その体で『男友達』は無理があるだろう!?

赤金武蔵

第1章 大親友として──

第1話 再会する大親友

   ◆8年前◆



『やくそくな! どんなことがあっても、おれはおまえの味方だ!』

『もちろん! ぼくも、ぜったいきょーすいの味方だよ!』



 燃えるような夕焼けが射し込む公園。泥で汚れ、傷だらけなりながら、俺たちは生涯の約束を誓い合った。

 満面の笑みを浮かべる俺、氷室京水ひむろきょうすい

 そしてこいつは、人生で最高の『男友達』、火咲奏多ひさきかなた

 こいつのためなら、世界中が敵に回ろうと、俺だけは絶対に味方であり続ける。


 互いに、そう思っていた。

 そう、思ってたんだ。



   ◆現在◆



「火咲奏多です。アメリカから戻ってきました。よろしくお願いします」



 ……おい、これは夢か?


 壇上で黒板に綺麗な文字を書き、堂々と佇む……女子生徒、、、、

 白のブレザーをはちきれんばかりに押し上げる胸(誰もがまず目にしちゃうだろう、あれは)。

 白く綺麗な生足が伸びるスカート。

 朝日を反射する紫がかった黒髪。

 涼し気で切れ長だが、意思の強い目。


 あの日、夕暮れの公園で誓い合った翌月。両親の仕事の都合で、アメリカへ行ってしまった大親友……火咲奏多が、そこにいた。

 ……女子生徒の、制服を着て。


 あまりの美貌に、男女問わず見惚れる。

 と、担任のメグたん(穂坂恵美ほさかめぐみ先生+担任=メグたん)がぱんぱんと手を叩いて注目を集めた。



「火咲さんはご両親の仕事の都合でアメリカに行っていましたが~、引っ越しの都合で6月の入学になってしまいました~。この町の出身ということで、知っている人も多いかもしれませんね~。彼女が馴染めるよう、サポートしてあげてくださ~い」



 相変わらず間延びした癒し声に、誰からともなく拍手をした。

 それでも俺は、奏多から目を離せなかった。

 だって……え、女? 女子? 女の子? え、え、え……? そんな……は?

 呆然と彼(彼女)を見ていると、不意に奏多と目があった。


 が、奏多は俺と気付いていないのか、そっと目を逸らした。

 そりゃそうか。ガキの時に比べたら、互いに成長してるもんな。気付かないのも無理はない。

 でも……ちょっとくらい違和感を覚えてほしかったな。俺たち、親友なんだしさ……って、男女だからそれももう関係ない……のかな。

 なんか、寂しい……って、何言ってんだ俺。


 奏多がメグたんに言われて、窓際の席に座る。

 俺の席からは少し遠い。声を掛けるにしても、ここからじゃ無理だな……後で話しかけてみよう。

 ……いや待て。俺が話しかけていいのか? あんなにリアクションが薄かったんだ。もしかして、俺のことなんて忘れてるかも……いや、でも……うぐぐぐぐぐ……!

 な、何を思い悩んでるんだ。別に悩むことなんてない。ただ普通に、昔馴染みに再会したから話しかけるだけ。それだけだ、うん。


 よし。ホームルームが終わったら、声を掛けてみよう。そうしよう。






 ……おい、嘘だろ。


 朝のホームルームが終わって声をかけようとしたら、すでに奏多の周りには人だかりが。完全に出遅れた。

 それだけじゃなく、よそのクラスからも野次馬が見にくる始末。どうやら、このクラスに帰国子女の美少女が転校してきたと噂が流れたらしい。

 そのせいで、今うちのクラスは大渋滞を起こしていた。

 人垣の隙間から奏多の様子を見る。

 お淑やかに笑い、話しかけてきた奴にちゃんと応答していた。

 こりゃあ、ゆっくり話をするなんて到底無理だな……俺は次の休み時間にするか。


 と、思ったのだが……次の休み時間も。その次の休み時間も。はたまた昼休みも。放課後まで……奏多の周りには人だかりができ、話しかけられる雰囲気ではなかった。

 話をしたクラスメイト曰く、超清楚で超いい子。あんな女の子がいるなんて信じられない、と。

 清楚でいい子、ねぇ……。

 また奏多に目を向けると、放課後なのに全然帰れそうにない。ずっと話をしている。

 こりゃ、今日は無理だな……まあ、明日以降も時間はあるんだし、出直そう。

 ため息をつき、帰りの支度をして人知れず教室を出る。


 そうだ。母さんに奏多が帰って来たことを教えてやろう。母さんもおばさんと仲がよかったから、知ったら喜ぶぞ。


 他の帰宅する生徒に交じり、ただの一般生徒Aとして校門をくぐって校外に出る。

 いつもの通学路を歩くこと数分。十字路に立ち、ふと家とは反対方向を見た。

 そういや、奏多といつも遊んでた公園って、あっちの方だったな……久々に行ってみるか。

 もうこっちの方も、数年は来ていない。公園で遊ぶなんて歳でもないし。

 でも……変わってないな。このイチョウ並木も、ちょっとした畑も。


 昔を懐かしみながら歩いていると、少し寂れた公園が見えてきた。

 あるものと言えば、ジャングルジムとブランコ、水飲み場とベンチくらい。

 はは、懐かしい。近くに遊具の充実してる公園があって、こっちは人気なかったんだよな……だからこそ、2人で思う存分遊べたんだけど。


 公園に入り、ベンチに座る。

 ここ、こんなに狭かったっけ。昔はもっと大きかった気がするけど……って、俺がでかくなったのか。

 ここでの約束……アイツ、覚えてんのかな。覚えてなくても仕方ないか。あんなガキの頃に交わした約束なんか。

 俺はあれから町を出ず、平々凡々と生きてきた一般人。対して奏多は、アメリカっていう想像もつかない場所で生活していた帰国子女。俺との約束より、もっと楽しいことも面白いことも知ってるよな。

 ……なんかおセンチになっちまった。やめやめ、馬鹿らしい。

 背もたれに体を預けて、空を見上げる。


 と、何かが俺の顔面にぶち当たって弾けた。



「わぶっ!?」



 ちょ、え、冷た!? ななななんだ!?

 慌てて立ち上がると、地面に何かが落ちた。

 これは……水風船? なんでこんなもんが……。



「……って、こんなことすんの……お前しかいないよなぁ」



 ジャングルジムを見上げる。

 てっぺんには、西日を背に仁王立ちし、膨らませた水風船を片手にドヤ顔を見せている……火咲奏多の姿があった。



「よう、大親友悪ガキ

「うん。久しぶり……大親友悪ガキ!」

「わっと!」



 急に投げつけられてきた水風船を避ける。



「避けんな!」

「避けるだろ!」



 再び投げられた水風船をキャッチ。そのまま投げ返すと、奏多の顔面に当たって破裂した。



「にゃ!? こんのっ……!」

「やられたらやり返す!」

「こっちのセリフだー!」



 いったいいくつの水風船を持っているのか。

 俺たちは気が済むまで水風船を投げ合うと……どちらともなく、笑いがこみ上げてきた。


 ああ、これだ。これだよなぁ、奏多。

 清楚? いい子?

 違う。こいつはそんなんじゃない。


 元気で、活発で……ただの、いたずら好きの悪ガキだ。


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