本当に大切な存在
京子に助けられた後、僕はなんとか落ち着き、その後は角っこでひっそりと一日を過ごした。
クラスの陽キャ軍団も、いじれなくなったのが気に食わなかったのか、僕を最初の方は睨んできていたが、そのうち何事もなかったかのようにいつものようにクラスで変な遊びを始めていた。
放課後になり、教室からだんだんと人が減っていく。僕は、図書委員なので、急いで帰るということができない。
すぐに図書室に行ってもいいのだが、そんな事をしても、人はあまりいないので急ぐ意味がない。なので、静かになっていく教室をぼーっと眺めるのが習慣になっていた。
京子は、最初の頃は「私も残る」と言って一緒についてこようとしていたが、僕が恥ずかしいからやめてと必死に頼んだからか、大人しく帰ってくれるようになった。
家に帰ると、京子が大体いるので、彼女がいないこの時間というのはとても貴重なものだった。
(そろそろいくか...)
時間的に、そろそろ人が来る時間帯なので、僕は席を立ち、カバンを持って図書室に向かった。
~~~~~~~~
〜ってことだったんですよ。...って、聞いてます?せ•ん•ぱ•い!」
「聞いてるよ。てかついてくんなって...」
僕は、後ろにずっといる後輩に呆れながら本を整理する。彼女は、佐藤美由紀。彼女がいじめられていたところを、なんとか助けたら、次の日からずっと絡まれ続けている。
僕は、何かの作業をする時、話しかけられると気が散って上手くできないタイプだから、本当にやめてほしい。
「嫌ですよぉ。私なんかに絡まれたくなかったなら私を助けなければよかったんです...優しすぎる先輩を恨めってんです。このこの!」
でも、彼女は僕の頼みを全く聞く気がないようで、全く話をやめない。なんなら、時々背中も突っついてくる。この表面だけ見れば、彼女は明るくウザいだけに見える。
ただ、いじめというのは確実に被害者の心に深い傷をつける。それが小規模ないじめだったとしても。加害者側がふざけていただけのつもりでも...
実際、佐藤が「助けなければよかった。」と言う時、明らかに元気がなかった。きっと、あの時の辛さを思い出させてしまったのだろう。
彼女は僕と同じで自己肯定感が低い(多分いじめのせいだと思う)。だから、冷たくあしらっていたらこういうふうにことは想定できたはずだ。なのに、こんなことになると気づけなかった。そんな自分自身が本当に情けなく感じる。
「...僕はいじめとかの辛さを知ってるつもりだから。ああいうのを見たら助けるよ、絶対に。だから、助けなければよかったなんて言うな。分かったか?佐藤。」
「っ!?...はい。」
佐藤に辛い思いを思い出させてしまったお詫びとして、頭を撫でながら、なるべく優しく彼女を励ました。
佐藤は、最初肩をビクンと跳ねさせたが、すぐに目をつむり「へへへぇ〜」と微笑んだ。
彼女の笑顔を見ていると、僕も、さっきまで落ち込んでいた気持ちが晴れるような気がして、なんだか心が暖かくなった。
数秒間頭を撫でた後、その手を離すと、佐藤は、名残惜しそうに僕の手を見ていた。「佐藤?」と話しかけても、ボーッとした状態のままだった。
なんだか面白く感じた僕は、佐藤のことをしばらく眺めることにした。
「はっ!わたしは何を!?」
1分くらいが経過した後、彼女は正気を取り戻し、慌てて周りを見渡していた。そして、彼女を眺めている僕を見つけると、顔が一気に真っ赤になった。
「な、なな何を見てるんですか!気持ち悪いですよ!?この変態先輩!」
「酷い言われようだな...」
理不尽な罵倒を受けたが、これが照れ隠しなのは流石に分かるので、ダメージを受けることはなく、むしろほっこりした気持ちになった。
その後は、黙々と本の整理をして、カウンターに座り、人が来れば対応をし、人がいない間は佐藤と話をしていた。
「そういえば、先輩って好きな人いるんですか?」
何気ない日常の話をしていると、彼女は不意に爆弾を放り投げてきた。
「僕の好きな人なんて聞いても面白くないだろ?やめとこう?」
ここで、いないとでも言えば引き下がってもらえたかもしれない。でも、僕は急な質問に頭が混乱して、焦ってしまった。
そのせいで、冷静に考えることができず、遠回りに好きな人がいると答えているのと同じ答え方をしてしまった。
「私、知りたいです。」
佐藤は、急に真面目な表情になり、僕を真剣に見つめてきた。どうしてそこまで彼女が僕の好きな人を気にするのか分からなかった僕は、より頭が混乱した。
佐藤に気を許しているところがあるのも理由の一つだと思う。僕は、彼女にしか、本音を話せない。でも、流石に普段なら言わない。
だだ、パニクってる頭では、冷静な判断ができなかった。
多分、そのせいだ。
つい、ぽろっと本当のことを言っていまったのは...
「...僕は幼馴染が好きなんだ.....」
言ってしまった瞬間にハッと我に帰る。その瞬間、ドッと後悔が押し寄せてきた。僕の幼馴染は、学校の中では有名で、きっと佐藤も知っているはずだ。
このままでは「身の程知らずの恋だ」とか「辞めとけ」とか言われてしまう。多くの人にそれを言われてきた。だからだいぶ慣れている。でも、彼女にだけは、何故か言われたくなかった。
なので、僕はすぐに今の発言を取り消そうと佐藤の方を向いた。でも、その時には遅くて、彼女はすでに口を開く途中だった。
(終わった...)
そう、心の中で絶望した。
「そう...なんですね..」
その先の言葉を聞きたくなかった。だから慌てて耳を塞ごうとした。
でも、その不安やら絶望は杞憂に終わる。
「…凄いですね!幼馴染に恋をするなんて、漫画みたいです!私、応援しますよ!頑張ってください!」
彼女は笑顔でそう言った。僕は、そのことに驚きを隠せずにいた。
震える唇を頑張って動かし、口を開いた。放つ言葉は、どれも情けないくらい震えているのが自分でも分かった。
「...もう一回言ってくれ。」
自分の耳が信じられなかった。
「もう一回って、恥ずいじゃないですか!
もう、私は先輩の恋を応援するって決めたんですよ!」
彼女を見ると、嘘偽りのない真剣な目で僕を見ていた。本当にそう思ってくれてるのだと思った。
「...どうして?」
「何がです?」
「どうして、応援してくれるんだ...」
でも、やっぱり信じれなかった。
今まで、本当に多くの人に否定されてきたから。クラスメイト、通りすがりの人、廊下ですれ違った知らない先輩や後輩、本当に多くの人に数年近く言われ続けてきたから。
なんでアイツが隣にいるんだって。
釣り合ってないって。
「なんでも何も、先輩は私を助けてくれました!なら、私も先輩を助けるのが普通ですよ。だから、私は応援します!」
でも、彼女はそんなことをが一言も言わずにただただ元気に僕の思いを肯定してくれた。自分自身ですら、否定し続けていたこの想いを彼女は肯定してくれた。
「あ...」
目頭がすごく熱く感じる。視界がぼやける。そして、頬を何かが伝った。
「先輩!?どうして泣いてるんですか!?っすみません!何か嫌なこ「違う。」...」
佐藤は、僕の様子に気付き、謝りながら、慌ててこちらに近寄ってくる。
彼女の発言で、自分が泣いているのだと初めて気づいた僕は、慌てて、袖で涙を拭いながら、彼女の謝罪を否定した。
だって、彼女は僕のことを何ひとつも傷つけていない。だから、これは悲しい涙でも、悔しい涙でもない。
これは、嬉し涙だ。だって、
「違う、違うんだよ。コレは、うれ、しくて...だから、さ、とうは、わる、くない...」
「先輩?」
「さ、とう...あり、がとうな。」
「...はい!」
僕の気持ちを、僕の事を、彼女が唯一救ってくれたのだから...
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「作者」
はい。というわけで、主人公君は"一旦"救われました。めでたいですね!このままハッピーな方向に進んだら、いいですよね...
ま、作品の話はコレくらいにして...
誤字報告、設定ミス等々があれば教えてくれるとありがたいです!後、評価等もしてくれると、やる気が爆上がりするのでよろしくお願いします!最近投稿頻度下がってるので、そろそろ頑張ります!
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