第2章 恋人として──

第34話 現実逃避する恋人

「つーわけで、なんやかんや解決した」

「たはは。いやぁ、お騒がせしまして」

「「なんやかんやとは!?」」



 遅刻する前に学校に滑り込み、先に着いていた九条と萬木に報告をした。めっちゃ呆れられたけど。

 ミヤにはまた後で、メッセージか何かで連絡を入れるつもりだ。あいつにも、いろいろ心配(迷惑)かけたし。

 九条は頭を抱え、萬木は呆れ顔で俺たちをじとーっと見て来た。



「あんなに悩んでたのに……本当、ウチらの気苦労はなんだったのさ」

「ご、ごめんね純恋さん。そんなに怒らないでよぉ」

「ぷい」

「純恋さ~ん」



 ふてくされてしまった萬木に抱き着いて頭を撫でる奏多。萬木の気持ちもわかる。俺が逆の立場だったら、半ギレしてるところだ。

 イチャイチャしている2人を見ていると、九条が俺の隣に立ち、呆れたように笑った。



「なんにせよ、おめでとうと言うべきかな」

「ありがとう。2人のおかげだ」

「何もしていないよ、私たちは。野次馬根性で、突っついていただけだから」

「それでもだ。2人がいなかったら、俺たちの関係は変わらなかっただろうから」



 ぬるま湯のような関係がずっと続いて、恐らく一生変わらなかった。それを変えてくれたのが、2人だ。本当、感謝してもしきれない。



「なら、今度何か奢ってもらおうかな。駅前のスイパラでいいよ」

「ああ、約束する」



 九条と指切りをしていると、ホームルーム前のチャイムが鳴り、メグたんが教室に入って来た。



「じゃあ奏多、またな」

「あーい」



 自分の席に戻ると、メグたんが今日あることや直近での提出物の締め切り等々、いつもの物腰柔らかな声で申し送りする。

 ほとんど関係ないから、右から左に受け流していると、「ところで~」と嬉しそうに手を叩いた。



「そろそろ、一学期の期末試験がありますが~。皆さん、ちゃんとお勉強はしていますか~?」



 ……っべ……すっかり忘れてた。

 メグたんの言葉に、そっと目を伏せる。多分俺だけじゃないはずだ。こんなことしても、現実は変わらないんだけど。期末試験、嫌すぎる。



「あらあら~。誰も先生と目を合わせようとしてくれませんね~。ですが現実を見ないとダメですよ~」



 わかってる。わかってるんだよ、メグたん。でも現実は受け入れられないんだ。嫌すぎるんだよ、試験。

 視線を下に、じっとメグたんの話に耳を傾ける。が……。






「赤点を取ったら、夏休みの間は科目×3日間の補習がありますから~」






 とんでもない事実に、全員一斉に顔を上げた。

 え、ちょ……補習!? 聞いてない!



「先生としても、できれば補習は回避して欲しいんですよね〜。先生たちのお仕事も増えるので〜」



 サラッと本音を暴露したが、俺たちからしたらそれどころではない。

 期末試験の科目は10科目。全部で赤点を取ると、夏休みすべてが潰れる。

 さすがに全部苦手ということはないけど、英語と理系科目が苦手だ。下手すると10数日も学校に来ることになる。それだけは避けたい。


 勉強……そういや、奏多は勉強得意なのか? 英語は大丈夫だとは思うけど、他の科目は……?

 横目で奏多を見る。と……物の見事に、顔面が真っ青になっていた。



「補習が嫌だったら、試験前はちゃんと勉強するように〜。それでは、ホームルームを終わりますよ〜」



   ◆◆◆



「第1回・なんとか補習を回避する作戦を思いつこう大会議ィ!!」

「イエーイ!!」

「あはは」

「いや勉強しろよ」



 奏多の家に呼び出された俺、九条、萬木は、三者三様の反応を見せた。

 ノリが合う萬木は両手を挙げて迎合し、九条は楽しそうに笑って手を叩く。



「ふー……わーかってないなぁ、京水は。甘い、甘いよ。それはもう、アメリカのお菓子よりも甘い」



 チッチッチッ、と指を左右に振る奏多。彼女とか関係なくウザいな。



「確かに勉強は大事だよ。でも、勉強せず赤点を回避できるなら、それに越したことはないじゃないか! 勉強反対! 学生は勉強するだけが青春ではなーい!」

「ヒューヒュー! カナちの言う通り! よっ、大統領!」



 なーんか威風堂々と言ってますけど、要するに勉強したくないだけじゃねーか。

 呆れ半分、諦め半分でため息をついていると、九条が俺の肩を指でつついてきた。



「おたくのお嬢さん、ああ言ってますよ」

「面目ねぇ」



 いや、ホント。昔から勉強は嫌いだったけど、成長してからは輪をかけて嫌いになってるな。



「そんなこと言ってると、本当に赤点になって夏休み潰れるぞ」

「うぐっ……そ、それをなんとか回避するために、こうしてみんなで集まって……」

「勉強すればいいだろ。ほら、座りなさい」

「うえぇぇ〜……」



 奏多を無理やり座らせるが、嫌そうな顔をしてシャーペンを持とうとしない。

 まったく。しょうのない奴だなぁ。



「奏多、いいことを教えてやろう」

「何?」






「長期休暇、ここに泊まっていいって母さんの許可を貰ってます」

「勉 強 し ま す!!!!」






 はっはっは。チョロくて助かる。

 実際はそんな許可貰ってないんですがね。後で土下座で頼み込まないと。

 まあ、これで奏多がやる気を出してくれるなら、安いもんだ。頭の1つや2つ。



「うわ……うちらもしかして、友達のセッ○ス宣言聞いちゃった?」

「もしかしなくても聞いちゃったね」



 しとらんわ、バカタレ。


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