第48話 サマーバケーション大会議
◆◆◆
あの後、萬木は先生たちに頼み込み、夏休み中最初の平日の5日間だけで済ませてもらえることになった。
みんなで遊べるとなると、萬木の補習が終わってから。さすがに萬木だけ補習なのに、俺たちだけで遊ぶのは気が引ける。
と、言うわけで。
「第1回、サマーバケーション大会議ー!!」
「Foooooooooooooo!!」
「イエーイ!」
萬木の宣言に、奏多も九条が両手を上げて盛り上がる。もうノリノリだった。
放課後、奏多の家に集まったのは、いつも通り俺、九条、萬木。いつもはクールな九条も、今はテンションが高かった。
「珍しいな。九条もテンション高いなんて」
「高校生の夏休みだからね。中学より自由度があって、大学より不自由。その限られた自由の中で青春を謳歌するなんて、縛りゲーみたいで楽しいじゃないか」
そんな視点で楽しもうとする奴初めて見た。
「そこ! 私語は謹んで会議に参加するように!」
「おお。萬木のやつ、私語は謹んでとか言ってるぞ」
「勉強した甲斐があったね。赤点だけど」
「でへへ、褒められた。……ん? 褒められたの?」
安心しろ。半分皮肉だ。
首を傾げる萬木から、ウキウキと楽し気にしている奏多に目を向ける。視線の先には、旅行のガイドブックがテーブル上に広げられていた。
「奏多は、夏休み中に行きたい場所とかあるのか?」
「もっちろん! そのために帰って来たと言っても過言じゃない!」
そこは俺に会うため、と言ってほしい。嘘でもいいから。
でも、そこまでして行きたい日本の旅行先ってどこだ? こう言っちゃなんだけど、日本にそんな場所あったっけ?
「へえ。カナち、それどこ? ウチらも行けるかなっ?」
萬木が前のめりになって目を輝かせる。確かに気になる。
「もっちろん。行こうと思えば、明日にでも行けるよ」
「いやそれは難しいんじゃないかな。ホテルの予約も必要だし」
九条が渋い顔をするが、奏多は首を横に振った。
「ホテルの予約なんていらないよ。日帰りだから」
「え。どこに行くつもりなんだい、奏多?」
「Mt. Fuji 登頂!!」
「「「却下」」」
「!?」
3人から即断られると思っていなかったのか、テーブルに突っ伏してしまった。
奏多の要望は、彼氏としてできるだけ叶えてやりたいが、悪いけど、それだけは絶対に無理。面倒くささが勝つ。
だけど、普通の旅行だと今から飛行機とかホテルの予約って取れるのか……?
予約サイトを見ていると、萬木がはいっと手を挙げた。
「やっぱ夏と言ったら海! ウチ、海行きたい!」
「え~。海って日焼けしない? ぼく、さすがに日焼けはなぁ……」
「ちっちっち。カナち、君は重要なことを見落としてるよ」
萬木が奏多に近付き、肩を組んで小声で耳打ちする。
途端に、奏多の顔が真っ赤になり、口元をあわあわさせて俺の方をちらちらと見て来た。
え、何? なんですか?
「というわけで、どう? 海、よくない?」
「いいっ。ぼく、海行きたい!」
マジか。さっきまで日焼けを気にしてたのに。いったい、どんな口説き文句を……?
「ふふ。罪な男だね、氷室くん」
「え、俺なの?」
何言ってんだ、九条。今の話の流れのどこに、俺が関わってくるんだよ。
九条が『夏休みリスト』と書いたノートに【海☆】と書き込むと、満足そうに頷いた。
「海は決定として、あとは何したい?」
「お祭り! Japanese Fireworks festival!!」
「花火大会か、いいね」
「あ、じゃあウチ、キャンプしたいかも。最近流行ってるし、親戚に山持ってる人いるから、キャンプできないか聞いてみる」
わいわい。わいわい。次々と【祭り(花火大会)】【キャンプ?】【流しそうめん!】【虫取り(-"-)】と書き込んでいく。
と、奏多が俺の方を見て、首を傾げた。
「京水は? 何も提案してないけど、何かやりたいことないの?」
「え? そうだな……」
そう言われても、これといってやりたいことがない。そもそも友達が少ない上に、ミヤは部活で大忙し。杠とタイマンで遊ぶことはあっても、海とか花火を見に行くなんて仲じゃなかったからな……あ、そろそろ杠に連絡して、予定聞いておかないと。
「……俺は今のところないな。俺がやりたいこと、みんなが先に言っちゃってるから」
「ほんと? 何かあったら、すぐぼくに言うんだよ」
「ああ、ありがとう」
奏多は優しく微笑むと、また2人と議論を交わした。
俺は俺でスマホを取り出し、杠に連絡を入れる。
『京水:杠、そろそろ夏休みだけど、予定空いてるか?』
『杠:いつでもだいじょぶb』
せっかくの夏休みなのに、いつでも大丈夫って……杠の交友関係が透けて見えるみたいで、ちょっと悲しい。
苦笑いを浮かべ、また連絡するとメッセージを送り、スマホを閉じる。
合計40日弱。俺たちの夏が、始まる。
……なんてな。
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