第52話 遭遇

 電車に揺られること数十分。俺たちは元町・中華街駅で降りた。

 俺たちの住んでる場所からはかなり遠いから、あまり来たことはなかったけど……かなり発展している。思ったより綺麗だし、何より建物が高い。



「はぁ~……都会って感じだな」

「だね。ちょっとびっくり」

「奏多はアメリカで見慣れてるんじゃないのか?」

「ぼくの住んでた方は、都市部じゃなくて田舎だったからね。建物も、ここまで大きいものは少なかったんだよ」



 なるほど。確かにアメリカって、都市から離れると広大な大地が広がってるイメージがある。

 奏多と連れ添って、地図を頼りに目的のパンケーキ屋に向かう。

 大通りから外れてちょっとした小道を少し進むと、中華系の飲食店が増えて来た。俺たち、パンケーキ屋に来たはずだよな。こんな所にあるのか……?

 中華の店の前を歩くと、いい油系の匂いが鼻腔をくすぐった。

 なんだか……中華も食べたくなって来たぞ。



「奏多、俺中華食べたい」

「奇遇だね、ぼくも。でもパンケーキが先。これは譲れない」

「はいはい」



 デザートが先、ご飯が後か。いいのかそれで。

 そのまま少し歩くと、奏多が小走りで駆け、とある店の前で止まった。



「あった! 京水、ここ!」



 本当にあった。幸福パンケーキ……外見でわかるオシャレな雰囲気のお店で、かなりの人で賑わっている。カップルや女性客が多いと思いきや、意外にも男性客もいた。

 店員に2名であることを伝えると、運よく直ぐに通してもらえた。

 当然というかなんというか、店員も奏多の胸を見てぎょっとした顔をしている。もちろん、周りのお客も。

 もう慣れたけど……でかける度に遠慮のない目で見られるの、なんか嫌だ。

 厨房とフロアを隔てる端っこの席に通され、奏多を壁際に座らせる。ここなら、人からじろじろ見られる心配もないだろう。



「なーに食べよっかな~♪」



 ……本人が気にしてないなら、いいか。やれやれ。

 メニューを見て楽しそうにしている奏多を見て、ほっこりした気持ちになる。やっぱり可愛いな、俺の彼女。



「始めて来たから、ここはシンプルな……でもチョコバナナも捨てがたいし……むむ。おかずパンケーキもある。でへへ、迷っちゃうなぁ~」

「好きなの2つ頼んでいいぞ。俺が片方食べて、奏多にもやるから」

「マジ!? 京水ありがとう、愛してる!」

「はいはい」



 ドが付くほど軽い愛してるをどうもありがとう。

 2つにしても絞り切れないのか、腕を組んで悩む奏多を見ていると、店員が水を運んできてくれた。



「へい、可愛い彼女。私のおすすめは、ミックスフルーツパンケーキだよ」

「ほえ? ……あれ、九条さん?」

「え?」



 あ……え、九条? なんでここに?

 よく見ると、店員と同じ格好をして水を配膳している。まさか……ここ、九条のバイト先だったの?

 奏多に知ってたのかとアイコンタクトを送るが、顔を横に振った。奏多も初耳だったらしい。なんつー偶然というか、世間は狭いというか……。



「九条さん、ここで働いてたんだ」

「うん。と言っても、夏休みの間の単発でね。もちろん、みんなと遊ぶ日は外してるから、問題ないよ」



 水を置きながら、スマートに答える九条。なんというか、様になってるなぁ。



「って、萬木の方は大丈夫なのか?」

「うん。元々、こっちのシフトが先だったからさ。それに先生から、私が来ると純恋が集中できないから、あまり来ないで欲しいって言われてしまってね」



 やれやれ、と肩を竦める。なるほど、めちゃめちゃ想像できる。萬木のやつ、九条のこと大好きだからなぁ。



「っと、そうだ。氷室くん」

「ん? なんだ?」



 九条がメモに何かを素早く書くと、俺にだけ見えるように見せて来た。



『小紅が来てる』



 ……え、小紅、って……杠?

 それ以上何も言わず、九条は仕事に戻る。

 後を追って視線を店内に巡らせると……あ、いた。杠だ。1人で、テーブルに座っている。

 いつものよれたピンクのジャージではなく、ちょっとおめかししている……というか、若干ヤンチャファッションというか、ストリート系の服を着ていた。ああいう格好も似合うな、あいつ。

 ちょうど来たばかりなのか、こっちには目もくれずメニューを見つめている。



「ちょっと、京水。どしたの?」

「中学の頃のダチがいる」

「えっ!? うそ見たい……!」



 ちょ、奏多、前かがみになるなっ。

 おっぱいが目の前で揺れて気まずい中、視線は杠に向ける。

 と、杠がこっちに気付いたのか、ちらっと俺を見て……目を見開いた。



「「は? 女?」」



 奏多と杠の声が被る。

 突如、2人揃って俺を睨みつけて来た。


 え……なんで??


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