第40話 邪な気持ち

 クッキーぱーちー(萬木命名)が終わると、九条と萬木は早々に帰っていった。明日は土日だし、ゆっくり休みたいんだろう。

 まあ、九条がこっそりと、土日も勉強漬けだって教えてくれたけど。哀れ、萬木。奏多も似たようなものだから、頑張れ。

 今日は2人を送らず、奏多と一緒にいる。

 なんて言っても、明日は休みだ。泊まるのは心臓がもたないから無理だけど、少しなら夜遅くまで一緒にいれる。

 2人を見送ると、奏多はぐっと伸びて全身の力を抜いた。



「ふぅ〜……ちかれた」

「ごくろうさん。飯は?」

「今日はいいやー。クッキー食べたし」



 ちゃんと栄養も取らないと、体調崩すぞ。まったく……。

 ソファーに座ると、後ろから奏多が着いてきて……手前で止まった。



「ねぇ、京水」

「どうした?」

「えっと……その……」



 顔を赤くしてもじもじ、もじもじ。な、なんだよ、そんなに恥ずかしがって。

 言おうか、言うまいか。口を何度も開け閉じし、頭を振って髪を乱した。



「や、やっぱりなんでもないっ。恥ずいし……!」

「な、なんだよ。今更そんな恥ずかしいことないだろ」

「そそそそ、そうなんだけど……」



 どうやら、奏多にしては相当覚悟がいることらしい。

 なんだろう。この状況で、覚悟のいること………………ま……まさか……?

 邪な考えが脳裏をよぎる。当然、邪な考えっているのは、そういうことだ。

 まままままままま待て待て待て! た、確かに付き合ってるし、邪魔の入らない2人きりだからって、それはさすがに飛躍しすぎじゃないか!? そ、そんなことしようとしたら、こいつ絶対気絶するだろ……!


 邪な気持ち『呼んだ?』


 呼んでねーよ帰れ!



「か、奏多。一旦落ち着け。な?」

「ぼ、ぼくは落ち着いてるし……でも……ど、どうしても、したいというか。してほしいというか……」



 したい!? してほしい!? 俺主導で!?

 お、俺、まったく経験ないと言いますか、知識だってネットに転がってる程度のものしかなくて……! や、やるならもう一度ちゃんと勉強してからしたいと言いますか……!

 緊張が伝わって挙動不審になってしまう。いや、だって……なるだろっ、挙動不審にくらい……!

 喉の奥から変な音が鳴る。と、奏多は俺の脚に手を置き……小さく呟いた。






「は……は、ぐ……してほしい……かも」






 ……ん?



「……ハグ?」



 オウム返しで聞き返す。奏多は何度もこくこくと頷き、目をギュッと閉じた。



「ほ、ほらっ、最近勉強ばかりだったし……麗奈さんと純恋さんがいたから、2人きりになる機会も少なかったから……その……きょ、京水が……恋しい、です……」



 あ……確かにそうだ。メッセージではやり取りしてるけど、こうして2人きりになるのは、久々かもしれない。しまった、寂しい思いをさせちゃったか。

 邪な気持ちよ、去れ。今はお前の出番じゃない。



「い、いいのか? 今、意識が……」

「うん……多分、恋人よりになってる。でもね……恥ずかしい気持ち以上に……君に、触れたい」



 手を広げて、ハグ待ちをする奏多。

 まったくもう……いつからこんな、おねだり上手になったんだか。



「言っておくけど、俺だって、奏多に触れたいんだ。……しばらく離さないからな」

「か、覚悟の上にござるっ」

「なぜござる語」



 思わず苦笑いを浮かべ、奏多を抱き寄せると、勢い余って脚を跨り、全体重を乗せて俺の上に座った。

 硬直する奏多を少し強く抱きしめ、髪に顔を埋める。

 あぁ……温かい。柔らかい。いい匂い。ずっとこうしていたい。ずっと抱き締めていたい。絶対離したくない。

 奏多の体温が徐々に上がっていくのを感じる。恥ずかしいのかな。可愛い奴だ。



「あ……あば……! きょっ、きょ、しゅい……! は、は、は、はにゃっ、はにゃし……!」

「やだ、離さない。言ったろ、しばらく離さないって」

「でででででででも……!」



 残念ながら、離すつもりなんて毛頭ない。俺だって、奏多と触れたくて触れたくて仕方なかったんだ。今、思う存分抱き締めてやる。

 全身が柔らかさで包まれる。女の子って、こんなに柔らかいんだな……いや、奏多が特別柔らかいのか。

 そのまま動かず、ただ奏多の温もりと触感を味わっていると、不意に奏多の体から力が抜けた。



「奏多?」

「……きゅぅ~……」



 気絶した!?

 慌てて体を離す。顔がゆでだこのように真っ赤になり、頭から湯気が出ていた。恥ずかしすぎて気絶したのか……しょうがない、布団まで連れてってやるか。

 奏多を抱っこして、奏多の部屋まで連れていく。

 それにしても軽いな、奏多って。心配になってくる。

 奏多をベッドに寝かせると、寒くないように布団を掛ける。

 気絶……したにしては、幸せそうな顔してるな。というか顔がだらしなくにやけてる。

 苦笑いを浮かべ、奏多の頭を撫でた。最近勉強漬けで疲れも溜まってたんだろう。今はゆっくり寝かせてやるか。



「おやすみ、奏多」



 さらさらの前髪を払い、ひたいにキスを落とす。

 さて、今日は帰るとするか。また明日来よう。まだまだ勉強しなきゃいけないし。

 奏多を起こさないように静かに家を出ると、鍵をドアポストに入れ、静かな住宅街を後にした。


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