、覚悟!」

「どこがか弱いんだ、どこが!」



 お前らにか弱いという感情を持ったことないぞ!

 ま、待っ! 4方向はずるい! ちょっ……ぎゃああああああああああああ!!


   ◆◆◆


「あぁ……酷い目にあった」



 海水で腹がたぷたぷだ。塩分過多で死なないかな。

 シートの上で若干心配しつつ腹を摩っていると、九条が1人で戻ってきた。



「氷室くん、大丈夫? ごめんね、悪ノリしすぎた」

「いや、大丈夫だ。それより、アイツらは?」

「浜辺でお城作ってる」



 ほら、と指さす先を見ると、用意してきたのか大きなバケツとスコップを使って、俺の腰の高さまでありそうな砂の城を作っていた。

 どうやったのか、かなり精密だ。サンドアートとしてコンテストに出しても問題ないくらい、クオリティが高い。周りの客も、感嘆の声を上げていた。



「すごいよね。私は不器用だから、ああいうの苦手で」

「それで逃げて来たわけか」

「適材適所だよ。私は日陰で見守っている方が得意なんだ」



 物は言いようとはこのことか。

 九条に手渡されたジュースを呷り、一息つく。協賛シートのおかげでゆっくり休める。本当、萬木には感謝しかない。

 ……あ、そうだ。萬木と言えば。



「九条って、萬木のことになると警戒心高くなるよな」

「何さ、いきなり」

「いきなりじゃない。さっきだって、俺が見てたらパーカーを羽織らせてたし」

「あ、あれは……」



 明らかに動揺したように、目が泳ぐ。はて、何か図星だったんだろうか。



「べ、別に大した理由じゃないよ。君がレディの体をジロジロ見ていたから……」

「萬木に限らず、九条と杠と奏多の水着もジロジロ見てたけど……あ」

「変態」

「返す言葉もない」



 今のは普通に失言でした。本当、ただのド変態じゃん。

 九条は自身の体を守るように膝を抱え、そっとため息をつく。



「氷室くんって、変なところで察しがいいよね。でも本質までは理解できてないから、余計質が悪い。奏多が可哀想だ」

「なんで奏多の話になるんだよ」

「君が鈍感すぎってこと」



 んなこと言われてもな。

 首を傾げていると、九条は3人を見て辛そうな顔をした。



「気にしないで。……いつか、ちゃんと蹴りが付いたら話すよ」

「手伝うか?」

「大丈夫。これは、私がやらないといけないことだから」



 ……そっか。なら、俺がちゃちゃ入れるのは違うよな。



「無理すんなよ」

「……優しいね」

「普通だ、普通」

「さすが彼女持ち」

「茶化すな」

「冗談だよ」



 話して少しすっきりしたのか、九条は3本のジュースを持って、みんなの元に戻っていった。

 さて。俺もぼーっとしてるだけじゃもったいないし、あいつらに混ざろうかね。


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