第40話 答え合わせ

 具体的に何かを言うわけではないが、ウソクがイライラしている。

受け答えがピリピリとキツくなっていて、あの優しかったウソクでは無くなっている。


「携帯番号、そりゃ変わるだろ。」


 などと言われて


「私に言われても知らないから。」


 としか、答えられなかった。


――――――――――――――――

 翌日、バイト中に考えるのはユンの事ばかりだった。


 携帯番号を変えた事が分かる。

ということは、大学に入学した後に連絡してみたという事だ。

単純に嬉しかった。


 私のプレゼントした、バスパンとTシャツを着て見せた事。


 私には


「こないだはあんな事言ってごめんな。」


 と、言われている様に感じた。



 私のアルバイトをしているレンタルDVDのお店は、大手の有名なチェーン店で、私の居る店舗は2階建ての大きなお店だった。


 レンタルに限らず、書籍やPC関連の周辺機器なども置いていて、品揃えは豊富だ。


 どうしても欲しいものが出来て、すぐさま買いに行きたいけれど、ウソクとは買いに行ける物では無かったため、面接をしてくれた社員であり店長に頼んでみようと考えた。

今回ばかりは、衝動を少し抑えないといけない。




「お疲れ様です。」


「あ、お疲れ様。今日のPOPも良く出来てたね。」


「あぁ、ありがとうございますっ(笑)」


 パソコンに向かっている店長の様子を見ながら、話しかけた。


「あの、店長。いま発注中ですか?」


「うん、そうだけど、どうかしたの?話し聞けるよ?」


「いえ、そうじゃなくて。買いたい物があって、一緒に発注してもらえないかなと思いまして。」


「何?簡単に売ってない物なら発注出来ないかもよ?」


「どこにでもある様な物なんですけど、このお店には欲しいのがなくて…。探しに行く時間が無いんですよね。」


「え、何?」


「USBなんですけど、1TBのが欲しくて…。このお店、その容量のはないじゃないですか?だからお願いできますか?」


「イチテラバイトのUSB!?」


「はい…、それも純正のちゃんとしたやつが欲しくて。」


「そんなの、めちゃくちゃ高いよ?」


「はい。わかってます。それでも欲しいんです。」


「じゃあ、見てみようか。」


 と、言ってパソコンで調べてくれた。


「一応あるね。1テラ。」


「データを吹っ飛ばしたくないんで、ちゃんとしたやつが良くて…。あ、それ!それが良いです。」


「これ?」


「はい。黒のを一個お願いします。」


「わかったよー。 たっけ!」


「高いですね(笑)人生で1番高い買い物です(苦笑)。」



 有名メーカーの、どこででも見る無難なものを選んだ。

3日後のバイト帰りに買う事が出来る。


(バイトしてて良かったぁ。)


――――――――――――――――

 昨日の日曜日は、朝から晩までずっとウソクと2人で過ごした。

どこかに行くのはお腹が空いた時だけで、ずっとウソクの部屋に居た。

いつもと変わりはなかった。


 なのに、今日は朝から不機嫌な顔をしている。

週に2回のお楽しみ『喫茶アポロ』で過ごす時間が無駄に感じるほどだった。


 だけど、責められない。


 今日は撮影があるからだろうと思う。


 私がずっと好きだった人が、ユンだと気付いた節は無い。

ただ単にイラつく様だった。


・ 

――――――――――――――――――

 撮影3日目


 今日はユニフォーム着用練習の日で、密かに楽しみにしていた。


 ユニフォーム姿のユンはやっぱりカッコよくて目が離せない。

紫、青、白で構成されたユニフォームでみんなカッコよく見えた。

この迫力とカッコ良さを収められる様にするにはどうすれば良いのか?

撮影中はただそれだけを考えて夢中で撮った。


 この日は特に話は出来なかったが、よく目が合う様になった。

どうしてもユンを見てしまう。

ウソクにバレない様に気を付けながら見ていた。


――――――――――――――――

 USBを発注してから三日後のシフトで買う事が出来た。

私にとってはあまりに高くて、お金を払う時に手が震えた。

でも嬉しかった。

手に入ったからと言って“実行”はまだ出来ない。

ここも慎重に。

衝動を抑えた。



――――――――――――――――

 撮影4日目のユニフォーム着用練習も何ごともなく終わった。


 今日は藝大でのインタビュー撮影。

休憩の度にサークル部屋の隣のスタジオに向かい、あーでも無いこーでも無いとセットの準備をしていた。



「ダメだな…。」


「先生が分からないならお手上げですよ?」


 カメラの映像が、スタジオにあるPCに上手く表示されない。

コードの問題か、PCが悪いのか。

それともカメラか…。


 スタジオは滅多に使うことが無いのでカ、メラの状態が把握出来ていなかった。


「4時半か…。もう30分で来てしまうな。キム・アミ。」


「はい。」


「私たちはスタジオの準備をしているから選手達をお迎えに行ってくれ。スタジオの準備が終わるまで足止めしといて貰いたい。そこの部屋に通す訳にはいかないからな。」


 サークル部屋では、2年1年の部員が編集をしたり打ち合わせをしたり活動をしている。


「わかりました。」


「終わったら連絡を入れる。」


「はい。」



 選手達には、17時に藝大2階の空中庭園に集合で伝えてある。


 16時45分。



「おう。」


 不意に、ユンに声をかけられた。


「早いね。他の人達は?」


「1人で来た。」


「そうなんだ。」


「ア、アミは…1人?」


「あ、うん。案内係。」


「じゃあ、少し話せる?」


「うん。」


 いざ話すとなると、何から話せば良いか分からない。

数十秒の沈黙があった。



「引っ越したの?」


「あぁ、うん。そう。お父さんが単身赴任から帰って来たタイミングと、私の入学が一緒でね。」


「そっか。」


 また沈黙。

その時だった。



「アミちゃ〜ん!」


 ユナに声をかけられた。


「おぉ。どうしたの?」


「ヒョヌ先生にずっとレポート渡して無くてぇ。今日こそは渡そう!って思ったら職員室に居ないんだよー。」


「あぁ、だって今スタジオに居るもん。撮影があるから準備してるよ。」


「行っても平気かなぁ?」


「いま渡されても困るだろうから、明日にしたら?先生に言っといてあげるから。」


「ほんと!?ありがとう!!」


「お、お、お前たち、どうなってんだ??」


 ユンが、オロオロと声をかけた。


「えー!?ユンくんだったの?久しぶり!」


「あぁ。って、あれ?アミの事知らないって言ってなかったか!?」


「うん、知らなかったんだけどぉ。ごめんね!ユンくんの部屋で卒業アルバム見ちゃって。んで、こうなってます!」


「いや、全然わからねぇから!」


「あれだね、アミちゃん本当に良い子でさぁ。ユンくんが何で好きだったかよく分かるよ!」


「ちょっと…何なんだよ…」


「じゃあね!」


 ユナは颯爽とその場を離れて行った。

気恥ずかしい空気が流れる。


「あ、あの、そう、ユナちゃん元気で可愛い子だよね。」


「あぁ、そうだな…。」


「でも長続きしなかったみたいだね?」


「どいつもこいつも、俺と付き合っても面白く無いみたいだよ。」


「そうなの??」


「俺が楽しく無いから。向こうも楽しく無いんだろ。」


「今までずっとそんな感じ?続かないの?」


「うん。3ヶ月以上は続かない。アミは長いの?彼氏と…。」


「もう、2年かな。」


「2年…。」


「あ、そうだ、私がここに居る事何で知ってたの?」


「あぁ、バスケ部のジヌと願書出しに行っただろ?」


 私たちの通っていた高校は、受験する大学が一緒の生徒でまとまって願書を出し、一緒に受験をする決まりになっていた。


「うん。」


「ジヌに聞いたんだよ。どこ受けんの?って。そしたらここって。その後、職員室の前で先生におめでとうって言われてるアミを見かけたんだ。」


「あぁ、そうなんだね。」





「アミちゃん!!」


 驚き振り向くと、ウソクが怒りながら向かって来ていた。



「何で電話に出ないの!?何回もかけてるのに!」


「あ、ごめんねっ。気が付かなかった。」


「話なんかしてるからだろ!」


「ごめん、ごめん。もう準備出来たのかな?(焦)」


「出来たよ。もう、何なんだよ。」


「ごめんね。」




《ユンside》


何だよ、ケンカしてんのか?

そんな顔して何回も謝んなよ。ムカつくな。

そんな顔してんなら知らねぇよ?



俺の身の振り方、変わってくるからな?

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