第44話 ユンside:クリエイターの想い

 打ち上げの後、真っ直ぐ家に帰る気になれなかった。


――だからって何でここなんだよ…。



 ソウル西校前の公園。


 いつも飲んでた缶コーヒーを買って、俺たちにとっての、いつものベンチに座ってみた。

アミのいつもの定位置、俺の左側に



―― カフェオレを置いた。



〝遅くなってごめんね!〟




 って、来てくれないかな。




 久しぶりにこの公園に来たけど、何も変わってない。

いや、少し小さく感じるか…。



 アミとやっと再会したのに彼氏がいて

敵対心むき出しにされてしまった。

もっと早くに攻撃を仕掛けてたら

何か変わってたのかな。


 アミの事になると後悔ばかりだ…。



 今頃、怒られてたりしてなきゃいいけど…

殴られたり?

してないよな…?



 待ち伏せだってなんだって出来るけど、アミの望んでいる事じゃ無いかもしれない。

彼氏が居たんじゃ振られる可能性の方が高い。

友達としてでもって食い下がるか?


 それはカッコ悪りぃ。


 幸せになってたらなってたで手が出せない。

アミに対しては、良心が残ってるらしい。


 高校の時よりも、可愛くなりやがって…。

あの男のせいかと思うと、イライラする。


「チッ!」


―― ビュ〜


「うぅ。さみっ。」


 カフェオレが冷め切る前に立ち上がった。


――――――――――――――――

「お前、自暴自棄なんかなぁって思ってた時期があったけど、抜けたみたいだな。」


「そんな時期ありました?」


「取っ替え引っ替えって、ウワサあったじゃん。」


「………」


「俺の同級生のミンジュンってやつ居たじゃん?アイツとやってる事変わんねぇからな?(笑)」


「俺の場合は女の方から来るんで。あの人とは違いますよ。」


「言うねぇ。 で?このままで良いの?日程全部終わっちゃったよ?」


「何が出来ますか?何も無いです。まぁ、また何年かして再会した時に、男が居なかったら声でもかけてみますよ。」


「あんだけ可愛くなってて男が放っておくわけねぇだろ! 今だから言っておくけどな。お前たちが2年の時、バスケ部の3年にアミちゃんの事好きだったやつ、2人居たからな?」


・ 


――――――――――――――――

 キャプテンに脅されたからって、やれる事とやれない事があんだよ。


 バレンタイン、バレンタインって浮かれやがって。

街が赤やらピンクで飾られている。


 ある日曜

そんなイベントとは無縁の、青と白で構成された店に向かう途中だった。




 ウソクに声をかけられた。


「お!ソンくんこんなとこで会うとは。映像は見た?」


「うん。」


「どうだった?」


「良かったよ。」


「あれ、ほとんどアミちゃんの編集だよ。」


「あっそ。」

(何だよ彼女自慢かよ。)


「あのさ、僕たち別れたんだよね。」


「だからなに?」


「嬉しいんじゃない?」


「何でだよ。」


「別に。じゃあね。」



(別れた?どうしたらいいんだ?とりあえず電話?いや、アミは番号変わってる!誰か知ってる奴いねぇのか!?アミの番号!)


 居ても立っても居られずソジンに電話した。



(頼む、早く出ろ!)


「ソジン!」


「なんだ珍しいな。昨日も会ったのにもう恋しいのか。」


「そんなくだらねぇ事話してる場合じゃねーんだよ!」


「何だよ。どうした?」


「アミの新しい番号って知らないか?」


「お前が知らないのに何で俺が知ってんだよ!」


「だれか、繋がってる奴いない?ジアちゃんとかさ。」


「あぁ、もうあれきっりだからなぁ。」


「わかった。じゃあ、もう、とりあえずなんとかするわ。じゃあな!」


「おい!まて!」


「あ?」


「なんかしらねぇけど、頑張れよ。」


「あぁ。」



(次!誰だ!?キャプテン?異性だから絶対交換してねぇ!)


 スマホの連絡先を、何度もスクロールして繋がりのありそうな人を探していたら

また、声をかけられた。



「ソンくん!そんな必死になってどうしたの?アミちゃんと連絡取りたいんだ?(笑)」


「なんなんだよ。チッ。」


「ちょっと話ししようよ。これから時間ってある?」


「ちょっと、買い物したら…。」


「僕も持って来るものがあるから。そうだな。1時間後に南部ターミナルに来れる?」


「うん。」


「駅から藝大までの間に『喫茶アポロ』っていう喫茶店があるんだけど、そこに来て。」


「わかっ…た…。」



――――――――――――――――

 スポーツショップでメンテナンスの完了したバッシュを受け取り、店内で時間を潰してから喫茶店に向かった。


 喫茶店に着くと、ウソクはすでにコーヒーを飲んでいた。



「来てくれて良かったよ。」


「特に話す事は無いと思うけど。」


「そうかなぁ?こうなったら腹割って話そうよ。嘘つくの無しだからね?」


「で?」


「高校の時、1番仲が良かったって言ってたよね?本当に好きじゃなかったの?」


「好きだったよ。」


「そっか。僕さ。初めて告白した時に、好きだった人が忘れられないからって1度断られてるんだ。撮影の後にその人がソンくんだったってわかっちゃってさぁ。それから僕たちダメになっちゃった。」


「………」


「だってさぁ。アミちゃん、まだ好きなんだもん。ソンくんの事。ちなみにソンくんは?まだ好き?アミちゃんの事。」


「はぁ。チッ。…好きだよ。」


「良かった。じゃあ、頼みたい事があるんだよね。これ、僕の代わりに渡してあげてよ。」




―― USBだった。




「アミちゃんはそのデータが残ってる事知らないんだ。全部消されたと思ってる。消したのもあるんだけど、アミちゃんが編集した動画だけはどうしても消せなくて。」


 黙って聞いていた。


「僕も映像クリエイターの端くれだからさ、自分が作った作品を勝手に消されるってさぁ。考えられないよ! 悔しさとか怒りって…相当な物だって分かるから。どうしても消せなかったんだよね。」


「…………。」


「それに、悔しいかな、良く出来ててさぁ!(笑)こんなの見たら敵わないよ(苦笑)作品としても消せなかったよ。アミちゃんの作った物だと思うと、余計にね。」


「…………。」


「アミちゃんに恨まれたままでは、居たくないんだよ。アミちゃんにとって、嫌な奴で終わりたくないんだ。だから、アミちゃんに渡して欲しくて。」


「…………。」


「あ、絶対に中身見たらダメだからね?これはアミちゃんのプライバシーに関わるモノだから、絶対に絶対に見たらダメなんだからね!!?」


「っせぇな…。わかったよ。でも、どうやったら渡せるんだよ。」


「週に2回一緒にここで、朝早くから10時位まで過ごしてから学校に行ってたんだけど、今はアミちゃん1人でやってるみたいなんだ。何曜日にやってるかは言わないよ。自分で探って。」


「はぁ?」


「ソンくんにアミちゃんを譲ってあげるよ。」


「何言ってんの? 返してもらうだけだから。」



「会えると良いね!」

と、ウソクは去って行った。


 ふざけやがって…。



 遠慮なく、返して貰うから。





 俺の【アミ】を。





――――――――――――――――

 このUSBには何が入っているのか。


 絶対に見るな。

って言われたら、見たくなるんだよな。

あれって


「見ろ」


 って事だろ?

行動を操られてるみたいでムカつく。

ってか、プライバシーに関わるモノをお前は見たんだろ!?

なんだ?アイツ…。


 良いよ。

見てやるよ。

見りゃぁ良いんだろ!



 ノートパソコンにUSBにを繋げて中を見ると




『Smile』『Serious』『Play』『All』『♡』



の名前がついた5つのフォルダと



「 」



 の、何も名前のついて無いフォルダ

計6つのフォルダがあった。


 先頭にある『Smile』から見た。



 俺の笑顔だけが集められた動画だった。



 キャプテンと笑ってる俺

シュートが変なとこに向かって行って笑ってる俺

仲間がふざけてるのを見て笑ってる俺…



 『Serious』は、真剣にボールを追いかけてたり、話を聞いている俺が集められていた。



 『Play』は、プレイ中の俺。



 『All』は、俺が映っている全ての映像の様だった。



 『♡』

これは、本人に聞かないと分からないが

おそらくアミが、個人的に好きな表情や場面なのだろうと思う。



(俺のこんなトコが良いと思ってんの?(照))



 俺の動画だけを使って、アミが1人で編集したのかと思うと、嬉しくて胸がいっぱいになった。

瞼に涙が溜まって来て、画面が歪んで見辛い。



最後のフォルダ

「 」

を開いて見始めた時、

溜まっていた涙はボタボタとこぼれ、

嗚咽も我慢出来なくなった。



 高3の9月にキャプテンとして出た、情報番組の俺と、今の俺が交互に出てくる様に編集された動画だった。

角度や表情を合わせ、過去と現在を比較する様な作りで、成長が一目でわかる。

ソン・ユンの成長アルバムの様だった。



「はぁ…うっ、はぁ、はぁ、くっ、あぁ…」


久しぶりに号泣した。

アミに振られて以来だった。



(何で昔の映像アイツが持ってんの?見てくれてるとは思ってなかったな。 あぁ!このフォルダ!わかった! わざと名前付けてないんじゃなくて、思い付かなかったんだ! あいつらしい! 何も変わってねぇ…!!)




―― くっそかわえぇなぁああ!!!




 やってやるよ。


 会えるまで、毎日通ってやる。

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