スキ


ご飯を食べ終わり、僕は京子と一緒に学校へ向かった。


登校中、僕は彼女となるべく距離をとって歩こうとした。もし、並んで一緒に学校に行ってる所を誰かに見られたら、みんな、彼女と僕を比べるはずだ。それが嫌だった。


でも、離れても、京子はすぐに近づいてきた。何度も何度もひつこく近づいてきた。何回か離れては近づかれてを繰り返した後、ついには腕を掴まれ、離れられなくなった。


捕まる前に走って逃げても良かったのだが、後で何を言われるか分からないのが不安だったので、やらなかった。


最終的に、僕と京子は腕を組んで登校することになってしまった。多分、彼女は、僕のことを幼馴染と見ていて、異性として見てないのだと思う。



だからこんなにも距離感が近いのだろう。正直、こっちとしてはドキドキしてしまうし、勘違いしてしまうのでやめて欲しかった。


でも、僕の意見が通るはずもないので、やめてとも言わなかった。心の中で、そこまで自分は男らしくないのかと思うと、心がズキズキと痛んだ。

でも、京子の機嫌は損ねてないから、"体"は痛くなかった...






学校についてからは、流石に組まれていた腕を外してくれた。だから、僕は、さっさと靴から上履きに履き替え、早歩きで教室に向かった。


この程度なら、彼女は怒らない。だから、やっても平気だ。そう、バクバクしてる心臓に言い聞かせる。


教室の扉の前につき、ガラリと開けると、一瞬教室の中にいる人たちの視線が一気にこちらに向けられた。多すぎる視線に、ビクリと僕の肩が跳ねる。


(おはようとでも言えばいいのだろうか。でも、それを言って誰も返してくれなかったら恥ずかしい。でも、何も言わないで、挨拶もできない無能だとは思われたくない...)


そんな嫌な考えがどんどん生まれてくる。そのせいで、どれが正解なのかが分からず、僕は扉の前で固まっていた。思考が停止しかけた時、僕には興味がないのか、クラスメイトの視線を一瞬で感じなくなった。


そのおかげで、なんとか落ち着きを取り戻し、僕はゆっくりと歩きながら自分の席に着いた。


僕の席は、窓際の1番後ろの席で、ほとんどの時は平和だ。


たまに、ウェイウェイ系の男子組が、紙飛行機をこっちに飛ばしてきたり、紙をくしゃくしゃに丸めたボール状のものもこちらに飛ばしてきたりがあるくらいで、僕の席に近づいてくる人は1人を除いて全くいない。


通る道の時も、あまり僕の席近くを使う人はいない。人とあまり関わらない僕に取って、良くも悪くもこの席は、"平和"だ。


僕は、少しの間の平和な時間を、外の景色を眺めて過ごしていた。いつもは晴れてるのだが、今日は曇っていて、ジメジメして、暗い、そんな感じの嫌なものだった。


ボケーっとしていると、ガラリと扉が開く音がした。そして、その瞬間に教室が騒がしくなる。もうコレだけで、誰が入ってきたのかが分かった。


僕は、慌てて顔を伏せ、寝たふりをした。気づかれたくない、気づかないでと願うたびに、どんどん心臓の音が大きくなっていく。


それと比例して、コツコツと足音も大きくなっていった。


ッコツ


コツコツ


コツコツコツ


.......


(っ!?)

急に足音が止まった。足音の大きさからして、まだ僕のところへは来てない。それで止まったということは、僕のところに来ようとしてた訳ではないのか、そもそも人違いかの2択だった。


 危機が収まり、気持ちがだんだんと落ち着いてくる。すると、さっきの足音が誰なのか、どこに向かってたのかが気になり始めた。


顔を起こさない方がいいと直感が告げてくるが、それでも僕の好奇心は止まらなかった。


(顔をずらしてチラリと見るだけ...目を開けるだけで大きな動きはないから平気だ....)


そう自分に言い聞かせ、僕は首を動かして顔をずらし、恐る恐る目を開けた。


「ばぁ!!!どう?びっくりした?」


「っ!!!」


心臓がビクリと跳ねた。驚きすぎて、椅子ごと数十センチ後ろに下がる。オーバーリアクションのようにも思えるが、驚くのもしょうがないと思う。


だって、目を開けたら、目の前に顔があったのだから。しかも、それは、僕がさっき気づかないでと願った人、教室であまり関わりたくない人だった。


「アハハ、翔太はやっぱり面白いなぁ。」


「...やめてよ、"京子"。」


僕は、面白がっている彼女に、そうお願いした。でも、京子は、特に悪びれることもなく、笑いながら、


「辞める訳ないじゃん。だって、翔太、私を置いていったでしょ?その上寝たふりまでしてたんだもの。イタズラの1つや2つしたくなるのはしょうがないじゃない?」


と言ってきた。確かに、自分にも悪いところはあった。だから、京子に、その点を指摘されては、もう反省するしろとは言えない。


でも、次からはやられたくないので、最後に釘を刺すことにした。


「まぁ、今回は僕も悪いところがあったけど、次からはやめてくれ。頼む。」


そういうふうに頼むと、京子は顔を渋くしながら、


「ちぇーっ、分かったよ。」


と答えた。どうやら訴えていたことが理解してもらえたようで、僕はホッと胸を撫で下ろした。


その油断していた瞬間、京子が急に僕の耳元に顔を近づけてきた。


あまりにも、急な出来事で、反応ができなかった。彼女は、僕の耳元で、僕以外が聞こえないようなボリュームの声で囁いてきた。


「でも、コレで済んだのは、私なりの優しさなの。次からは、ね?」


「ッ!」


慌てて囁かれた耳を塞ぎながら距離を取り、彼女をキッと睨んだ。でも、京子はニコニコしながら、ゴメンと謝るだけで、怯えたり、怖がったりはしなかった。


むしろ僕が、京子が本当に笑っているように見えなくて、彼女が怖いように感じた。


その後は、京子から囁かれたことや、彼女の笑っていない笑みが怖くて、離れて欲しいとかも強く言えず、仕方がなく、ビクビクと内心怯えながら、彼女と話をしていた。


じばらくたった頃、1人の男子生徒がこちらに近づいてきた。僕に用事があるなんてことがある訳ないので、この人は京子に用事があるのだと思う。


これで、京子と話す時間が終われると思い、内心ホッとしながらも、念の為なるべく残念そうに振る舞った。


「北里さん、石崎くん、ちょっといいかな?」


僕たちのそばに近寄ってきたクラスメイトが放った言葉に、僕は思わず自分の耳を疑った。彼がいうには、彼は京子だけでなく、僕にも用事があったようだ。


僕は、京子以外のクラスメイトと話すのは久しぶりなので、何を言えばいいのか分からず、あたふたと慌てるばかりだった。


「大丈夫だよ。翔太も大丈夫だし。

それで?何の用かな?」


何も言えない僕とは真反対に、京子は慣れたようにこういう時のテンプレ的な返事をしていた。ただ、僕のことを勝手に決めたのは少し腹がたった。


「実はね、クラスのみんなで遊ぼうって話になってるんだ。それで、北里さんと石崎くんもどうかなって。無理なら全然構わないよ」


そう説明しながら、彼はニコリと微笑みかけてきた。彼を見ると、胸がずきりと痛んだ。

なので、慌てて目を逸らす。


こんな時、どうすればいいのか分からないので、仕方がなく、目線で京子に助けを求めた。


 彼女は、すぐに僕のことに気づいた。そして、ニコリと笑って、彼の方を向いた。彼女が作り出した笑みは、僕にとっては不気味なもので、嫌な予感が一気に身体中を走る。


僕は素直に自分の予感に従い、彼女が何かを言う前に、急いで止めようとしたけど、その時にはもう手遅れだった。


京子はニコニコしながら、こう答えた。


「私は翔太に任せるよ〜翔太が行くなら私も行くし、翔太が行かないなら私も行かな〜い。」


そう言われた瞬間、彼の視線がこちらに向く。それだけならまだなんとか平気だった。でも、クラスメイトの大多数が、一気に僕に視線を向けた。


「ぁ、っ、ぇっと...」


必死に声を絞り出す。でも、口が上手く動かない。ドキドキと心臓がうるさい。その様子を、京子は楽しそうに見ている。


「もっと大きな声で話せよー!!!」


どこからかそんな野次が飛んできた。そして、その瞬間に、いつも教室で騒いでいる集団が騒ぎ始める。


「声小せぇぞー!!」


「人と話すときは、目を見ましょうねー!」


「早よ答えろよー!!」


そういったものがどんどん僕に投げられる。その度に、僕の心臓がどんどんうるさくなっていき、頭もズキズキといたんだ。


ヒューッハァハァハァヒューッ


呼吸もだんだんと苦しくなっていく。


何か答えなければどう答えればいいんだ何か言わなければ何を言えばいいんだクラスメイトが不満に思わないようにするにはどうすればいいんだ分からない分からない分からない


そんな事のみが頭に浮かび、行動に移す勇気がない。1秒の空白で頭痛が酷くなっていった。1秒の空白で心臓がどんどん早くなっていった。1秒の空白で呼吸がどんどんしづらくなっていった。


(誰か、助けて...)


そう願って辺りを見渡しても、誰も救ってくれる人はいない。いつも騒いでる組はゲラゲラ笑い、他のクラスメイトは見て見ぬふり。クラスにとっての僕の存在はその程度だ。



このまま、倒れてしまうのではないか。



そんな考えも、とうとう頭に浮かび始めた。もしかしたら、惨めでコミュ障などうしようもない僕にはピッタリかもしれない。でも、苦しいのは嫌だった。だから助けて欲しかった。


(もう、ダメ...)


そう感じて、意識が途切れそうになる瞬間、肩をポンと叩かれた。その衝撃で、シャットアウトしようとしていた意識を取り戻した。


「そうだ!私予定あったから無理だ!ごめんね。翔太も同じく用事あるよ〜」


「そっか。分かった。じゃあまた今度誘うね。」


「うん。よろしく〜」


僕の近くからそう言ったやりとりが聞こえた。その声で確信した。肩を叩いたのは、京子だった。


無意識に、僕の瞳が京子を追う。彼女は、僕の正面に立ち、僕の顔に手を当てた。


「ごめんね。こんな事させちゃって。」


「...うん。」


京子は申し訳なさそうに謝ってきた。


彼女が謝るということは、彼女は何かをしでかシタのだと思う。でも、あタまがショートしたボくには、ナニをあヤまられたのか分かラなかった。


「これをきっかけに、翔太が成長できるかもって思ったの。だから、貴方に話をふったの。」


「うん。」



動かない頭を最小限働かせる。


(ソう、だったのか。

ボクのためなら、しょうがない。キッとそうなンだ。)



「彼たちを止めるのが遅くなってごめんなさい。貴方なら乗り越えられるかもって信じたせいで動くのが遅れてしまったわ。」  


「うん。」



(ぼくヲシんじたせイならば、しょウがない。)



「私のこと、嫌いになったかしら?」


「ううん...なってないよ。」



だっテ、ボクのたメにやってクレたんダ。それで、ボくがピんチのトキ、サいごのとキにはチゃんとタすけてくれた。だれモがみてミぬふりをしていたのに、ケイコはスクってくれた。



「よかった。」



そういうと、彼女はニコリと笑った。その笑顔を見ると、なんだか心の一部分がポカポカし始めた。この感覚を、僕はなんというか知っている。


だって、このキモちはずっと、僕の中にあったのだから。










アぁ、やっパり






ボクハヤサシイ ケイコ ガ"スキ"ナンダ....








_________________________________________


投稿遅くなりすみません。今後頑張ります。


誤字報告等あれば教えて頂けるとありがたいです。面白いと思った方は、是非、評価をよろしくお願いします。











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